ひっ迫する電波帯域の枯渇、電磁障害、セキュリティ問題などを解決する、革新的な無線通信システムが登場「株式会社アウトスタンディングテクノロジー」

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執筆者: ドリームゲート事務局

目に見える可視光を使ったデータ通信を事業化。既存の電波通信が抱えていたさまざまな課題を解決!
展開している事業内容・特徴

20141125-01我々の生活空間にはさまざまな電波が飛び交っている。例えば、テレビ、ラジオのほか、携帯電話、スマホ。オフィスや自宅で無線LANを使っている方も多いだろう。電磁波は身体に少なからず悪影響を及ぼすという説もある。携帯電話の使用を禁止している病院も多いが、これは電子機器の誤作動を防ぐためで、電波障害、電磁障害と呼ばれている。

また、電波帯域の枯渇問題もある。スマホやタブレットなどのモバイル端末の普及に伴い、利用する電波帯域がひっ迫しており、今後普及するであろうウェアラブル・デバイスなども視野に入れると、無線通信の需要はますます拡大するだろう。

今回紹介するのは、まったく新しい切り口の無線通信機器を開発・事業化しているベンチャー、株式会社アウトスタンディングテクノロジーだ。

同社は可視光通信の事業化に挑んでいる。可視光通信を簡単に説明すると、照明などの光を通して通信を行うというもの。同社は2007年6月に設立、研究開発を続け2014年8月に可視光通信機器の商品化に成功した。先の9月からサンプル品の出荷を始めており、2015年3月には正式販売をスタートする予定だ。

利用方法はシンプルで、天井などにある照明口にLEDの親機を設置し、パソコンのUSBにつなぐ子機が親機からの光を受け取ってデータ通信を行う。親機までは通信ケーブルや電力線を通じてデータを送信する。通信速度は5~20Mbps。これはオフィス内などのLAN環境と遜色のない速度だ。

同社はこれを「照明無線LANシステム」と呼んでおり、強い電波が使えない病院や医療施設、発電所など非常に高い安全性が求められる社会インフラ施設内での利用を見込む。ちなみに、社会インフラを担う施設は、電磁障害に対して99.9999%の安全性が求められるのだ。また、既存の電波は不正侵入される恐れがあるため、重要な電子情報をやり取りする金融機関なども顧客ターゲットとなるだろう。

特に安全性という点で、可視光通信は電波通信と比べて優位だという。電波はその性質上、どうしても拡散してしまうので、強力な電波シールドを施さない限り、不正侵入を完璧に防止することが難しい。オフィスビルや発電所内で、そのための躯体工事を行うとコストがかかりすぎる。しかし、照明無線LANシステムなら既存の照明設備をそのまま使え、また光をさえぎれば簡単に遮蔽できるわけだ。

照明が光っている時がデータ通信中であるため、警備も楽になるだろう。業務時間以外に照明がついていれば、不正なデータ通信だとわかる。内部関係者が企業の情報漏えいにかかわることが多いといわれているが、照明無線LANシステムによる通信の「見える化」がトラブルの抑止力も高めてくれるのだ。

親機の予定販売価格は25万円、子機が1万円。売上見込みは2015年で3億円、2018年で35億円を計画している。同社代表の村山文孝氏は、2020年に世界で93億ドルの市場に成長するとみている。

最初はソフトウエア会社で起業。可視光通信の将来性に賭けた新たな挑戦
ビジネスアイデア発想のきっかけ

20141125-21991年、村山氏は名古屋で、ソフトウェア会社・プランナーズランドを設立。現在も同社のCEOを務めており、24期連続黒字経営を続けている。教育関連の情報システム、例えば大学でのキャンパス内情報システムなどを手掛けていたが、とある中高一貫校の情報システムを構築するプロジェクトで、「プレゼンス・マネジメント」というテーマに出合う。プレゼンス=生徒の位置情報を把握するシステムをつくりたいという要望だった。

そのオーダーがきかっけとなり、無線通信で位置情報を把握する研究を始めた村山氏は、可視光通信という技術を知ることになる。これは面白い技術だと感じた村山氏は、そのオーダー仕事を完了した後も、そのまま研究を続けた。そして、本格的に可視光通信の事業化に取り組むため、2007年6月、株式会社アウトスタンディングテクノロジーを設立。しかし、得意としていたソフトウエアではなく、ハードウエアの開発は勝手が違う。当初は1、2年あれば事業化できると踏んでいたが、それほど簡単な道ではなかったのだ。

