疲労状態を可視化できる、それもスマホアプリで簡単に。過労による大事故を防ぐベンチャー「フリッカーヘルスマネジメント株式会社」

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

「フリッカー値」を使って疲労度を数値化:過労防止で安全安心・健康増進!
展開している事業内容・特徴

20141222-12012年に関越自動車道で起きた高速バスの大事故を覚えている方も多いだろう。運送・運輸業者は苛烈な競争にさらされており、運転手が過酷な勤務に従事している事が社会問題視されるようになった。事故の原因は居眠り運転によるものとされているが、疲労管理が無かった事による疲労蓄積で事故が起こったと考えられており、疲労度計測の必要性が指摘されている。

しかし、多くの場合は問診・運行状況の確認しかされていない。こうした業種では一度の事故が大きな損害をもたらしうるので、より適切な労働安全管理が必要になる。運送・運輸業者にとどまらず、労働者の過労問題を抱えている業界は多く、それこそ命に関わる事態になれば企業にとって大きなリスクになりかねない。

疲労とは誰でも起こる事であり、ビジネス的にも採算ギリギリでの経営であれば、過労自体を無くす事は不可能なため、それを何とか生理的疲労状態(休めば回復する状態)にとどめて、適切に労働安全管理を行う事が重要である。

今回紹介するのは、スマートフォンやPCで客観的に疲労を計測出来るシステムを開発・提供している「フリッカーヘルスマネジメント株式会社」。2010年5月に設立されたベンチャーだ。

疲労度を測る指標として使われているのが社名にも使われている「フリッカー値」である。光が高速で点滅している状態だと人間にはそれが点滅していると認識出来ないが、その点滅の速度(周波数)を落としていくと、ある時点で光が点滅している事が認識出来る(ちらついて見える)閾値が存在する。この閾値をフリッカー値と言い、疲労が蓄積しているほど「ちらつき」を認識できる周波数帯域が低くなる傾向が分かっており、人間の疲労度を客観的に測る指標として有効なものであると考えられている。

唾液などで疲労を図る方法もあるが、唾液での測定は数値が不安定で労働現場に導入しにくいが、フリッカー値では変化が顕著に検出できる。

従来は低コストで簡単に疲労を計測出来るものが無かったが、フリッカーヘルスマネジメント社では、スマートフォンやPCで客観的に疲労を計測出来るシステムの開発に成功し、企業などに提供している。同社のサービスの目的は過度な疲労状態を発見すること。「生理的疲労状態に留める」ことで、大事故を未然に防止しようという目論見だ。

実はフリッカー値による検査法自体は1941年から存在し、70年以上の研究されてきている。しかし、これまでのフリッカー値測定装置は「高価(1台60万円)」・「大型」・「計測時間が長い」・「ユーザーがチラツキを認知出来ているかどうか外部から確認できない」と問題が多く、なかなか普及しなかった。

しかし、フリッカーヘルスマネジメント社では、安価で簡単に適切なフリッカー値の測定方法を提供する事に成功した。従来の装置は3分ほどの計測を5回行わなければならないものに対し、同社のシステムでは1回の疲労度測定につき10秒ほどの検査を5回行うだけでよく、普段使っているPCやスマートフォンにアプリを入れるだけで測定出来る。しかも、従来のフリッカー値測定装置とほぼ同様の測定精度を持っているという。

同サービスは2012年10月にAndroid無料アプリ「FHM_Lite版」という形でスタートし、「FHM正規版 for Android、for iOS」、「FHM Safety for Windows」、などを展開している。

運送業や運輸業以外に導入されている例としては鉄道会社がある。鉄道会社で運行ダイヤが変化した時は労働者に大きな影響を与えやすいが、フリッカー値が一定以下に減少しないように運用されている。建築関係でも注目されているとの事だ。

市場としては、従来型の専用の計測装置を用いる企業や、心拍数で疲労計測を行う企業なども存在する。マーケット上は競合しているものの、同社ではそれら既存のサービスとは相補的なものであるとして、共創関係を維持しながら発展していければと同社代表の原田暢善氏は考えている。

すぐに生活の中に受け入れられると思って自身の研究分野をビジネスにしたが、「ライフスタイルを変える」事は大変である事にも気付いた。
ビジネスアイデア発想のきっかけ

20141222-2フリッカーヘルスマネジメントの代表取締役である原田暢善氏は、元々は大学で脳機能マッピングの研究をしており、その過程でさまざまなチラツキの変化(光による瞳孔の縮小など生理学的変化)を見るうちにフリッカー値の可能性に気付き、フリッカー値を簡単に測れるサービスは売れると確信し、まずは「ガラケーでフリッカー値を測る」という事で特許を取得して、研究所の支援でベンチャー企業を起ち上げたのがきっかけだ。

ガラケー用のシステム開発は2008年にスタート、2010年5月にはスマホ用のシステム開発も始め、スマホ用のシステムがアプリやPCアプリなどは2011年半ば以降にリリース。基礎研究に2年強、事業化して実用化への開発にさらに1年強、合わせて3年強の開発期間を要した。

