世界でも珍しい「米」由来のエタノールを武器に、米農家復活を目指すベンチャー「ファーメンステーション」。

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

東北の休耕田を活用し、米から高付加価値エタノール製造に取り組むファーメンステーション。
展開している事業内容・特徴

20140626_1株式会社ファーメンステーションは2010年から岩手県奥州市にラボを構え、米からエタノールを製造しているベンチャーだ。市内の休耕田だった田んぼに植えた非食用品種米を利用し、栽培は同じく市内の集落営農組合アグリ笹森に委託し、無農薬で栽培したものだ。

同社では年間2~3トンの米を仕入れ、数百リットルのエタノールを製造している。規模としては小さいが、実はこれがビジネスにとって大きな強みになっている。

バイオエタノールの製造を年産数百リットルという小規模プラントで導入できるため、投資額が少なく済む。農家一件単位での導入が可能なのだ。

こうしたプラントは通常数千万円以上の投資が必要なものが多いが、同社では小規模化できるよう試行錯誤を重ね、1台1000万円程度で済むプラントを独自に開発した。

もう1つのポイントは「地域循環」。生産したエタノールは消臭剤などの製品に使用されるが、製造時に出る廃棄物だった「蒸留残さ」を、市内の養鶏農家に販売している。この蒸留残さは餌としてとても有用なことが分かったため、従来ではあれば廃棄物として処分していたものからも、売上を上げられるようにした。

同社のエタノールは高付加価値を売りにしている。工業用エタノールは1リットルせいぜい100~200円といった価格が相場だが、同社のエタノールはその20~30倍の単価で売れる。米から製造したエタノールを高付加価値な商品として販売することで採算がとれる事業にパッケージしたのか同社のビジネスのユニークなポイントだ。

実際、取材時に市販のエタノールと同社の製造したエタノールの香りをかがせてもらった。鼻がツンとする市販のものに比べて、日本酒のようにまろやかな香りがした。

無農薬栽培された米を使用し、製造者が特定できるエタノールということが安心材料になるため、化粧品やアロマの原材料として引き合いが多い。

こうして同社ではオーガニックコスメやアロマオイルなどを手掛けるメーカーに原料として販売するほか、同社オリジナル商品にも使用している。

オリジナル商品は現在2種類。エタノールを使った消臭剤「コメッシュ」(1800円)と、蒸留残さと呼ばれる、蒸留過程でできた米もろみ粕や麹などを原料とした石鹸「奥州サボン」だ。これらの商品は、その背景にあるストーリーに共感した首都圏の高級雑貨店等でも取り扱いが始まっている。

石鹸も消臭剤も米由来ということから、特にエコや無添加を好む女性に人気がある。石鹸はその成分のよさから、特に中高年の女性が自分のために購入していく。消臭剤は発売間もないが、赤ちゃんのおむつ替えなどに安心なものを使いたいという育児中の女性からも問い合わせが多いそうだ。

発酵学、微生物への関心から会社員を辞めて農大へ。そこで出会った東北のバイオエタノールプロジェクトとの出会い。
ビジネスアイデア発想のきっかけ

20140626_2代表の酒井氏は会社員時代に発酵に出会い感銘をうけ、会社を辞めて、東京農業大学で発酵技術を学んだ。社名の「ファーメンステーション」とは、発酵(fermentation)と駅(station)をあわせて作った造語だ。「発酵技術を必要とする人や街、農村が駅になり、全国、または世界へ繋いでゆけるように」という酒井氏の想いがこめられている。

同社が奥州市にラボを構えることになったのは、当時酒井氏が所属していた研究室に、奥州市の自治体と農家グループが、バイオエタノールの実証実験の相談に訪れていたことがきっかけだった。奥州市は2006年に合併してできた自治体だが、合併前から、旧・胆沢町では、米農家の新たな収入機会の創出に取り組んでいたのだ。

東京農大で学んでいた頃から、将来的には発酵でビジネスを立ち上げたいと考えていた酒井氏。研究室の教授の計らいもあり、酒井氏は、奥州市バイオエタノールプロジェクトにアドバイザーとして就任。東京から足繁く岩手に通うことになった。

苦労を重ねながらも就任期間の3年間で、奥州市や農家、酒造メーカー等のさまざまな協力を得て、安定した発酵手順の開発、オリジナル商品の販売、原料から製品まで地域循環の確立など、さまざまな手ごたえをつかむことができた。

エタノールを選ぶ時代がやってくる。エタノールの買い取りも視野に、全国にバイオエタノール事業を広めたい。
将来への展望

20140626_3もともとは奥州市の実証実験として始まった事業だが、2013年4月からは、酒井氏が同社の事業として、奥州市から正式に引き継いだ。小規模で運営するラボには、全国各地から自治体や農業法人、一次産業従事者などの視察が絶えない。

視察に訪れたある酪農家からは、蒸留残さを餌の配合に使用するだけではなく、餌の長期保存の手段としても使いたいと申し出があるそうだ。この場合、酪農家にとって最終製品のエタノールは不要なので、同社が買い取りを行えば、両者にメリットがある。

さまざまな可能性が拓けてきている中、酒井氏に今後の展望を伺った。「エタノールを選ぶ時代がきっとやってくる。」酒井氏は語る。世界でも希少な顔が見えるエタノールとして原料販売の売上比率を高めること、小規模プラントをシステム販売し、全国各地にバイオエタノール事業を増やしていくことが当面の目標だという。

奥州市との「縁」から始まった小さなプロジェクトは、世界に羽ばたく大きな可能性を秘めている。

※酒井氏は6月19日に発表された、第3回DBJ女性新ビジネスプランコンペティションにおいて、特別賞「地域イノベーション賞」を受賞しました。

株式会社ファーメンステーション
代表者:酒井 里奈氏 設立:2009年7月
URL:
http://www.fermenstation.jp/
スタッフ数:4名
事業内容:
・バイオマスソリューション事業
・醸造・発酵情報事業
・環境コンサルティング

当記事の内容は 2014/6/26 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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