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牡鹿ならではのニーズ、コミュニティを活かしたスモールビジネスで成功。
展開している事業内容・特徴
宮城県石巻市の牡鹿半島に「漁網100%」「OCICA」というハンドメイド商品のブランドがある。立ち上げたのは、一般社団法人つむぎや。大阪生まれの30歳の青年、友廣 裕一(ともひろ ゆういち)氏が2011年10月に設立した団体だ。
「漁網100%」は、鮎川浜・新山浜と呼ばれる、漁港のある町に暮らしていた女性たちが2011年5月から作るミサンガのブランドだ。驚くのはそのクオリティ。カラフルな色使いに加え、編み方も30種類ほどあるという。作り手によってタグが異なるうえに「漁網100%」という表示も面白い。ひとつとして同じデザインはないように見える。完成したミサンガは、つむぎやのメンバーの知り合いを通じて国内の野外イベントや、ハワイの店舗などで販売している。
つむぎや代表の友廣氏は言う。「普通は同じものを量産しようとしますが、全く同じものをつくろうとしない。お母さんたちのあのクリエイティビティには圧倒されますね。」
つむぎやが次に仕掛けたのは「OCICA(おしか)」。牧浜と呼ばれる地区のお母さんたちの手仕事で、鹿の角を活用したハンドメイドアクセサリーだ。ネックレス、ピアス(イヤリング)があり、価格はそれぞれ2,800円と5,800円(税込み)。
牡鹿半島はその名のとおり、鹿が多く生息し、昔から水難・海難のお守りとして鹿の角を使ってきたという。当初は、自分たちで考えた鹿の角のキーホルダーをつくって売ってみたが思うように売れず、プロのデザイナーを探すことになった。鹿の角という素材を扱えるデザイナーがほとんど見つからない中、知人の紹介でデザイナーの太刀川氏に出会えたのがOCICAのターニングポイントとなった。
そこからお母さんたちとのワークショップを実施し、何をつくりたいのか、浜には他にどういう素材があるのかなど聞き出した情報を元に、現在のプロダクトのデザインに落ち着いた。
鹿の角という特徴的な素材と手仕事ということから、当然ひとつひとつに違いはあるが、個性際立つ「漁網100%」と違い、プロのデザイナーによるデザインと設計に基づいて作られている。
これらハンドメイド商品のビジネスモデルはレベニューシェア。女性たちが作ったアクセサリーをつむぎやが預かり、売れたところで、作り手、つむぎや、デザイナーとで利益を分ける。
2013年2月からは「東北マニュファクチュール・ストーリー」というWeb媒体を立ち上げ、運営している。これは震災後に、新たにはじまったものづくりの背景にある物語を共有するメディアとして、今も継続的に情報を伝えている。
2014年3月末からは東北(現在は、岩手・宮城・福島)3県で、丁寧につくられた暮らしを豊かにしてくれるような商品を販売する「TOHOK」というブランドを立ちあげた。被災地支援に長く携わってきた友廣氏だからこそ、「復興支援」から離れ、 “いいものが欲しい”という消費者の本質的なニーズを元に、東北のものづくりに関心を持ってもらう仕組みをつくりたいという想いがこめられている。
「TOHOK」は、東北に昔からあるもの、新しく生まれたものをセレクトおよびリブランディングしているブランドだ。商品の背景にあるストーリーと共に、丁寧に商品が紹介されている。
昔から伝わる会津漆器や南部鉄器、竹細工や漆のほか、会津木綿のストール、お米からつくられた石けんや消臭剤など、現代ならではの商品も取り揃えている。
「贈る」をコンセプトにしているため、つむぎやオリジナルギフトパッケージがあり、すべての商品はメーカー直送ではなく、つむぎやから発送される。このパッケージの評判がよく、時にはメーカー自身が、問い合わせてきた購入希望者に「TOHOK」を案内することもあるという。
「TOHOK」で扱う商品は、通販のほか、渋谷ヒカリエなどで行われる都内の催事やイベントなどでも購入可能だ。
「お茶っこ」は仕事があってこそ。浜のお母さんたちの声から生まれた新事業。
ビジネスアイデア発想のきっかけ
一般社団法人つむぎやが設立されたきっかけは、2011年3月の東日本大震災。震災当時(3月17日)、友廣氏がある団体からの依頼で被災地支援に携わることになり、牡鹿半島に長期赴任したことがきっかけとなった。
友廣氏は早稲田大学在学中に、授業の一環で新潟のある限界集落を訪れたことがあるという。大阪の郊外都市で育った同氏にとって、その村とそこに暮らす人々との出会いは大きな転機となった。
「まだ知らない、人が暮らす”地域”をもっと知りたい。」そう思った友廣氏は、大学卒業後、日本各地の限界集落を訪ね歩いたこともある。
そこには、後の東日本大震災で被害を受けた東北の沿岸地域も含まれていた。少なからず、東北とは縁があったのだ。
友廣氏は被災地支援の滞在先として、都市部ではなく、むしろ沿岸地域の方がいいと自ら希望した。牡鹿半島は支援先として偶然訪ねることになった地域だった。
