- 目次 -
音楽業界の無駄をカット。ミュージシャンとリスナーを直接つなぐサービス
展開している事業内容・特徴
CDの売り上げが年々落ち込んでいる。着メロやiTunesStoreなどの台頭により、音楽をダウンロードして聴くユーザーの増加、あるいはYouTubeやCDレンタルで済ませるユーザーが増えていることが要因だろう。
アメリカでは毎月定額で音楽が聴き放題というサービスも登場し、人気を博している。実は日本はアメリカを抜いて、世界でもっともCDが売れている国だそうだが、裏を返せば音楽業界の構造改革が遅れているといえるだろう。
こうしたなか、苦境に陥っているのは音楽事業会社だけではない。ミュージシャン自身もかなり苦しい立場に追い込まれている。CDが売れた場合、ミュージシャンに入る印税はたったの1%。作詞、作曲をしていればさらに1.5%ずつ入るそうだが、それらを合わせても印税は最大で4% 。かつてのようなミリオンセラーがたくさん生まれる時代ならまだしも、念願のメジャーデビューを果たしたとしても、今、音楽だけで生活していくのは難しい。
今回紹介する「Frekul(フリクル)」は、このような音楽業界の悪しき現状を打破するためにスタートしたサービス。そして、立ち上げたのは過去にメジャーデビューを経験した現役ミュージシャンだ。
「Frekul」は、大きな組織を通さずに、リスナーとミュージシャンを直接つなぐことを狙っている。昔と比較してCDの売り上げは下がった。しかし、音楽そのもののニーズは変わっていない。そこで、アーティストに入る収入源としてCD販売に頼らず、グッズなどの“モノ”の販売収益や、ライブやイベントという“体験”から生まれる収益に着目した。
ミュージシャンは「Frekul」に無料で登録可能。個別ページには、プロフィール欄はもちろん、楽曲を1分30秒まで「無料視聴」してもらう機能も。リスナーはそれらのコンテンツから、ミュージシャンの楽曲を自分のメールアドレスと引き換えにフルでダウンロードすることができる。ミュージシャンは、登録されたメールアドレス宛に自分たちのメルマガを配信するといった具合だ。
メールアドレスを登録させているのには理由がある。それは、「いいなぁ」と思ったミュージシャンがいたとしても、その時は軽く覚えている程度で、結局は忘れてしまうことが多いからだ。
そこで、「Frekul」では、メールアドレスの入力によって、ミュージシャンとリスナーのつながりを強化させていくことに注力した。登録されたメールアドレス宛てにミュージシャン側から定期的に情報発信することで、徐々にユーザーとの関係性を深めていき、ファンになってもらうという仕かけだ。
ミュージシャンは「Frekul」上で、ファンクラブもつくれる。月額会費525円~2100円の範囲で自由に設定し、プレミアムサポーターと呼ばれる有料会員を募集できる。プレミアムサポーター限定のページ内にはチャットルームなどを設置することができ、ファン同士はもちろん、ミュージシャン本人とコミュニケーションを取ることもできるのだ。
リスナーが支払った会員費は、プレミアムサポーターの数に応じて、ミュージシャン側に最大75%がバックされる。さらに、ライブ会場に足を運んだり、グッズを買ってくれるファンがつくことで、ミュージシャンは生活していけるだけの稼ぎを得ることができるようになる……そうした新しいモデルをつくり上げることが「Frekul」の目標だ。
「Frekul」がスタートしたのは2011年5月。最初は、友人に頼んでサイトをつくっただけだったが、先述したようなサービスを徐々に拡大。2012年3月には著名なベンチャーキャビタルからの出資も受けた。2013年1月時点で、リスナー登録者は約1万6000人。ミュージシャンの登録数は約1000組。まだスタートしたばかりのサービスだが、すでに「Frekul」を通じて月間数万円を稼ぐミュージシャンも生まれているそうだ。
mixiでの手痛い経験から、 あえて制限を設けたクローズドなコミュニティーに
