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スマフォだけでマニュアルが作れるサービス。大手製薬会社から地方自治体まで利用シーンが拡大
展開している事業内容・特徴
仕事をするうえで意外と手間取るのがさまざまな書類の作成だ。上司への報告書やスタッフへの指示書、経費清算の手順書や顧客からの問い合わせ対応のマニュアル、あるいは新しいITシステムを導入すれば、その説明書を作成して現場に配布するなど、実に多岐にわたる。Excelやパワーポイントで、まずタイトルと見出しを決めて、次に説明書きに画面キャプチャを張り付けて、重要な箇所は色を変えたり矢印をつけたり……。ビジネスパーソンであれば誰もが経験したことががある作業だろう。しかし、いざマニュアルを作ったものの膨大な分量に読む気もなくなったり、内容が古くなっても更新されず使えなくなったりと、決して生産性が高いとは言えない。
今回紹介する「Teachme(ティーチミー)」というツールは、そんな生産性の低さを解決。業務用の書類やマニュアルをスマートフォンだけで簡単につくれて、更新や共有も楽ちんにできるという優れものだ。
まず使い方を説明しよう。スマフォのカメラで撮影した画像を選択してボタンを押しながら、ステップ順に画像を並べるだけで「完成」。簡単なマニュアルであれば、1分とかからない。もちろんマニュアルのタイトルや補足説明も追加できる。また、画像は画面キャプチャでもかまわない。スマフォでWebサイトを開いて必要な画面をボタン一つでキャプチャしていけばよい。
「Teachme」がリリースされたのは2012年12月。「千代田ビジネス大賞」の特別賞なども受賞し、当初はビジネスシーンでのマニュアル作成はもちろん、料理のレシピやネイル、ぬいぐるみのつくり方など、コンシューマーも視野に入れてスタートした。
しかし、やはり反響が大きかったのは企業サイド。企業内の業務マニュアルなどで活用されはじめて、さらに採用した企業から「もっとこうした機能が欲しい」「自社用にカスタマイズできないか」といった要望が寄せられてきた。そこでセキュリティ機能などを強化して本格的に企業内での利用に対応した「TeachmeBiz」を2013年9月19日にオープン。いよいよB2B向けに本格展開していくという。
すでに大手製薬会社や成長中のベンチャー企業、地方自治体、食品加工会社、不動産会社、スマフォ向けアプリ開発会社など、10数社が導入。その使い勝手のよさと便利さ、なによりコストパフォーマンスの高さから、口コミで次々に導入先が決まるなど、急速に業績も伸び始めている。
例えば、地方自治体では観光ガイドの作成、ベンチャー企業の新人研修での利用、あるいはスマフォアプリ開発会社ではヘルプページの作成に利用されている。こうした多用な使われ方は想定外だったという。
費用は1アカウント当たり月額525円から(※企業・自治体のプロモーション目的での利用は別料金体系)。機能を制限した無料版も展開しているので、お試しで使ってみて気に入れば有料版にすることもできる。iOS、Androidはもちろん、WindowsRT(近日公開)にも対応している。
また、企業向けに導入支援サポートも実施しており、こちらは内容によって応相談だが、数十万円程度からだそうだ。
製造業向けコンサルタントとしてスタート。コンサルで稼いだ利益を開発に投資
ビジネスアイデア発想のきっかけ
「Teachme」を運営している株式会社スタディストの代表・鈴木悟史氏は、もともとは製造業向けコンサルティングで有名な株式会社インクスに勤めていた。「会社の中ではかなり自由に仕事をさせてもらっていた」そうだが、それでも自分のやりたいことが100%できるわけではなかったため、仲間と相談して起業を決意。資本金は400万。まずは同僚の庄司啓太郎氏と二人で、2010年3月にスタートアップした。
当時の業務内容は、業務改善コンサルティングがメイン。創業以来、ずっと黒字経営だそうだ。そして売り上げから生じた余剰資金を自社サービスの開発に投じ、2012年5月にリリースしたのが「Markee(マーキー)」というサービスだ。これはスマフォで撮影した画像に文字や図形を書き込むことができるアプリだった。
