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旧態然とした巨大マーケット不動産業界を革新。
常識破りの新サービスに、3カ月で3000人の顧客が集まる
展開している事業内容・特徴
インターネットの登場により、さまざまな業界が革新を余儀なくされた。ネットが普及する前は、消費者と業者間の情報格差、非対処性によって、どうしても業者側の都合が優先されがちだった。
しかし今、その情報格差がなくなりつつある。例えば、家電マーケットを見てみよう。まず価格比較サイトで「最安値」を調べ、さらにその家電の評判などをクチコミサイトで調べたうえで、量販店やECサイトで購入するという流れは、もはや自然な消費行動になっている。消費者が自分で価格や品質などを納得するまで調べて購買できるようになった。
家電に限らず、飲食店であれば「ぐるなび」や「食べログ」、服であれば「ZOZOTOWN」など、消費者側に立ったサービスの隆盛は続く。しかし、まだまだ旧態然とした巨大マーケットがある。不動産業界だ。
今回紹介するのは、未だ業者側の都合が優先されている不動産業界に革新をもたらすべく立ち上がった「ウチコミ!」というWebサイト。
「ウチコミ!」のサービスを簡単にいうと、不動産の買い手側に立ったエージェントサービスである。まず、買い手である消費者が、自分の希望する条件を登録する。それを見た不動産業者が、消費者にアプローチしていくというコンペ方式だ。
消費者は、「Aという業者は****万円で提示してきたが、B社はそれより***万も安い金額を提示。おまけに物件の裏情報も細かく教えてくれた。誠実さがある。B社に依頼しよう」。といった具合に業者を選べるのだ。
従来、最初にある消費者に営業をかけた不動産業者が、最後まで取引を進めることが当然とされてきた。それは、家電を買う際に、最初に偶然入った店以外では買えないのと同じこと。そうした商慣習が通用してきたのが、これまでの不動産業界だというのだ。
また、不動産業者のWebサイトといえば、「物件を検索する」ポータルサイトが主。つまり物件情報を握っている業者に有利な情報しか掲載されていない。結果、消費者は、どのサイトで検索しても同じような情報を見ていることになるというわけだ。
しかし、「ウチコミ!」は、買い手である消費者が不動産業者から逆検索されるWebサイトである。買い手に少しでも有利な条件を提示する業者が得をする仕組みを考案した。業者は、従来は表に出さなかった裏情報なども伝えて、消費者からとにかく信頼されることを目的に動くようになる。業者間競争を起こさせることで、自然と消費者に有利な取引が成立していくというのが「ウチコミ!」が目指している世界だ。
ブラックボックス化した市場をオープンに!
逆転の発想によるビジネスアイデア
ビジネスアイデア発想のきっかけ
これまで、消費者はある意味、不動産業者の言うがままに買うしかなかったといえる。その理由は、不動産取引の複雑さもあるが、情報自体がクローズドで、買い手である消費者がその内実を知る方法がなかったためでもある。
また、不動産仲介者は、買い手である消費者からの手数料に加えて、売り手である不動産所有者からも手数料を得る。いわゆる、「両手取引」であることが多い。
さらに、そこに営業マン個人が“担ボー(担当者ボーナス)”と呼ばれるインセンティブを得ることもあり、「両手片足取引」という独特の商習慣もあるそうだ。
もともと高額な商品である不動産売買に、3種類もの取引手数料が入るため、業者の利幅がとても大きくなる構造にある。結果として、不動産業者は、消費者が求めている物件を探して売るよりも、とにかく売りやすい物件を売るほうが格段に儲かるのだ。
もっと言えば、本当によい物件を売るより、あえて悪い物件から売ってしまったほうが都合がよい構造になっている。買い手としては劣悪な物件を売りつけられたのでは堪らない。しかし、物件のよし悪しはプロでないと見極めが難しいため、どうしても業者の言うことを信用せざるを得ない。消費者側がとても弱い立場追いやられてきたマーケットなのだ。
そんな構造を革新すべく、「ウチコミ!」では消費者側に立ったエージェントサービスや、不動産を買いたい消費者同士のコミュニティ・サービスを展開している。
「ウチコミ!」のメリットは、オークションサイトの仕組みを思い浮かべると理解しやすいだろう。オークションでは、ほかの落札結果から相場が容易につかめ、また、ユーザー同士が意見を交換し合った結果として、大きな損の出ない取引が設立する。
「ウチコミ!」を起業した、株式会社アルティメット総研代表の大友健右氏によれば、これは3つの波で説明できるという。
一つ目は、インターネットが登場して情報が無料になったという波。二つ目は、「クチコミ」などの裏情報が流通するようになった波。そして、第三の波は「個人間の取引」の隆盛だ。ネットを活用する消費者が自分たちで取引をし始めたことで、それまで間を取り持っていた仲介業者の存在感がどんどん薄まっている。
むろん、個人間取引は、個人が契約のリスクを負うことになる。単価の安い品物であれば許容できるだろうが、不動産のような高額なものは、一生に一度あるかないかの取引であるから、素人である消費者はリスクを負いきれない。どうしてもプロの存在は必要になる。そして、「消費者側の代理・エージェントサービスが、自然な仕組みとして業界に根ざすように」という志もって「ウチコミ!」が立ち上がった。
大手不動産会社の幹部職を捨てて起業。ノーベル賞をとった「レモン理論」を不動産ビジネスに適用し、わずか2年で業界の風雲児に!
