医師が「アプリを処方」する時代へ。数万人が利用する疾患治療アプリ「Welby(ウェルビー)」

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

「Welby(ウェルビー)」が築く、医師が“アプリを処方”する新時代。
展開している事業・特徴

20150824-1成人にとっては身近でありながら、あまり意識されない、生活習慣病の代表とも言える糖尿病。国際糖尿病連合の発表によれば、日本の糖尿病患者数は世界ランキング10位で、成人の721万人が糖尿病に罹患。一般男性の約6人に1人は患者であるという(IDF「糖尿病アトラス 第6版 2014 UPDATE」および厚労省「2013年国民健康・栄養調査」より)。

自覚症状がなく症状が進む、“サイレント・キラー”との異名を持つ糖尿病は、一度患者となれば、治療はもとより、体のコントロールは必須。病院などでの診療だけではなく、日頃行う健康管理が、症状の改善と合併症を防ぐキーポイントとなる。しかし、それが、難しい。医師から渡される「糖尿病連携手帳」や、「自己管理ノート」といったものがあるにしろ、食事のカロリーや栄養素、血糖値、血圧、薬の服用などを事細かに毎日記録し、管理していくのは、自分のことといえども、ビジネスパーソンなど、忙しい身の上には特に骨が折れることだろう。

今回取り上げるのは、そんな糖尿病患者における健康管理をスマート化。健康を見える化し、自分のカラダを知ることができるアプリ・シリーズ「Welby(ウェルビー)」。

血糖値、血圧、食事管理の“ノート”といった形式で展開される同アプリ。それぞれの管理に必要な項目が用意されている。

例えば、血糖値ノート。血糖値やインスリン、ブドウ糖が入力でき、それらをカレンダーで管理が可能だ。また、1週間分の血糖値の変動をグラフ化してくれるので、専門的な解説を持たずとも自分の血糖値が一目瞭然である。また、食事ノートでは、カロリーや栄養素を自動算出してくれる機能も搭載。コンビニのインスタント食品なども検索でき、総カロリー数も一目で確認可能。さらにアルバム機能もあるので、画像ログを残すこともできる。医療というと、専門用語など聞きなれない言葉の連続で、一般に扱いづらいイメージがあるが、同ノート・ラインアップは各事項がインフォグラフィック化されており、非常にわかりやすく、かつ使いやすい。

そしてこれらのアプリを、よりアクティブにするのが、「Welbyシェア」と「Welbyマイカルテ」だ。

Welbyシェアは、自分の管理状況を医師や家族と共有できるアプリ。各記録内容をタイムリーに共有でき、“応援”アイコンやコメントのやりとりが可能となっている。糖尿病治療にとって懸念材料となる、治療中断を防ぐべく、患者のモチベーションを支えるためのものである。

Welbyマイカルテは、自分でカルテを作成できるアプリ。ノートと連動し、入力データを日内変動、週間、月間、年間などでグラフまたはリスト化できる。さらに、月単位での一覧表をPDF化、プリントアウトでき、診療時にそのまま提出も可能だ。いわば、前述した自己管理ノートなどの代替となるが、長期の糖尿病患者ほど、既存ノートではなく、自作する傾向にあるという。そこを踏まえつつ、ユーザーが扱いやすく、かつ医師が確認しやすいように考慮したのが、Welbyマイカルテである。

これらのアプリは、2011年のリリースした「Welby糖尿病」からスタートし、具体的な利用者数は非公開とのことだが、開発・運営元である株式会社ウェルビー代表取締役の比木  武氏によれば「もうすぐ10万人に達するレベル」という事で、疾患患者向けPHR(アプリ、Web)として国内最大級の会員数になるという。もちろん利用は無料。登録はiTunesやGooglePlayから直接行えるが、医療機関に置かれたパンフレットや、医師からの紹介によるユーザーの流入も多いという。つまり、医師が治療の伏線として、Welbyを「処方」しているのだ。

同サービスの導入医療機関数については、2015年8月時点で千数百施設に達する。ビジネスモデルは医療機関との契約によるが、基本的には医療機関、健保組合など施設単位で契約し、当該施設内での必要なID数による利用料月額課金の料金体系をとっている。

