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デザイン家電を超格安で! 意思決定の早さが低価格実現のポイント
展開している事業・特徴
2015年8月6日、1人家電メーカー「UPQ(アップ・キュー)」の代表・中澤優子氏が、5億円の機材が使えるものづくり拠点「DMM.make AKIBA」(東京・秋葉原)で、設立および製品発表を行った。
第一弾となる製品群は、なんと17種類24製品。50インチの4Kテレビが7万5000円、Android 5.1搭載のスマートフォンが1万4500円、1400万画素のアクションカメラが1万5500円など、既存の同等品を大幅に下回る低価格に会場はどよめいた。
ちなみに、UPQの商品コンセプトは『生活にアクセントと遊び心を』。製品のアクセントカラーはBlue × greenだ。
中澤氏が製品開発に着手したのは、創業1カ月前の2015年6月。翌7月に会社を設立し、8月6日に製品発表・生産・販売を開始。開発からわずか2カ月で製品発表までこぎつけた理由は「意思決定のスピード」にあるという。
中澤氏はもともと、カシオ計算機で携帯電話の商品企画などを担当。音声、画像、映像、通信といった技術要素が集積されている携帯電話を開発するなかで、ものづくりのボトルネックは、各種の承認や判断を行う意思決定にかける時間にあると気づいていた。しかし、決裁社が1人であれば即断即決で進められる。製造については家電ベンチャーとして有名なCerevo社の協力のもと、製造ノウハウなどのサポートを受け、また製造品質の高い海外の工場なども紹介してもらった。
製造は中国、韓国、台湾、香港などの工場に委託し、そのスケジューリングや物流・コントロールも中澤氏1人が行ったという。
発表会の様子は、多くのネットメディアなどで報道され、瞬く間に話題となった。すぐに注文が殺到し、具体的な販売数は非公開だが、わずか2週間で当初予定していた3~4か月分の販売計画の7割ほどにあたる予約を受け付けた。特に4Kディスプレイとアクションスポーツカメラが人気で、緊急増産体制に入ったという。中澤氏は取材時に、「最初の製品は売り切れればいいと考え、増産の予定はまったくなし。予想以上の売れ行きに戸惑ってしまいました」と語ってくれた。
メーカー勤務、フリー、カフェ経営……。
Cerevo岩佐氏との出会いをきっかけに家電メーカーを立ち上げ
ビジネスアイデア発想のきっかけ
1984年生まれ、30歳という若さで女性起業家となった中澤氏は、中央大学卒業後、カシオ計算機に入社。商品企画担当として、携帯電話の開発に携わる。話題となった、自分撮り機能「美撮りモード」を発案。もともとはau向けのフィーチャーフォン「beskey」や「CA007」などの全キャリア向け製品開発プロジェクトなども担当した。
会社員として最後に担当したのが、スマートフォン「MEDIAS W N-05E」。背面にもディスプレイが用意された折りたたみ型で、ヒンジに強いこだわりをもっていたカシオならでのスマホであった。
しかし、カシオが携帯から撤退することになったため、2012年に同社を退職してフリーランスに。そして翌2013年、「カシオ時代の同僚や先輩エンジニアがいつでも集える場所を秋葉原につくりたい」という思いが膨らみ、カフェを開業。お酒が入ると愚痴っぽくなるので、ノンアルコールのカフェ形態にしたそうだ。
転機となったのは、2014年に「au未来研究所」が開催したハッカソンへの参加。そこで彼女が発表したIoT弁当箱「X Ben」(エックス・ベン)が話題となる。ものづくりの情熱が再燃し、その後もいくつかのハードウェアコンテストに応募。経済産業省のフロンティアメイカーズ育成事業に採択され、そこでメンターとして出会ったのが「DMM.make AKIBA」の仕掛け人・小笠原治氏と、Cerevoの岩佐琢磨氏だった。
カシオ時代の経験から家電開発の大変さが痛いほどわかっていたため、「ベンチャーで家電メーカーなんて無理」と考えていたが、Cerevoの岩佐氏にくわしく話を聞いたことで、やれるという自信がうまれUPQの創業を決断。
そもそも起業志向や独立志向などはなかったという中澤氏。今風のキラキラした起業家像で見られることに違和感があるという。単にものづくりについてくる泥臭い仕事が好きというだけなのだ。この事業を立ち上げる際も、簡単に売れるわけがないので、商品を担いで売り歩く覚悟をしていたという。
実際、中澤氏は、カシオ時代の先輩たちから「昔は営業カバンに電卓を詰めて1件1件売って回っていた」という話を聞き、「自分も商品を手に売り歩いてみたい」と思っていたそうだ。そんな、ユニークな発想の持ち主でもある。
ハイスピードで次のチャレンジへ。3カ月単位でステージを変えていきたい
将来への展望
中澤氏に今後の展望を伺ったところ、「今は、予想以上の反響に驚くばかりで、1年先も見えない状態です」と言う。
同社の製品は「DMM.make Store」で販売・予約受付中。DMM.make Storeに一旦在庫を入れて、そこから注文、発送という流れとなっている。増産計画は大きな悩みだが、同時に次につくりたい製品構想も「いっぱいありすぎて困っている」そうだ。第2弾、第3弾の製品計画も水面下で進行中だ。
また、現在はDMM.make Storeでの通販のみだが、今後は実店舗での販売も計画しているという。
中澤氏は、「今までやったことのないことをやりたい。そのためにも、とにかくハイスピードで仕事をする。3カ月単位でステージに変えていく感覚で仕事をしていきたい」と語ってくれた。
また、彼女は、無茶なことをクリアすることに快感を覚えるタイプと自己分析している。UPQの立ち上げに際しては、オフィスに泊まり込み、銭湯に通って仕事をしていたという。
そんな情熱的・精力的な中澤氏だが、カシオの携帯電話からの撤退には、今も苦い思いがある。なぜ日本の家電メーカーが弱体化しているのか。その理由はさまざまだ。急速な変化に対応できなくなっていることもその要因の1つ。また、日本の大企業は社内コストが高くなりすぎている。それではどうしても製品価格を押し上げてしまう。さらに、社内での意識決定のプロセスが複雑になりすぎている。そんな環境では、挑戦する社員が増えないのは当然だ。
結果的に、大手家電メーカーの中堅クラスのエンジニアは行く先がなくあぶれてしまっている。そんな課題を、1人で解決できるとは思えないが、少しでも、ものづくりへの情熱を持ったエンジニアが活躍できるような場をつくることは、今の自分にでもできる。そうした中澤氏の思いが、UPQ創業の根底にあるように感じた。
株式会社UPQ(アップ・キュー) | |
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代表者:中澤 優子氏 | 設立:2015年7月 |
URL: http://upq.me/ |
スタッフ数:2人 |
事業内容: スマートフォン、スーツケース、アクションスポーツカメラ、キーボード、イヤホン、等の家電・家具の企画・製造・販売。 |
当記事の内容は 2015/9/1 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。