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情報を入力すれば自動的に家計簿を生成してくれるアプリ
展開している事業内容・特徴
家計簿をつけるのが面倒……という方は多いだろう。紙の家計簿はもちろん、パソコンで使えるソフトも多数あるものの、毎日記述するのを忘れてしまったり、収入や支出のカテゴリを分類するのが面倒だったりして、なかなか続かない。今回は、そうしたものぐさな人でも続けられそうな、簡単便利な家計簿アプリ「マネーフォワード」をご紹介する。
「マネーフォワード」は、簡単に使える家計簿アプリというだけではない。家計簿というよりも、ファイナンスアプリといったほうが正しいだろうか。複数の口座情報を一括で管理し、家計簿を自動生成してくれるという優れもの。2012年12月にサービスを開始し、2013年4月にはiPhone版とAndoroid版の無料ファイナンス部門1位を獲得している大人気アプリだ。iPhone版、Android版、パソコン版(Windows、Mac双方に対応)があり、ここ最近は1カ月間で数万もの登録があり、急成長を続けている。
「マネーフォワード」の人気の秘密は、とにかく簡単に使えること。たとえば、銀行、証券会社、年金、ポイント、ケータイなどのアカウントを初めに登録すれば、定期的に自動でアップデートしてくれる。登録できる金融機関は全105社(2013年5月現在)と幅広い。ラインナップをみると、大手銀行や金融機関はほとんどカバーしている。
これら口座情報をもとに、資産や負債のグラフが表示され、自分の資産がどのように増えているか、減っているかが一瞬でわかる。まさにファイナンスアプリだ。
また、銀行の入出金やカードの履歴を自動で取得し、内容に応じて項目ごとに仕分けしてくれる機能もある。自分独自の分類ルールも作成することも可能。また、カレンダー表示も可能なので、「いつ」「何に」「いくら」使ったのか、一目で確認することができる。
ユーザーからもっとも好評なのが、「メール通知機能」だそうだ。Weeklyメールでは、毎月、毎週の入出金、収支、資産状況がすべてわかり、改善点も教えてくれる。また、カード引き落とし日の数日前に支払い金額を通知してくれる機能もあるので、カード支払日の残高不足を防ぐことができる。また、出金が一定金額以上になったら通知するという設定も。忙しくて銀行口座を確認することができない人でも、これらの機能があれば安心だ。
もちろん、大事な金融情報を扱うため、個人情報は厳重に管理されている。データはすべて暗号化して保管されているため、原則、各金融機関で、振込等の際に必要なパスワードを預けることなく利用可能。銀行口座やクレジットカード番号などの登録に抵抗を感じる人でも、安心して利用することができる。
取材をした2013年4月時点では、これらの機能はすべて無料で使えるようになっている。収益源としては金融機関からの広告や、将来的には一部の機能を有料化したプレミアム会員からの課金も計画している。
ちなみに、ユーザーの年齢層は30代半ばがもっとも多く、男女比は6対4。今までありそうでなかったサービスのためか、「役に立った」「こんな便利なサービスがあるなんて感動した」など、ユーザーからの喜びの声が1日に数十通も届くそうだ。
金融機関にもお客さんと向き合った便利なサービスが必要だと思った
ビジネスアイデア発想のきっかけ
「マネーフォワード」を開発・運営する株式会社マネーフォワード代表・辻庸介氏が最初に起業したのは大学生の頃。大学の先輩からの誘いで学習塾を運営していたのだ。塾はゼロからのスタートで、当初、生徒数は2人だったが、みるみるうちに成長し、最終的には生徒数約200人の規模に。この経験から、辻氏はビジネスの面白さを実感した。
学部が理系だったため、大学院に進学するのが当然といったなか、辻氏は大学院には進まずビジネスの勉強のため、米国サンディエゴへ1年ほど留学。帰国後はソニーに入社した。ソニー入社後4年目に、マネックス証券へ出向(のちに転籍)。これがマネーフォワード創業のきっかけとなった。
金融機関といえば平日15時に閉まったり、Webサービスなども使いづらい。「金融機関はお客さんとしっかり向き合っていない」。そう感じた辻氏は、この状況を変えたいと、当時から「個人投資家のために良質の金融サービスを提供する」という理念を掲げたマネックス証券への出向を希望した。
