データ解析エンジニアが立ち上げたベンチャー。カード大手セゾンとタッグを組んだ「株式会社カンム」

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

日本初のCLOサービスを開発・運営したベンチャー
展開している事業内容・特徴

kanmu1CLOという言葉をご存じだろうか。“Card Linked Offer”の略で、クレジットカード決済連動型優待サービスである。簡単にいえば、「○○というクレジットカードで□□というお店で買い物すると、今だけ特別に△△パーセントOFF!」といったように、普段使っているクレジットカードで割引や優待サービスが受けられるというものだ。

CLOサービスはアメリカで生まれた。有名どころでいえば、カードリティックス社だろう。2008年にスタートしたベンチャーだが、すでに60億円超の資金調達を完了し、バンク・オブ・アメリカが技術を採用していることでも知られている。

ビジネスモデルはこうだ。カード会社とパートナーシップを組んだ企業が、そのカード会員の利用履歴分析をし、その会員が利用するであろう優待を提供する。その優待が使われるとお店から送客手数料が支払われる仕組みだ。

株式会社カンムは、このCLOサービスを日本で初めて開発・運営しているベンチャーだ。創業は2011年1月。代表の八巻渉氏はもともとはデータ解析などを手がけていたエンジニア。2013年6月24日にカード大手のクレディセゾンと組んで当該サービスを開始した。

セゾンのネット会員は現在961万人以上(2013年12月時点)。まだ一部の会員限定だが、いずれすべての会員にCLOサービスが提供される予定。カード利用者は現状のカードで特典が利用でき、また店舗側も利用者が来店して初めて手数料を払うモデルなので、追加費用が不要なので、利用者・店舗双方から好評という。

従来、こうしたサービスの開発には膨大な開発コストが必要だった。特に最近よく耳にするビックデータの活用は、まだ専門的な人材も少なく、社内にリソースを抱えているところは少ない。こうしたサービスを大手SIerやコンサルティング会社に依頼したとすると、まず数億円単位の費用がかかるだろう。

しかし、今回の取り組みはベンチャーと大企業がじかにつながったモデル。大企業にとっては低コストでかつベンチャーならではのスピード感で事業が進む。一方のベンチャー、特にスタートアップしたばかりの企業にとって、安定した収益と大企業の持つ信用力は何よりもありがたい。

実際、八巻氏率いるカンムは、社員5名という陣容。この少数精鋭の組織が、大手企業とほぼ対等に組んだビジネスをスタートする――いかに低コストで新規事業が立ち上がったかを考えると、ベンチャーにとって大きく時代が変わったといえるだろう。

大学生時代からベンチャーで働き、卒業後ほどなく起業を決断
ビジネスアイデア発想のきっかけ

kanmu2 八巻氏は、父親がソニーのエンジニアだったこともあり、子供の頃からエンジニアになろうと思っていた。そんな生粋の技術者肌なのだった。幼稚園の時、たまたま家にパソコンがあって、そこで初めてプログラミングを経験したことで、物心ついた頃から、将来の夢はソフトウェア系のエンジニア。

具体的に起業を意識したのは大学に入ってすぐ。慶応大学理工学部に入学した八巻氏は、SFC卒業生なども多く在籍していた、「スタジオウーシア」というベンチャーで働いていた。

自然言語処理やデータ解析などを手がけていたベンチャーで、論文を書くのが半分仕事といった職場だったそうだ。その後、2009年に大学を卒業し、一旦は就職するものの、2010年12月に退職。その翌年の2011年1月に起業している。

大学在学中に知り合った先輩経営者や著名なベンチャーキャピタリストに起業について相談したところ、「何をするにしても、君がやるなら資金を出すよ」と複数の大人に進められ、起業を決意したそうだ。

そうして、何をやるか決まってないままとりあえず会社を設立。始めの1年間は金融×ITというテーマで動き出し、ソーシャルアプリやWebサービスの開発などで稼いでいた。その間、たまたま、スマートフォンの決済サービス「コイニー」の創業を手伝うことに。金融業界や決済の仕組みについて教えてもらう代わりに、その開発を引き受けた。そこでアメリカではCLOというサービスがあることを知り、それを日本でも展開できないかと考え始め、2012年4月から事業化に着手した。

システム開発自体は得意だが、肝心の金融業界へのコネが無い……金融業界出身でもない……。提案書一つつくるのにも苦労した。それでも毎週、新しい資料を「パワポ」でつくっては、月に3、4回はさまざまな専門家のところへ打合せや提案に出向いた。それが1年続いたそうだ。そうした中、知り合いのベンチャーキャピタリスト経由で紹介されたクレディセゾンの担当部長への提案が突破口となった。その提案は成功し、2ヶ月後のリリースに至った。

当該サービスは、2013年6月にローンチ。現在は大手飲食チェーンの本部などにも営業し、サービス利用店舗の拡大が進んでいる。

金融ビジネスにとって金脈といわれる、手数料が取れなくなる時代がくる
将来への展望

八巻氏にこれからの展望を伺ったところ、「まずは3年以内に上場できるレベルまで事業を拡大する」という回答。

同社のスタンスはあくまで「データを売る」という点にある。現在活用しきれていないビックデータを解析し、価値のある情報に加工したうえで、それを活用したサービスをさまざまな企業に提供するというのが基本だ。

八巻氏は、いずれ個人向けの金融業は手数料を取れなくなると見ている。さまざまなサービスが登場し、手数料自体が下がり続けるからだ。一方で膨大のお金の流れ、決済情報そのものには、大きな可能性がある。お金の流通が価値の源泉で、そこからいかに新しい価値を生み出すかが、これからの金融業に求められるポイントだと確信している。

また、金融×広告といった、これまでにない組み合わせでも新しい価値が生まれる。手数料がどんどん下がる一方、お金の流通がもっと活性化することで経済全体が上向きになり、新たなサービスが生まれる……それが新しい金融ビジネスの未来型モデルと考えている。

余談だが、2014年1月29日に開催された「新事業創出支援カンファレンス」での大企業ピッチに、クレディセゾンの担当者が登壇した。そこで、同社とカンムとの取り組みも紹介されていたが、まさにこうした新進気鋭のベンチャーと日本を代表する大企業とがタッグを組んで、新しい事業、新しいサービスを生みだす関係性は、これからのイノベーションの一つの理想形になるだろう。また、そうした取り組みが数多く生まれることで、日本全体の活性化にもつながりそうだ。カンムと大手企業とのアライアンスが、今後どのような化学変化を遂げるのか、ぜひ注目していきたい。

株式会社カンム
代表者:八巻 渉氏 設立:2011年1月
スタッフ数:5名 URL:https://kanmu.co.jp/
事業内容:
Card Linked Offer(クレジットカード決済連動型優待)サービスの開発・運営

当記事の内容は 2014/2/20 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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