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専門知識は一切不要。二次元の“絵”から三次元の“モノ”が出来るドラえもんのポケット
展開している事業内容・特徴
平面に描かれたイラストを掲載するだけで、立体フィギュアが自動形成され送られてくるまるでドラえもんのポケットのような斬新サービスが登場した。サービス名は「Okuyuki(オクユキ)」。半年ほど前の2013年10月21日にローンチしたばかりだ。
利用方法は簡単。まず、ユーザはイラスト画像をアップロードして、フィギュア製作のプロジェクトを開始する。プロジェクトはクラウドファンディング方式、つまり目標数を超えた時点でプロジェクト成立となり、実際にフィギュアの製作が開始される共同購入サービスだ。そこから3Dデータ化、3Dプリント、発送まで、1カ月程度で購入者の手元にフィギュアが届けられる。
昨年から、大型家電量販店に専門の販売コーナーが設置されるなど、3Dプリンターは普及が著しい。しかし、3Dプリンターを活用する最大のハードルは、3Dデータの作成だ。
1枚のイラストから3Dプリント用の精度の高い3Dデータをつくるのは、その技術にたけた専門家でなければ難しい。フィギュア1体のデータを制作するのに、プロでも2、3週間はかかるそうだ。そんなプロに制作を依頼したとすれば、かなりのギャラを払わなければならないだろう。そもそも、個人がイラストデータを元に、製作依頼から3Dプリンターの手配、販売や発送も行うとなると、かなりの労力と費用が必要となる。
そこで、同サービスでは3Dデータを起こす専門家(モデラー)達とパートナーシップを組み、かつクラウドファンディングの仕組みを取り入れた。一定数以上の製造が確定した段階で製作プロセスに入る仕かけで、イラストレーター側は金銭的負担ゼロでフィギュア製作が可能となったわけだ。そして、イラストレーターには、「Okuyuki」の販売額の10%が報酬として支払われ、残りを3Dデータの製作費、3Dプリントでの製造費、発送費、手数料に充てている。
例えば、フィギュア1体の金額が1万円、100名が支援(購入)するプロジェクトとすると、総額原資は100万円になる。そのうちの10%、10万円がイラストレーターに支払われ、残り90万円がフィギュア化の費用に充当されるというわけだ。
ちなみに、イラストや同人誌の即売会で有名なコミケなどイベントの年間参加者数は公式発表で約59万人。イラスト系サービスで有名な「pixiv(ピクシブ)」の、2014年5月時点でイラスト投稿数は約4160万件、会員数は1000万人を突破しており、日本人はとにかく漫画やイラストが大好き。巨大マーケットといっても過言ではないだろう。
2014年5月時点で「Okuyuki」に登録されているイラスト・プロジェクト数は約150案件。そのうち、6件が成約して実際にフィギュア化されている。数としてはまだまだだが、先述したマーケット規模を考えると、一度火が付けばあっという間に広がる可能性があるサービスだと思う。
大手ITメーカーに28年勤務。生粋のエンジニアが50歳を過ぎて起業
ビジネスアイデア発想のきっかけ
「Okuyuki」を運営しているEmotional Brains株式会社の代表を務める横田洋一氏は、富士通やヒューレッド・パッカード社(HP社)で、エンジニアとしてシステム開発のプロジェクトマネージャーなどを務めていた。
祖父は製糸業を営んでいた実業家で、父はソニーのウォークマンの部品等を製造する会社を経営していた。そんな環境からか、横田氏も自然と漠然と起業について考えていた。しかし、大卒で入社した富士通で手がけたATM(現金自動預け払い機)のソフトウェア(ファームウェア)などをつくる仕事が楽しく、気づいた時には、富士通で8年、HP社で20年を過ごしていた。
50歳を過ぎたある日、人生を振り返ってみた横田氏。そこで初心に戻ってモノづくり、特にロボットを作る仕事をしてみたいと思い立ち、真剣に起業を意識するようになった。HP社に在籍しながらグロービス経営大学院のMBA取得コースに進み、そこでのさまざまな出会いが起業への具体的な道筋となった。
そしてHP社を退職し、2011年7月に会社を設立。この時、横田氏は51歳。創業メンバーは3名、資本金350万円でのスタートだった。実は最初から「Okuyuki」のビジネスモデルが頭にあったわけではない。人材教育サービスや3Dプリンターの販売事業などから開始し、時にはセミナーなどで講演を行いつつ、事業計画を書き直すこと数十回、ひたすらアイデアを練っていた中、たまたまホワイトボードに書いた1つの図が「Okuyuki」の原型だった。それを見た創業メンバーやブレストに参加していた人たちから、次々と意見やアイデアがあふれ出てきた。
「これはいける!」と直感した横田氏は、ビジネスモデルをまとめてベンチャーキャピタルを回った。サムライ・インキュベートの榊原氏にプレゼンしたところ、その場で投資が決定。調べたところ、まだ世界中で前例がない仕組みだったため、ビジネスモデル特許も申請した。
2013年7月にプレスリリースを発表。3Dプリンターとクラウドファンディングを組み合わせたエレガントなビジネスモデルということで、日経MJ、日経デザインをはじめ、世界中のメディアで取り上げられた。2014年4月にはソーシャルゲーム会社とも業務提携を締結。ゲームに登場するキャラクターのフィギュア化プロジェクトも開始している。
ロボット界のAppleを目指し、いずれは一枚の絵からロボットが製造できるサービスを提供したい
将来への展望
アニメやイラスト関連の市場は日本国内で1兆円、世界全体で34兆円といわれているが、フィギュアについては日本国内で300億円、世界全体でも1兆円。横田氏に今後の展望や市場について伺うと、「3~5年以内に100億円の年商達成を目指す」との答え。
また、いずれは事業を3次元サービスやロボット製作などにも広げていきたいと横田氏は考えている。詳しい話しはオフレコとのことだが、ロボット事業についてはすでに海外のベンチャーや研究者とも接触し、実現に向けて動いているそうだ。
「一枚のイラストからロボットが出来上がるようなサービスを世の中に出したい。SFのような話だが、そう遠くない未来に実現できる。すでに技術的な理論はあるので、あとはビジネスに乗せていくだけ。ロボット界のAppel社のような存在になる」と語ってくれた横田氏。その構想の壮大さに筆者は体温がどんどん上がって、かなり興奮してしまった。ぜひとも実現してもらいたい。
Emotional Brains株式会社 | |
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代表者:横田 洋一氏 | 設立:2011年7月 |
URL: http://emotionalbrains.com/ |
スタッフ数:3名 |
事業内容: ・3Dクラウド・ファンディング・サービス「Okuyuki」企画、開発、運用 ・ 3Dプリンターおよび関連製品・サービス企画、開発、販売 ・クリエイティビティ人材教育サービス |
当記事の内容は 2014/5/27 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。