マネックス証券の仕事に打ち込み、数年が経過したころ、初めての社費留学制度ができ、辻氏は自ら手を上げて第一号留学生に。2009年から2011年までの2年間、ペンシルバニア大学ウォートン校に留学した。
その2年間で金融機関のネット利用はさらに進み、ネット銀行やネット証券の出現で、いつでもどこでも金融の手続きができるようになってはいたが、複数の会社間のサービスを横断的に使えるものはまだなく、また金融商品やサービスは充実してきたが、それを使いこなせる「知恵」を得るようなサービスはまだなかった。「ならば、自分がつくろう!」。2012年12月にマネックス証券を退社。志を同じくするメンバー数名で株式会社マネーフォワードを立ち上げた。
また、起業に際しては、出身元のマネックスグループのインキュベーション会社からも出資を受けた。中立性を保つため、一部出資というかたちだが、金融系のサービスを行ううえでは信頼性が第一。そういった意味で、マネックスからの後ろ盾を得ての船出はとてもプラスだった。2013年3月には、早稲田情報技術研究所や複数の個人投資家から、総額1億円の資金調達も行っている。
お金のことなら「マネーフォワード」と言われるようになりたい
将来への展望
辻氏に今後の目標を伺ったところ、「まずは年内に40万ユーザーを目指している」という答えが返ってきた。
また、「将来的には、お金に関する情報がすべてわかる世界最高のマネーサービスをつくるのが目標。例えば“今月は食費が多いから気をつけて”とか、“ケータイ代高くなっているからこういうプランがおすすめです”というレコメンデーション機能を付加するなど、多くの情報の中から個人に必要な情報を提供できるサービスにしていきたい」と語ってくれた。
具体的には、同じ年代・同じ家庭環境・同じような資産を持つ人でも、リスク許容度や金融知識の差などで、おすすめできる金融サービスは違ってくる。最近注目されている「Gunosy(グノシー)」というサービスがある。ネット上の膨大な情報の中から、各個人に必要な情報を自動的に収集・提供してくれるサービスだ。「Gunosy」のように、個人差を勘案した金融のレコメンデーションサービスを実現するのが同社の計画だ。
そもそも他人の貯蓄額や家計の状況などは話題にしづらい。お金に関することは人に聞きづらいという意識もある。しかし、匿名での統計情報があれば、現在の自分の状況がどうなのか、他の人々と比較することができ、新たな発見があるかもしれない。
ちなみに、アメリカには「mint.com」という1200万人ものユーザーを抱える金融情報関連サービスがある。「mint.com」も金融機関に属さずに中立的な立ち位置で金融情報を提供して成功した一例だ。「マネーフォワード」は日本版mintといえるかもしれない。
「大企業で10年くらい働いて、それなりのキャリアも形成してきた30代中盤の人でも、リスクをとって挑戦していくべき。僕の挑戦がこれからチャレンジする人たちへのきっかけになればいい。僕自身、友人であるライフネットの岩瀬さんに色々相談に乗ってもらったが、彼のような人が、もっとたくさん出てくれば、世の中はもっと変わると思う」と起業を目指す読者へのメッセージを語ってくれた。
近年、10代、20代の若者がスマートフォン向けのアプリを開発して成功するという事例は増えてきた。だが、辻氏のように大企業にある程度の期間勤めたのち、あえてリスクをとって挑戦するケースはまだまだ珍しい。しかし、そうした人材の持つパワーが日本を変える大きな力の1つになるはずだ。同社に関していえば、もともと所属していたマネックスからの出資も受けての起業。大企業の力を使いつつ、多くの大企業勤務のミドル層がベンチャーを立ち上げる――。そんな起業家が増えていくことを願いたい。
株式会社マネーフォワード | |
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代表者:辻 庸介 | スタッフ数:8名 |
設立:2012年5月 | URL:https://moneyforward.com/ |
事業内容: インターネットサービス開発 |
当記事の内容は 2013/5/23 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。