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プロに教えてもらえるプログラミング学習サービス。この秋には法人向けサービスも開始予定
展開している事業内容・特徴
労働力不足が社会問題となっている。特にIT人材は採用が非常に難しい。スマートフォンやタブレット端末が普及し、ビジネスシーンでもプライベートでも、ITサービスへのニーズは高まる一方。それゆえ、サービスを開発するITエンジニアが圧倒的に不足している。メガバンクなどの大型システムの刷新、2016年に運用開始が計画されている社会保障と税の共通番号「マイナンバー」のシステム構築などで、2016年までに国内のITエンジニアが30万人不足するという報道もある。
人材不足の要因は、急速なIT利用のニーズに対して教育が追い付いていないことが大きい。ITが行政を含めたほぼ全産業に渡って活用されているのに対して、大学や専門学校でコンピューターサイエンスを学ぶ学生数の絶対数が不足している。また、実際の現場とは乖離した教育内容のため、企業側が採用後に教育し直すことも多く、IT人材不足感がどんどんふくらんでいく。
こうした背景から、最近人気なのがIT人材の教育サービスだ。今回紹介する「Code Camp(コードキャンプ)」は、動画チャットを使ってプロのITエンジニアからマンツーマンのレッスンが受けられるというもの。運営するのは株式会社トライブユニブ。2012年12月に設立し、2013年10月にサービスを開始したベンチャーだ。
同サービスでは、レッスン15回のベーシックコース(税別48000円)、レッスン45回のスタンダードコース(税別12万8000円)、レッスン105回のマスターコース(税別29万8000円)という3つのメニューを用意しているが、平均受講単価は20万円とかなり高額である。
動画チャットで受けられる手軽さと無料の体験レッスンなどもあるなど、敷居が低いことも人気の1つだが、ユーザーは真剣にITスキルを身に着けようとしている。それが平均受講単価20万円という金額からも伺える。
利用者数などについて同社代表の池田洋宣氏に伺ったところ、正確な会員数や売り上げなどは非公開だが、ユーザー数はすでに1000人を突破しているとのこと。収支的には、まだサービス開発やプロモーションに投資が続いている段階だが、コストを絞れば黒字可能な水準まで来ているそうだ。
同サービスのユニークな点は、現役のITエンジニアから直接教えてもらえること。テキストはすべて同社が用意したもので、主にWeb系サービスの開発に必要なスキル(HTML、CSS、Java Script、PHP、MySQL)などが学べる。
講師数は2014年8月時点で65名。講師になるためにはITスキルがあるのは当然だが、「教える側」としてのコミュニケーション力を重視しており、講師の合格率は5割程度。
動画チャットのインフラとしてはGoogle社のハングアウトというサービスを利用している。また、プログラムを書くための専用ツール(オンラインエディター)を同社が用意し、オンライン上で生徒が書いたプログラムを、遠方にいる講師がその場で添削したり、コメントすることも可能。もちろんチャットを通じて会話もできる。
講師となるエンジニア側のメリットは、仕事の空き時間などに副収入が得られることにある。特にフリーランスのエンジニアは仕事が常にあるわけでもなく、大きなプロジェクトが終了し、次の仕事が決まるまで時間が空くことも多い。そうした余白時間を「売ってください」という仕かけだ。
また、マンツーマンという方式も講師に好評だ。セミナーなどで多人数を相手にするのは緊張するが、マンツーマンなら後輩の相談に乗る感覚で指導にできるという声が届いている。
一方の生徒側も、自分の理解度に合わせて進められる個別指導型はメリットが大きい。プログラムの勉強というのは、とにかく最初の敷居が高い。大学などでC言語を履修したもののポインターあたりで躓いた方も多いだろう。そのため、最初をしっかり丁寧にマンツーマンで教えてもらうというのは、プログラムを学習する際に効率的なのだ。
ユーザーには個人のビジネスパーソンが多いため、ピークタイムは平日夜と土日の朝。2014年秋から法人向けサービスも正式にリリースする予定だという。法人向けには新卒向け、内定者向け研修などの需要が高いという。
また、非エンジニア向けのニーズも増えている。ビジネスパーソンに必要な二大スキルといえば、英語とITだが、日本国内では英語はそうそう使うシーンも少ないが、ITは日常的に使えるスキルだ。例えば、マーケティングデータの分析・処理用のプログラムを自作したり、社内向けの情報告知のため専用のWebページを自分でつくれれば、外注コストもかからず生産性も高まるだろう。そうしたちょっとした業務を営業やマーケティング担当者が自力でこなせるようにしたいという企業側のニーズは潜在的には非常に高く、トライブユニブ社では今後、そうした非エンジニア向けのサービスも拡充していく考えだ。