しかし、当初の予測とは異なり、最初は全然システムが売れなかったようである。というのも、ヘルスケアというのは「ライフスタイルを変える」事に他ならず、なかなか受け入れられなかったようだ。原田氏は、本当は「通勤電車の中で始業前と就業後に計測してほしい」と考えているが、計測にかかる僅かな時間でさえライフスタイルを変える事は大変である事を痛感したそうである。そこで最初は企業の中で「やらなければならない」という所から導入する戦略に変更している。それが前述の交通安全管理であり、まずはB to Bを中心に着実な成果を挙げている。

技術面では、当初は「ガラケー」での測定システムの開発に苦労したようである。というのも、ガラケーはインターフェイスが統一されていない事により、機種依存性が強かったようである。最初はガラケーの充電機能のLEDで試行したが一機種でしか実現出来ず、その後、バックライトの点滅で開発したが、これにも機種依存の問題がついてまわり、普及を阻害する多くの問題となっていた。そこで携帯電話の主要な情報表示装置である液晶画面を用いて、その性質をそのまま活用することでフリッカー値を計測する技術を開発した。点滅光のチラツキ感覚の変化を周波数の変化で行っていた従来方式に対して、点滅光の輝度(明るさ)を変えることでチラツキ感覚を変化させフリッカー値を計測する技術を確立し、日本国内および米国に特許申請を行い特許が成立した。スマートフォンの登場が本技術の普及を促進する大きな原動力となったようである。今でこそ「ソフトウェア・アプリケーションがあれば特別なハードウェアは要らない」のが技術革新・強みの一つとなっているが、それに至るまでに相当な試行錯誤があったと述べている。

運輸業で導入して実験を重ねる中で分かってきた思いがけない効果の1つとして、フリッカー値測定システムは単に疲労状態を客観的に把握出来るだけでなく、企業で導入する事で「疲労や運転に対する意識」が向上するようになり、また管理側とドライバーのコミュニケーションも向上したということである。一見数値だけで職場を管理するように見えて、システムを媒介にして労働者も上司も意識が変化したというのが興味深いと指摘している。

また、フリッカー値を計測し続けていくと、週の始めはフリッカー値がもっとも高く、週末にかけて疲労が蓄積していくとフリッカー値が低下していく傾向が見られた。健全な労働環境が維持されていると、休日に休む事で再び週明けにフリッカー値は回復する。フリッカー値のピークが週明けであるとは限らないが、重要なのは「ウィークエンドエフェクト」と呼ばれるフリッカー値の週周期が確認される事であり、休む事でフリッカー値が回復しない場合は、無理のあるライフサイクルを送っている可能性がある。

1年に渡って大量のデータを収集した結果、フリッカー値が低下している(疲労度が蓄積している)時は「始業時」の時点でフリッカー値が低い傾向がある事が分かっており、始業前と就業後に1回ずつフリッカー値を計測する事で、適切な労働安全が出来ることも分かった。

また、朝6時頃が事故の発生率のピークであるが、事故率とフリッカー値はほぼ連動しているという。フリッカー値を適切な水準に維持する事が、「自己申告」だけでは分からない労働環境の問題を明らかに出来る可能性がある。

疲れを軸にした、全く新しいマーケット・マーテケィング手法の創出を構想。
将来への展望

フリッカーヘルスマネジメントのシステムを導入している企業としては、大規模な運送業者が多いが、大企業はそもそも労働環境の管理が手厚い傾向があり、むしろ問題は中小の運送業者だ。小さな企業ではなかなか労働安全管理にまで手が回る余裕が無いが、労働安全管理を行う事で事故が減れば、結果的には収益的にも得である事が認識されれば、同社のサービスは浸透していくのではないかと考えている。

また、原田氏の構想では、B to Bだけでなく、B to Cの分野、例えば「通勤電車のなかで普通ビジネスパーソンにも使ってもらう」というのが将来的な目標だ。

ホワイトカラーや一般事務といった職域でも過労は大きな問題となっており、ウィークエンドエフェクトが見られるかを検討して、労働環境が健全であるか判断基準として使ってもらえるよう、同社では取り組みを進めている。「健康経営」という言葉があるように、労働環境を適切にした方が結果的には労働生産性が高まる方向に持っていければと原田氏は考えている。

無料アプリのさらなる普及による、新しい市場が見えてくるとも考えている。例えば、Twitterでの「つぶやき」やGPSデータなどとフリッカー値を連動させることで、地域毎の「疲れの情報」が視覚化され、新しいマーケティングに繋げられる可能性があるという。

今はまだ一部の企業への導入に留まっているが、B to BからB to Cへのロードマップ、さらにはビッグデータと組み合わせた全く新しいマーケットの創出など、疲れを軸にしたビジネスの可能性は非常に大きい。今後の活躍にぜひとも注目したい企業だ。

フリッカーヘルスマネジメント株式会社(Flicker Health Management Co.,Ltd.)
代表者:原田 暢善氏 設立:2010年5月
URL:
http://www.fhm.co.jp/index.html
スタッフ数:4名
事業内容:
・簡易疲労計測システムの開発、販売およびサービスの提供
・健康計測に係わるシステムの研究、開発

当記事の内容は 2015/1/13 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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