まず可視光通信の技術自体の完成度を上げるため、基礎となる要素技術の研究をしつつ、一方で製品として世の中に出すための研究開発も行うという、二面展開を続けなければならなかった。膨大にかかる研究費に準備していた資金はすぐに枯渇し、村山氏自身が個人資産を投じたり、大企業からの援助や第三者割当増資などを受けるなどして、7年間の開発期間をなんとか乗り切った。その間の2009年、関西電力から電子障害を発生させない通信システムを構築したいという話が届いた。この相談が、照明無線LANシステム開発のきっかけとなったそうだ。

そもそも可視光通信の商品化・量産化に取り組むのは同社が初めて。そのため必要となる部品から開発していかなければいけないが、製品化にはコストの問題もある。試作品はコストを度外視すればつくれるが、市販品のコスト問題は非常にシビアだ。また、部品の供給体制なども整えなければならない。ちなみに同社では、重要部品の1つである受光器を開発し、国際特許を取得している。

可視光通信という技術自体は古くから知られ、実用的電話の発明で知られるグラハム・ベルが世界で初めて無線電話に成功した際、可視光通信を用いている。また、日本では中川正雄博士(前・慶応義塾大学理工学部情報工学科教授、同大学名誉教授)が先駆的に研究を進めている。

しかし、事業化に成功する企業は出なかった。市場自体がないこと、基礎技術の完成度、コスト問題。そうした難問をすべてクリアして、同社が世界に先駆けて可視光通信の製品化に成功したのだ。実はこの技術に目をつけているベンチャーは多いが、村山氏はこの分野では世界のトップを走っている自負もあり、自社製品の完成度を見せると、みな降参してしまうそうだ。

可視光通信事業は、オーケストラのようなもの。日本の持つ強みを総結集して日本発の技術として育てていきたい
将来への展望

村山氏によれば、2018年までは製品販売を通じて市場そのものを育てることに注力していき、その後に要素技術の提供に集中したいという。

村山氏は、可視光通信自体は電波通信を補完する役割と見ている。技術的な優位性でいえば、少し専門的になるが、電磁両立性(electromagnetic compatibility、EMC)と呼ばれる、電気・電子機器が発する電磁妨害波がほかのどのような機器、システムに対しても影響を与えず、またほかの機器、システムからの電磁妨害を受けても自身も満足に動作する耐性があげられる。また、電波通信に付きまとう帯域問題もなく、通信自体が光なので遮蔽が容易なこと、また水中での高速通信も可能という点があげられる。しかし、電波通信インフラがこれだけ整備されている現在では、それに置き代わるものというより、その不足部分を補う技術・製品となると考えているのだ。

もう1つ、可視光通信のメリットとして、通信をとても狭い範囲に限定できる点を村山氏は力説する。可視光通信なら30センチメートル単位で制御できる。例えば、美術館で絵画1枚ずつに当てる照明ごとに違う情報を載せられる。絵画の照明の下で、受光素子をつないだタブレットをかざせば絵画情報がダウンロードできる。これは従来の無線技術では困難な仕組みだ。そうした非常に狭い範囲での位置情報サービスを構築できるのも強みとして、「commulight(コミュライト))という名称で、コンテンツ配信システムを提案している。発電所や病院などだけではなく、多くのユーザーが触れられる場所でも可視光通信を広めていきたい考えだ。

最後に村山氏にこれからのビジョンを伺ったところ、以下のコメントをいただいた。
「将来的には、技術オリエンテッドな会社にしたい。安くものをつくることはアジアに敵わなくなっているので、技術的な優位性を維持しつづけられるかどうかが重要。可視光通信の事業は、オーケストラのようなもの。アナログ技術からデジタル、通信、ものづくりと、これまで日本が得意としてきた分野を総結集しないといけない。非常に難易度が高いため、さまざまな技術者がまさにオーケストラのようなチームを組む必要がある。実際、当社の研究チームのエンジニアには、経験豊富な50才以上のものづくりスペシャリストが集結。可視光通信は、日本ならではの技術。日本発の技術として育てていきたい」

株式会社アウトスタンディングテクノロジー
代表者:村山 文孝氏 設立:2007年6月
URL:
http://www.ot-c.co.jp/
スタッフ数:10名
事業内容:
直流電力線通信、可視光通信技術の研究、開発および通信モジュール、受光素子の開発、販売

当記事の内容は 2014/12/2 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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