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ヒットのポイントは「すぐに使えるリアルなフレーズ」と「ネイティブの発音」。リアル中国語会話アプリ
展開している事業・特徴
日本政府観光局の統計(※1)によれば2014年の訪日外国人観光客は1341万人。そのうち中国からは333万人(中国・香港の合計)と、実に4人に1人を占める。2004年には同613万人で中国からは91万人なので、この10年で2.1倍、中国からの観光客は3.6倍にも伸びている。
また、中国人観光客の旺盛な購買力が「爆買」とニュースになることも多いが、急増する観光客に対応する観光地や店員の悩みの種は中国語での会話や、日本人には聞き分けの難しい中国語独特の発音「拼音(ピンイン)」だろう。
※1) http://www.jnto.go.jp/jpn/reference/tourism_data/visitor_trends/pdf/2013_15_tourists.pdf
今回紹介する「リアル中国語会話」というアプリは、480円という有料ながら中国駐在者や訪日中国人の応対をしている飲食店などのスタッフに支持されている、実践的な中国語会話アプリだ。2014年5月にローンチし、2015年4月は現行版のVersion1.1をリリースした同アプリだが、日常会話から接客業や宴席などで使う表現を53カテゴリに分けて、合計で1100以上のフレーズを会話形式の音声で収録している。また、67ジャンル・1500以上の単語も音声付きで収録している。同アプリを開発・運営する株式会社マジェステックではほかにも「中国語・ピンイントレーニング」「超・中国語耳ゲー」という2本のアプリをリリースしており、累計で5万ダウンロードを超えている。
すべてのフレーズがシーン別に会話形式になっており、例文はテキストと音声で確認可能。データはダウンロードする方式なので、ネットにつながっていないオフライン状態でも使えるようになっている。
またSiriを活用した発音練習と3種類のリスニングクイズ機能や、アプリに日本語で話しかけると音声認識して例文の検索もできる。次回更新版では中国語でも音声認識による検索を実装する予定とのことなので、中国人が日本人とコミュニケーションする際にますます使えるツールとなっていくだろう。
同アプリがヒットしたポイントは、「すぐに使えるフレーズ」だ。収録されているフレーズはユーザからリクエストを聞いて、それをもとに毎日追加をしているという。例えば、店頭での商品のご案内や会計時の「小包装にしますか。」「保冷剤はおつけしますか。」など。つまり、ありきたりな会話ではなく、利用現場に即した実践的なフレーズが揃っている。急増する中国人観光客の応対をしなければいけない小売店や飲食店のスタッフなどで「すぐに使えるアプリ」として人気となった。
日本語教師から、中国のテレビ局でキャスターに転身。そして日中友好のビジネスを模索して起業
ビジネスアイデア発想のきっかけ
「リアル中国語会話」を開発・運営する株式会社マジェステックは2011年11月に設立されたベンチャーだ。創業者の藤崎 裕子氏は、元々日本語教師アシスタントとしてニュージーランドに滞在中、知人から「中国のローカルテレビ局でアナウンサー、キャスターを探している」という話しを聞いて、中国のテレビ局でアナウンサーに転身した。
もちろん最初は中国語が話せないため、ゼロからの習得だったが、現地の大学に留学し中国語を猛勉強。HSK(漢語水平考試)6級を取得後、現地の会社で就職をしながら日本人向けび日本語番組でキャスターを続けた。
そうした苦労がのちに『リアル中国語会話』の構想につながる。藤崎氏は2008年に日本に戻り、IT企業でアジア市場調査を行う仕事をしていたが、もともと独立志向があり、また中国での経験を活かして日中交流に携わる仕事がしたいと考え、訪日中国人観光客向けのアプリが作れないかと構想を固めて、2011年11月に起業をした。
しかし、当初の計画は失敗に終わった。中国IT企業と共同で企画・開発するも2012年秋の反日の過熱でアプリのリリースを前に本事業企画の続行を断念。
訪日中国人観光客向けアプリを断念したものの、日中双方のビジネスに関わる機会が多く、言葉の違いや多くの日中間の商習慣・文化の違いによる相互の誤解を目の当たりにし、やはり日中交流の役に立つサービスを立ち上げたい、という思いが再燃。
そうして2013年3月にリリースしたのが「中国語耳ゲー」という無料アプリだった。聞き分けの難しいピンインのリスニング力を鍛えるため、似た発音の単語を聞いて2択から正解を選んで遊ぶというゲームだった。これがテレビ東京の番組で紹介された事もあり、HSKや中国語検定の資格取得の学習者に広く受け入れられた。
ほぼ同時期、「リアル中国語会話」の開発を進め1年半の開発期間を経て、2014年5月にリリースした。同アプリに収録されている音声は、自然な発音に拘り、ネイティブの中国人スタッフによって1フレーズづつ実際に録音を行った。そのため、コンピューターで人工的に合成した不自然な発音ではなく、すべてが自然で綺麗な発音の音声になっている。
アプリの機能の1つとして、フレーズ中の単語をタップすると同じジャンルの単語をリストで表示し音声を確認できるため、実際のシーンに合わせたフレーズの応用が可能となっている。
ちなみに、中国語といっても地方によって「方言」があるため、そうした違いもカバーしているそうで、北京、大連、上海のスタッフとともにフレーズの制作を行っている。
当面の目標は20万ダウンロード。さらに中国向けに日本語学習サービスの投入も。アプリビジネスを通じて日中友好に寄与したい
将来への展望
藤崎氏にこれからの展望を伺ったところ、当面の目標は20万ダウンロード。これは、日本国内での中国語学習人口が10~20万人ということから試算した数字だ。2015年8月時点ではiOS版のみで展開しているが、Andorid版の開発も計画中との事。
また、中国語会話以外では、訪日中国人向けに音声を利用した日本人と中国人間でのコミュニケーションアプリなども検討している。特に旅行代理店などと連携して、インバウンド収益を狙ったビジネススキームなども構想している。例えば会話アプリや観光案内アプリからO2Oで小売店や飲食店、レジャー施設などに誘導するといった具合だ。
そして、最大のマーケットである中国本土に向けた、日本語学習サービスの投入も視野に入れている。このアプリの詳細については非公開とのことだが、早ければ年内、遅くとも2016年にはリリースする構えだ。
こうしたアプリビジネスを通じて日中友好に少しでも寄与したいというのが藤崎氏の想いだ。実際に中国で約6年間滞在していた経験から、報道されているような反日感情は表向きのことで、実際の中国人は日本に対して好意的な方も多数いる。距離的にも文化的にも近い中国だが、言葉の壁で相互理解が進んでいない面もある。そうした壁がなくなれば、本当の意味での友好関係が醸成されるだろう。
21世紀中には米国を抜いて世界最大の経済大国になることが予想されている中国。これからの日本にとって日中関係はより大きなテーマになることは間違いなく、さまざまなビジネスチャンスがあることも間違いないだろう。
株式会社マジェステック | |
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代表者:藤崎 裕子氏 | 設立:2011年11月 |
URL: http://majestech.jp/ |
スタッフ数: |
事業内容: 日中・中日語学学習アプリの開発・運営。日中ビジネスサポート |
当記事の内容は 2015/8/11 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。