また、徳島大学病院との産学連携など、糖尿病治療にまつわる複数の実証実験にも利用されている。

海外で賑わうPHRだが、国内市場は黎明期。そこに注目し、事業をスタート!
ビジネスアイデア発想のきっかけ

20150824-2PHRとは、パーソナル・ヘルス・レコードの意。要約すれば、自分の体調や服薬履歴を自らが管理することである。海外に目を向けるとアメリカでは、民間が中心となる医療制度、さらにオバマ政権が医療分野のIT化を促進していることから、PHRは盛んで、さまざまなサービスが展開。コンシューマー向けの注目株で言えば、マイクロソフトの「HealthVault」、iTunesアプリ「Glooko」などが挙げられる。

一方で、国内市場と言えば、電子お薬手帳などもあるにはあるが、前述した自己管理ノートなど、ペーパー主流であり、大体的にITを活用したサービスがこれまで存在しなかった。このエアポケットに着目し、誕生したのがウェルビー社である。

代表取締役を務める比木武氏はもともと、2014年にマザーズ上場を果たしたメドピアの立ち上げメンバーの一人で、Health 2.0 Tokyoの発起人でもある。また、それ以前にはアメリカのベンチャーにてシリコンバレーのIT企業の日本マーケット向け事業にも携わっており、海外ITと医療系サービスへの深い造詣を持つ。その両輪を強みに、展開したのがWelby というわけだ。

Welbyのビジネスモデルとしては、提携健保組合や医療機関からの課金となるが、同アプリは医師側にとっても十分なメリットがある。入院施設を持つ病院は減少を続ける一方で、無床診療所は右肩上がりを続ける近年、競合は厳しい。その反面で同サービスは、患者と医師をつなぐツールとしても活躍するからだ。また、資料を一元化できる機能から、医師の診療の効率化も担っており、医療者が抱える課題のソリューションとしても注目を集めている。

ウィルビー社には現在、医師はじめ医療者資格を持つスタッフが在籍。また30名を数える医師アドバイザーとも提携しており、社内体制も強力な布陣を構築。
創業4年、「苦労は毎日」と比木氏は笑う。だが、スタッフ、アドバイザー医師ともに掲げる、「ITで新しい医療のカタチをめざす」という、大志がビジネスを推進させているとも話す。

医療機器製造販売業免許取得から、エビデンス取得へ。新たなメディカルツールが、医療を変える!
将来への展望

比木氏にウェルビーの今後の展開について伺ったところ、近々にはがん対応のアプリのローンチを控えており、さらに今後うつ病などの疾病にも対応していく予定だ。また、2014年6月にローンチしたアプリ「まいさぽ」は、ユーザーの健康管理をトータルにサポートするだけではなく、製薬メーカーなどの新しい情報提供の場としても注目を集めているという。

同社は今後も、Welbyラインアップや「まいさぽ」、そしてオウンドメディアの「Welby Media」が担う、「ログ(記録)」、「コミュニケーション(応援)」、「学び(教育)」といった3本柱で、包括的な治療支援サービスを推進とともに、一層の普及を図っていく構えだ。

さらに、直近のトピックとして、同社は2015年8月に「医療機器販売業免許」を取得と発表した。これは2014年11月に施行された「薬機法」において、ソフトウェアが規制対象になったことを受けたものである。

これを期にして、同社は第3期のサービスとも呼べる事業を本格化。現在、ウェアラブルを活用した、治療支援サービスの開発を進めており、計測機メーカー大手で知られるテルモ、タニタなどのメーカーとも順次連携を進めている。

また、これまで健保組合および医療機関で疾病治療サポートツールとして活用されてきた成果を学術論文として発表する予定。医療ITのエビデンス取得が現実のものとなれば、シェアは加速度的に拡大すると予想される。

近年の医療機能の別分化に伴い、ともすれば医療者と患者とが乖離している感を否めない現代の医療。ふたたび、双方にとってよりよい環境をつくり、患者を健康へと誘うのは、ウェルビーのような会社なのではないだろうか。これからの医療界、そして日本にとって、医療系ベンチャーが担う役割は非常に大きいだろう。

株式会社ウェルビー
代表者:比木 武氏 設立:2011年9月
URL:
http://www.welby.jp/
スタッフ数:25人
事業内容:
・疾患ソリューション事業
・PHR事業
・医療データ調査事業

当記事の内容は 2015/8/27 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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