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「職人の手仕事」というこだわりで成功。ベンチャーが立ち上げた革製品ブランド「Alt81(オルト。ハチジュウイチ)」
展開している事業・特徴
ものづくりの街、蔵前で生まれた「Alt81」という革製品のブランドがある。立ち上げたのは2012年6月に設立されたばかりのベンチャー、株式会社IchitogoManufacture(イチトゴマニュファクチャー)。
「Alt81」は2013年7月に立ち上がったブランドで、職人が手作りで一点ずつ仕上げるこだわりの革製品を、企画・生産・販売まですべて行っている。取材を行った2015年6月時点でまだスタートしてから2年あまりだが、特注品やオーダーメイドものではないにもかかわらず、常に順番待ちで生産・入荷されしだい、すぐに売れていく人気を博す。こだわりの商品だが、価格はリーズナブルで、財布などで2~3万円、鞄などでも6~10万円程度。現在は1か月で50点前後を生産・販売している。
価格がリーズナブルな理由は、中間流通コストを抑えるため直販のみ。浅草・蔵前にある直営店とWebショップのみで販売している。デパートなどに卸して販売すると価格が跳ね上がってしまうめため、一般的な流通に乗せていない。また、宣伝・集客もWeb上だけで行っており、宣伝コストも極力抑えている。
リーズナブルな価格でも品質は非常に高い。その理由は素材へのこだわりと、腕利きの職人の存在。特に素材へのこだわりは徹底しており、日本では「Alt81」でしか扱っていない特別な革を用いた商品もある。また、十分な品質の材料が手に入らなければ、その商品しだいを生産中止してしまうそうだ。そうしてブランド価値を維持・向上させている。実際、素材の開発・選定には非常に時間をかけているそうで、素材選定だけで数カ月におよぶこともあるという。
「職人の手仕事」という点へのこだわりも徹底している。職人といいつつ、単に経験年数が長いから良い職人というような基準ではなく、重要視しているのは確かな品質を実現できる技術やセンスがあるかどうかを基準にしている。
「Alt81」には「日本の考え方を形にする」というブランドコンセプトが根底にある。例えば、縫い終えた糸処理の仕方1つとってもミシン目に押し戻す作業「糊止め」という手法にこだわったり、あるいは長財布の角にあたる曲線部分のカーブを緩やかにすることで開閉時の引っ掛かり感をさらしスムーズに使えるといったこだわりのポイントがある。
IT業界から革製品の世界に飛び込み、業界の危機的な状況を打破すべく起業
ビジネスアイディア発想のきっかけ
「Alt81」を立ち上げた株式会社IchitogoManufacture(イチトゴマニュファクチャー)代表の高崎真行氏。もともとはWebプロモーション・マーケティング会社に4年間勤めた後、革製品を生産する会社で4年間のキャリアを積んで、2012年6月に起業した。
日本の革製品職人は大メーカーの下請けがほとんどで、非常に安い報酬体系になっている。そのため担い手が減り続けており、そうした状況に高崎氏は強い危機感を持った。
そこで、職人の待遇改善を含めた業界自体の改革を志して起業した。当初はコンサルタントとして職人自体を支援するサービスをはじめたものの、大企業と違って職人はいわゆる零細企業であり、当然ながら資金的余力もなく、いくら優れたマーケティングやプロモーションプランを提案しても、そうした攻めを実行する経営体力がない。実行が伴えないのでは机上の空論でしかなく、そもそも説得力に乏しい。
高崎氏は起業早々にしてコンサルタントという立場で業界を変えるのは困難だと気づいた。これでは業界を変えるどころの話ではない。そこで自分ら企画から製造、販売まで行うこと、つまりブランドそのものから立ち上げることを決意した。ブランド作りが成功すれば、大きな実績にもなり、説得力が生まれるからだ。
そうして2012年12月にブランド事業を開始、2013年6月には蔵前に店舗兼事務所も開設した。しかし、商品の製造は苦労の連続。わずかなサンプル商品しかない状況からの立ち上げだが、まずはどのような商品にニーズがあるか、お客様はいくらなら買いたいのか。さまざまな声を聞きながら商品企画を進めた。
商品の製造自体も簡単ではない。品質へ徹底してこだわると決めた以上、納得のいく素材を選ぶところから時間をかけた。製造自体も早くて2カ月。鞄のような大きな商品だと半年はかかる。それも職人の空き状況しだいによって変わるという状況だった。
しかし、そうして出来上がった商品の良さは、分かる人にはすぐに伝わった。「Alt81」の噂は口コミで広がり、購入希望者は後を絶たなく、在庫はすぐに完売。順番待ちになった。
なかには、店頭に飾っていたサンプル品でも良いから買わせてくれと懇願するお客様まで現れた。在庫が入るしだい、売れていくといった人気ぶり。あまりに問い合わせが多いと対応できないため、宣伝も控えていると高崎氏は語る。蔵前の直営店を開くのは週4日だけ。商品の生産待ちになることが多いため、このような体制にしているという。
目下の課題は生産数の限界。腕の良い職人が限られているため、どうしても生産できる数量に限界がある。また品質の良い素材の入手も大きな課題の1つだ。
目標は日本の手工業の復権
将来への展望
実は革製品を取り巻く状況は厳しい。原料である革自体が手に入りづらくなっているというのだ。原因の一つは中国や東南アジアの急速な経済成長に伴う革需要の拡大。世界的に需要が拡大しているので革の争奪戦が各地で繰り広げられている。特に革の下地となる原皮が手に入りにくくなっているという。
そうした厳しい背景があるものの、新ブランド「ALT81」の立ち上げには成功した。今後は「Alt81」の認知度向上をさらに進めていき、前述した課題をクリアして安定した生産拡大を図るのが、当面の課題だ。
さらに、より求めやすい低価格帯の新ブランド立ち上げも検討しているという。
高崎氏の目指すところは、日本の職人が安心して生きていける世界を作る事。良いものを作れば、相応の報酬が得られるという、当たり前を実現すること。それが出来れば現在の後継者不足・担い手不足も解消し、技術の継承も自然と行われる。そうした業界変革にまさに挑戦している。
株式会社IchitogoManufacture(イチトゴマニュファクチャー) | |
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代表者:高崎 真行氏 | 設立:2012年6月 |
URL: http://ichitogo.com/ http://alt81.com/ |
スタッフ数:5名 |
事業内容: 手工業におけるコンサルティング業務および製造販売業務 |
当記事の内容は 2015/6/23時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。