そこでさまざまな人と関わりを続けるうちに、「仕事」の必要性を痛感することになる。
牡鹿半島に限らないことだが、当時の被災地では、物資が支給されるので買い物に出かける必要がなかった。当然、仕事もないので外出する機会は減る。仮設住宅では住民同士が集えるイベント「お茶っこ」が催されるが、毎日続けても話す内容がなくなる。
特に浜に暮らす人々は、養殖牡蠣の剥き作業や、わかめの芯抜きといった仕事をして、休み時間や終了後に、「お茶っこ」をするのが自然であり、日課だったのだ。
しかし震災によって仕事がなくなり、日常的に行われていたコミュニケーションも失われていった事が、人々から活力を奪っていた…。こういう状況を見て「仕事」が必要だと痛感した友廣氏。何かいい方法はないかと模索する中、浜の女性にはそのポテンシャルがあることに気がつき、ハンドメイドアクセサリーのブランド立ち上げに至った。
つむぎやが現地で信頼を深めていくうちに、お母さんから新たな相談を受けることもあった。
「(漁師の)お父さんが穫ってきた海の幸で、いつか食堂のようなことをやってみたいと思っていたの。」
この話を聞いた友廣氏は、その場で食べられる食堂ではないが、「ぼっぽら食堂」という弁当屋の立ち上げにも携わった。弁当はひとつ500円。多い時には一日100食以上をつくることもあるという。
震災後、小さなコンビニがひとつしか残らなかったその地区では、主に工事関係者からのニーズがあった。お母さんたちが言う。「わざわざ遠くからやってきてくれているのだから、浜の美味しいものを食べさせてあげたい。」
最近の被災地全体に言えることだが、単身赴任で滞在する工事関係者の中には、食生活が乱れ、体を壊す人も出てきているという。
手軽に食べられる弁当という形態と、事前予約という方法をとることで、廃棄ロスのない低リスクのスモールビジネスとして成功したが、牡鹿半島の工事関係者の健康を支える、貴重な存在にもなっている。
アクセサリーもお弁当も、浜仕事とは違うが「仕事」ができたことでお母さんたちは少しずつ前を向けるようになっていった。
それは誰のためのビジネスか、その存在意義を考えながら、ステークホルダーとのよりよい関係性を紡いでいく。
将来への展望
友廣氏に、今後の展望を伺った。始まったばかりのブランド「TOHOK」は試行錯誤の段階だという。「仕入れて販売するだけだと限界が出てきます。東北の作り手につむぎやが関わることで、作り手側にも買い手側にも、よりよいメリットが与えられるようになりたい」今後は作り手やメーカーと一緒に、オリジナル商品なども作っていきたいそうだ。
OCICAなどについては、作り手をどんどん増やしていくのかと尋ねたところ「右肩上がりのビジネスモデルではないので、それはない。」と意外な答えが返ってきた。
友廣氏は続ける。「浜のお母さんたちのための仕事としてスタートしたもの。作り手を増やしすぎて、誰にでもできる仕事にしてしまうと、彼女たちの居場所がなくなってしまう。その人じゃないといけない、属人的な部分って大事だと思うんですよね。」
応援してくれる人や、購入者の口コミでゆっくり着実に広がってきて、女性ひとりが作れる量も安定してきた。需要と供給を見ると、少人数で運営する浜のスモールビジネスとしてはちょうどいいバランスなのかもしれない。
最後に「つむぎや」のこれからを伺った中で、「役割」という言葉が印象に残った。「つむぎや」のビジネスは、友廣氏が限界集落を旅した中で東北の地域と関わりができたこと、震災という大きな出来事がきっかけで生まれた。今は「つむぎや」が東北に関わる「役割」があるからこそ続けているが、もし役割がなくなったとしたら、無理にそこにこだわり続ける必要はないと思っていると語ってくれた。
「その地域の人たちの考えに共感することがあって、自分たちに役割があれば、また新たな地で何かが始まるかもしれません。」
友廣氏は立ち上げた事業を継続するため、日々数字にも向き合いつつ、「役割」を大切にしている。今後、つむぎやの活動はまた新たな「役割」が生まれたところで始まっていくのだろう。
その時は、どのような出会いがあったのか、友廣氏に尋ねてみたい。
一般社団法人つむぎや | |
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代表者:友廣 裕一氏 | 設立:2011年10月 |
URL: 一般社団法人つむぎや https://www.facebook.com/TUMUGIYA TOHOK OCICA 東北マニュファクチュール・ストーリー マーマメイド |
スタッフ数:4人 |
事業内容: ・石巻・牡鹿半島の手仕事ブランド「OCICA」の企画運営、販売 ・一般社団法人マーマメイドの創業・運営支援、「漁網100%」ミサンガの販売 ・メディアの運営「東北マニュファクチュール・ストーリー」 ・東北の丁寧につくられたものを贈るブランド「TOHOK」 |
当記事の内容は 2014/8/26 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。