IT人材の不足はビジネスチャンス。IT企業勤務時代の同僚と一緒に起業
ビジネスアイデア発想のきっかけ
トライブユニブ社は2012年12月に池田氏が前職を退職し1名で設立したが、実質的なスタートは2013年6月頃。現経営陣である鈴木浩章氏(取締役/CTO)と米田昌悟氏(取締役/COO)が実質的な創業メンバーだ。
3名の関係だが、池田氏と鈴木氏は株式会社サイバードでの同僚。池田氏と米田氏は株式会社ビジネス・ブレークスルーで一緒だった。
池田氏が起業を意識したのは中学生の頃。世界を変えるような人間になりたいという漠然とした想いから、政治家やスポーツ選手ではなく、起業家に憧れた。尊敬する起業家はソフトバンクの孫正義氏や日本電産の永守重信氏。
早稲田大学を卒業後、有名ITベンチャーであるサイバードに入社。Webディレクターとして、クライアントのモバイルサイト企画や広告制作を担当した。サイバードに入ったのは起業を意識してのことだったが、ITのほうかにもう一つのテーマとして「教育」を考えていた池田氏は、実際にIT×教育という分野で成長していた株式会社ビジネス・ブレークスルーに転職。オンライン大学が開学した1年目より広報・マーケティング業務を担当した。
ビジネス・ブレークスルー社には2年在籍し、2012年12月に退職して起業した。会社員時代から事業計画を考えたり、プロトタイプの開発をしていたが、なかなか進捗しない状況に苛立ち、逡巡していても仕方ないと、背水の陣のつもりで起業を決意。設立時の資本金は100万円。自分の貯蓄から捻出した。
池田氏はまず、ベンチャーキャピタルのインキュベーションファンドが主催するキャンプに参加。そこで事業プランを練り上げていった。2013年6月には一緒に起業しようと誘っていた鈴木氏や米田氏も参画し、資本金を300万円に増資。本格的なサービス開発に入った。プログラムをオンラインで、それもマンツーマンで教えるというサービスは前例がなかったため、サービス開発は手探り状態。ネットを通じた教育サービスで先行しているのは英会話の分野だったため、レアジョブやラングリッジなどを参考にしながら開発を進めた。
インキュベイトファンドからもシードマネーの出資を受け、2013年10月にはサービスを開始。競合としてはCodecademy(コードアカデミー)やドットインストールなどを意識しているそうだが、同社の売りである「プロがマンツーマンで」という点が成功のポイントだ。
その後、2014年3月にはサイバーエージェント・ベンチャーズから4000万円の出資も受けた。また、拠点をサイバーエージェント・ベンチャーズのSTARTUP Base Camp(スタートアップベースキャンプ)に移している。
教育×ITで世界を変えるインパクトを。2018年のIPOを目指す
将来への展望
池田氏に今後の展望を伺ったところ、2018年にIPOという計画のもと、事業を進めているという。
現在は経営陣3名に社員が1名、アルバイトや業務委託のメンバーなどを含め計10名の体制。来年にはCampを出て自社の事務所を構えたいという。
池田氏にこれから起業する人向けのメッセージをお願いしたところ、インキュベーションプログラムに参加するのはお勧めという回答をもらった。というのも、ビジネスパースンであれば上司や顧客という相手があるので、締め切りや達成目標が明確で自然と頑張れるものの、経営者になるとそんな相手がいなくなる。理想を突き詰めるといつまでも開発してしまったり、プランづくりに熱中して、肝心のサービスインが進まないといった失敗に陥る。しかし、インキュベーションプログラムでは定期的に発表の場があり、メンターもいて厳しい意見ももらえる。そうした環境が前に進む原動力になるという。
人間は強いようで弱い。自分を追い込む環境に身をおかないと、どうしても楽なほうに流れてしまう。そうした意味で、インキュベーションプログラムに参加したことはとても重要だったと池田氏は語ってくれた。
最後に池田氏からのコメントを紹介したい。
「誰でも起業した方が良いとは思わないが、どうしてもやりたい事があれば、後悔しないように一度は挑戦してみたほうがいい。後悔したまま生きるより、まずは挑戦することが大事だと思います」
株式会社トライブユニブ | |
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代表者:池田 洋宣氏 | 設立:2012年12月 |
URL: http://corporate.tribe-univ.com/ |
スタッフ数:10人(アルバイト、インターン含む) |
事業内容: ・現役エンジニアによるオンラインマンツーマン個別指導のプログラミングスクール【CodeCamp】の運営。 |
当記事の内容は 2014/9/11 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。