大友氏は、かつて大手不動産会社で営業成績ナンバーワンの営業マンとして活躍し、2010年に独立。起業から2年あまりで年商20億円のリフォーム会社を育て上げた。業界内でその名を轟かせた大友氏が、満を持して2012年9月にスタートしたのが「ウチコミ!」だ。今はまだ大きなプロモーションを仕かけていないそうだが、すでに会員は3000名(2012年12月現在)を超えている。
大友氏は、「ウチコミ!のサービスは、実は業者側にもメリットが大きい」と言う。というのも、不動産業界では顧客にリーチするための広告費が膨大になり、その負担が少なからず不動産価格を押し上げる一因になっていた。価格は当然、消費者の購入価格に転嫁される。
売りやすい物件を売るほうが手数料が稼げる仕組みも、消費者が払わなくてもいいコストを負担させている。悪化が良貨を駆逐するがのごとく、消費者側に不信、不満が募り、強いては業界全体が斜陽化する。大友氏はこの仕組みを、2001年にノーベル経済学賞を受けた「レモン理論」を用いて、彼の著書『不動産屋は笑顔のウラで何を考えているのか?』(幻冬舎)でわかりやすく解説している。
皮が厚く、見た目では中身の品質がわかりづらいレモンを売るほうが楽に儲かるが、薄皮のため、見た目で品質がすぐわかるピーチは売りづらく儲からない――。悪貨をレモン、良貨はピーチになぞらえて、こうした行為を続けていくと、マーケット全体に品質の悪いレモンがあふれ、消費者自体が離れてしまう。結果、誰も商品を買わなくなる。結局、全員が損をする、という構造だ。
日本の国内人口は減少の一途をたどり、不動産も余りはじめている。空家の多さが社会問題としてニュースにもなっているが、若年層の生活スタイルの変化や購買力そのものの低下も、不動産業界の退潮に拍車をかけている。そんな危機感から、大友氏は「業界構造自体を変えない限り、先行きは暗いまま」と考え、業界革新への挑戦を決めた。
不動産業界を15年進めるという志で起業。
将来への展望
取材の最後に今後の展望を伺ったところ、「不動産業界の時計の針を15年進める」とのコメント。大友氏の業界革新の理念に共感する仲間も多く、最近はさまざまな講演依頼も入っている。特に不動産業界に長く身を置いている人ほど、大友氏の理念に強く共感するそうだ。
「日本で一番消費者のための不動産屋さん!」というのが「ウチコミ!」のメッセージだ。大規模なプロモーションや宣伝はせず、理念に共感してくれる顧客のクチコミでサービスを広げていきたいという大友氏。2013年初頭には、スマートフォン向けのサービスも投下する予定だという。
不動産業界の洗練度で、日本よりはるかに先行している米国では、不動産業者の社会的地位はとても高い。弁護士などと同じように扱われるという。なぜなら「消費者の代理人」というポジションが明確で、尊敬される仕事と認識されているからだ。
しかし、残念ながら、日本で不動産の営業マンは憧れの職業であったり、尊敬されるというイメージはない。それは本質的に消費者の代理人になっていない構造自体に原因があると大友氏は見る。
また、米国は中古住宅の流通が盛んだが、それに比べて日本での中古住宅の流通が盛んではないことも問題として挙げられる。政府も「100年住宅」といった政策を行っているが、まずは業界自体が古い体質から変革しない限り、中古住宅の流通活性化は難しいだろう、とにかく本質的なサービスを行うことが重要であると大友氏は語ってくれた。
大友氏の取材からは、業界を本気で変えようとする高い志、熱い思いがヒシヒシと伝わってきた。ぜひとも、不動産革新を成し遂げてもらいたい。心の底から応援したくなるベンチャーである。
株式会社アルティメット総研 | |
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代表者:大友 健右 | スタッフ数:14名(リフォーム事業のプロタイムズ総合研究所は約70名) |
設立:2012年9月 | URL:http://uchicomi.com/ |
事業内容: 不動産流通サイト「ウチコミ!」の運営。不動産仲介事業。 |
当記事の内容は 2013/1/8 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。