その後、2013年2月にリリースしたのが「Teachme」である。業務改善コンサルタントとして日々大量の資料・マニュアルを作成していた鈴木氏が、もっと便利で楽に書類がつくれるツールが欲しいと思ったのがきっかけだ。
現在、スタディストの社員は7名。全員がコンサルタント兼ITエンジニアで、鈴木氏自身もプログラマーとしてiOSアプリを担当するなど、開発はほぼ内製で行った。
「Teachme」はコンシューマー向けのサービスとしてスタートしたが、開発当初から常に重心をおいているのはBtoBである。例えば、自治体が観光案内などのWebサイト作成を外部の業者に依頼すると、最低でも数十万円はかかる。しかも、コンテンツの企画や編集は自治体の担当者が手をかけざるを得ない。そうした労力と効果が見合わず、企画倒れや「つくっておしまい」になることも多いという。低コストのブログサイトの活用もあるだろうが、担当者が企画・編集に割く労力にそれほど違いはない。しかし、「Teachme」はフォーマットが決められているので、そうした企画・編集の手間が削減できるのだ。
さらにコメント機能や更新履歴なども残せるため、担当者以外でも更新可能。最初は60%ぐらいの完成度でスタートして徐々によくなっていく、ソーシャル的な成長が望めるツールともいえる。
また、作成したマニュアルがどれくらい見られたかが一目でわかるアクセスレポート機能や、Facebookの「いいね!」ボタンのように、役立ったマニュアルには「GoodJob」という評価がつく。こうした何気ない評価が作成者にとっては嬉しいのだ。そんな作成者のモチベーション維持にも配慮している。
「マニュアルは初めから完成させようとするから大変に感じる。まずはつくってみて、そこから少しずつ完成させていけばよい。それが『Teachme』のコンセプト。さらに第三者からの評価が作成者のモチベーションにつながる。この評価の仕組みを発展させていけば、自然なかたちでの人事評価にも使えるのではないか」とは鈴木氏の弁。
ちなみに「Teachme」は、インストールなしのブラウザベースでも利用可能。これが意外と好評なのだそうだ。というのも、大企業や役所で支給されている業務用のパソコンは、内規により勝手にアプリなどがインストールできないことが多い。そのため、「インストール不要で使える業務システムはありがたい」という声があったそうだ。「Teachme」はそうしたニーズから、古いブラウザにも積極的に対応していく予定。大企業や地方自治体のパソコンは古いOSのままであるケースも多々。例えば、最近のWebサービスはIE8で利用できないことも多いが、「Teachme」はIE8対応も行っていくとしている。
目指すは日本版ペイパルマフィア
将来への展望
鈴木氏に今後の展望を聞いたところ、「組織の規模をいたずらに大きくするのではなく、少数精鋭のまま世界を変えるようなサービスをつくり上げたい」とのこと。
また、理想とするベンチャーを伺ったところ「ペイパルマフィアのようになりたい」と即答。ペイパルマフィアとは、1998年にアメリカで起業された決済サービス「PayPal」の卒業生たちを指す。PayPalは2002年にeBayに買収されたが、その後、PayPal卒業生たちが起こしたサービスとして有名なものに、YouTubeやLinkedIn、Yammer、テスラモーターズなどがある。
IT技術者の世界では、オープンソースソフトウェアのように、みんなで少しずつソフトウェアや巨大なシステムをつくり上げて、お互いにコメントや感謝をし合うなど、互恵的な文化がある。今回の取材を通じて思ったのは、そうした文化はIT以外にも有効なアプローチかもしれないということだ。
日本のペイパルマフィアを目指すという鈴木氏率いる、株式会社スタディストから、今後どのような斬新なサービスが生まれてくるのか――。「Teachme」の成長はもちろんだが、新たな起業家たちの誕生にも多いに期待したい。
株式会社スタディスト | |
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代表者:鈴木 悟史 | スタッフ数:7名 |
設立:2010年3月 | URL:https://teachme.jp/ |
事業内容: コンサルティングサービス、WEBサービス |
当記事の内容は 2013/10/3 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。