「Frekul」上でリスナーが書き込みできるのは、ミュージシャンのプレミアムサポーターになった時から。ほかのSNSのように、自由につながったり、簡単な交流はあえてできないようにしている。ここには「Frekul」を創業した、株式会社ワールドスケープ代表の海保堅太朗氏のある思いがある。
「Frekul」の創業メンバーは、同じバンドの仲間たちだ。インディーズで活動していた時、mixiが流行り始めた。「これはバンドのプロモーションに使える!」と思った海保氏は、mixiに「この曲よかったら聞いてみてください」などと書き込むことで、バンドのファンコミュニティには1500人ほどが参加。情報を書き込めば、ファンがすぐに反応して盛り上がり、実際にライブに来てくれる人も増え、SNSの素晴らしさを実感していたという。
しかし、メジャーデビューも決まりバンド活動が忙しくなったため、mixiの書き込みがしばらく疎かになってしまった。しばらくした後、久しぶりにmixiのコミュニティを覗いてみたが、往時とコミュニティの人数はさほど変わらないのに、ほとんど書き込みがない……。実はちょうどその頃、mixiからツイッターやfacebookといった別のSNSにユーザーが移動し始めた時期だったのだ。
海保氏は気づいた。「自分たちの人気自体は変わらなくても、プラットフォーム自体が飽きられたら、せっかくつくったコミュニティが機能しなくなってしまう」と。せっかくつくったファンとのつながりが消えてしまう……。とても恐ろしい……。
今流行っているSNSも、いつユーザーに飽きられて次のサービスに移行してしまうかわかったものではない。つまり、「特定のSNSに依存したファンコミュニティづくりは危険」と考えたわけだ。
だから、「Frekul」では、特定のSNSに依存しないよう、昔ながらのメールマガジンによる情報発信と、自前のコミュニティ構築を戦略的に進めている。
念願のメジャーデビュー! しかし、音楽業界の構造に疑問を感じた
ビジネスアイデア発想のきっかけ
先述したとおり、「Frekul」の開発・運営元である株式会社ワールドスケープは、2003年に結成したバンドのメンバーたちが立ち上げたベンチャー。代表の海保氏も高卒後、音楽の道に進み、ずっと音楽一筋でやってきたミュージシャン。起業とは縁遠い存在だった。。
海保氏は、バンド結成から5年後の2008年、ついに念願のメジャーデビューを果たした。自分たちのPVがテレビなどで流れ始め、喜びを噛みしめたものの、食えない現実に直面した。当時は、すでにCD販売に陰りが見え始めており、テレビに少し出たくらいではCDは売れない。売れるのはAKB48などのアイドルものばかり……。
メジャーデビューしても、収入はインディーズ時代の方が良かったくらいだという。その理由を真剣に考え始めたのが、起業のきっかけになった。まず気づいたのは、CDの流通にかかわる会社・人間が多すぎて、ミュージシャンの取り分が少ないという問題。仮にヒット曲が出たとしても、その後も人気が続く保証はない。20年後、30年後はどうなるかわからない。「これでは音楽は続けていけない、でも、なんとか続けていきたい……」。そんなジレンマを覚えるようになった。
しかし、音楽をあきらめられない海保氏は、どうすれば音楽で生活していくことができるかを真剣に考え続けた。そして、CDが売れないのであれば、むしろ楽曲データを無料化してしまおうという考えに至る。楽曲を無料で提供する代わりに、ライブチケットやグッズ販売、ファンクラブ入会に動員する。これを効率的に回すシステムができれば、CD販売以外からのミュージシャンの取り分が多くなる。もしも、ファンクラブの会員が数百人になれば、音楽で生活できる人が多くなるのではないか……。。
そして、少しずつビジネスモデルを確立させていくうちに、「どうせやるのなら、自分たちだけで使うものではなく、音楽に関わる多くの人に共感してもらえる仕組み。みんなが使えるような大きなプラットフォームにしよう」と考えるようになった。
「これがうまくいけば、音楽業界の革命的なムーブメントが起こる!」。そう考えた海保氏たちは、2011年2月に300万円の自己資金で法人を設立。ベンチャー企業としてスタートした。
「起業後は、とにかく苦労の連続だった」と海保氏は語る。創業メンバーの中で会社員経験者はゼロ。学校を卒業してから、フリーターをしながら音楽活動を続けていたメンツばかり。もちろん、ITスキルなども皆無。誰に、どうやって仕事を頼んでよいかもわからない状態からのスタートだった。最初につくったWebサイトは、約4カ月で完成。ほとんど丸投げ。「まともに報酬も払えていなかったのに、言いたいことだけ言ってつくってもらった。今考えると、最悪のクライアントだった」と海保氏。
2011年5月に「Frekul」をオープンしたが、幸運にも開始後すぐに、某大手証券会社のベンチャー担当者が連絡してきた。すぐさま、「資金調達したいです」と伝えた。資本金として用意した300万円はあっという間に底を着く。続けるための運転資金が必要だった。
しばらくして、サムライインキュベートの榊原氏を紹介され、面会を果たす。その場では資金調達を断られたものの、2012年3月に出資を受けることになる。その決め手は、エンジニアの富岡務子木氏(現同社CTO)との出会いだった。
2011年末にライブハウスで偶然出会ったバンドマンの富岡氏が、実はITエンジニアであると知り意気投合。音楽業界を変えたいという海保氏の情熱が伝わったのか、富岡氏がCTOとして同社に参画したのだ。優秀なエンジニアが経営に加わったが決め手となり、出資に結びついたという。
ちなみに、バンドのギタリスト・長田秀人氏は独学でWebデザインを学び、デザインを担当するように。ほか、ITが得意な学生インターンを迎え入れるなどして、開発チームがかたちになっていった。「何もわからないところからのスタートだったが、とにかく人に恵まれてなんとかやってこれた」と海保氏は語ってくれた。
目標は世界中のミュージシャンが使うサービス! 音楽業界を完成させたい
将来への展望
海保氏に今後の目標について尋ねると、「まずひとつは1~2年後の黒字化。自分を含め、かかわっているメンバーに、今はまだいいお金が還元できず申し訳ない」との弁。
そしてもうひとつの当面の目標は、「Frekul」を利用したことで、実際に食べていけるようになったミュージシャンをどれほど生み出せるかということ。そのようなミュージシャンが1000組輩出できれば、音楽業界を変える一つのインパクトになると考えている。
そして、海保氏の最終的なビジョンは、「音楽業界を完成させる」こと。海保氏の考える音楽業界の完成形とは、こうだ。ミュージシャンがやりたいように音楽をつくり、やりたいようにライブ活動をする。つくった音楽を「Frekul」に投げれば、マーケティングや宣伝などを考えなくても、勝手にそれが自動化され、収入が入ってくるという状態だ。
海保氏は取材の最後に、「ミュージシャンは、純粋に音楽のことだけ考えていればOKというのが理想。その状態が一番素晴らしい音楽が生まれてくる可能性が高い。曲さえ投げておけば、“Frekul”が収益化してくれる。今音楽業界がやっていることを、ほぼ自動化してしまうような仕組みに育てていきたい」と壮大な未来像を語ってくれた。
株式会社ワールドスケープ | |
---|---|
代表者:海保 堅太朗 | スタッフ数:5名 |
設立:2011年2月3日 | URL:http://frekul.com/ |
事業内容: ミュージシャン支援サービス「Frekul」の制作・運営 インターネットサービス制作・運営 音楽配信サービス メールマガジン配信代行 ファンクラブ制作・運営 音楽制作・販売 イベント制作・運営 他 |
当記事の内容は 2013/2/21 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。