二人だけでつながる? 1週間に万単位で投稿が増加! SNSの常識を変えるサービス「Pairin(ペアリン)」

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 谷垣 俊介

投稿数が一週間に万単位で増加! 誰にも邪魔されない二人だけのSNS
展開している事業内容・特徴

jig-pairin1これまでスマビ総研では、さまざまなかたちのSNSを紹介してきた。世界最大のSNS、FacebookやTwitterを利用するユーザーは、2012年10月時点で、国内に2000万人以上といわれている。しかし、その9割がアカウント登録を済ませただけで、実際には使っていないという調査もある。

自分が投稿した内容がどれほどの人に見られるのかわからない、間違って変なことを投稿してしまってトラブルにならないか、あるいはせっかく投稿しても誰の目にもとまらないのではないか……巨大なSNSには、そうした漠とした不安があり、なんとなく使うのが怖いというユーザーも多いと想像される。

そこで、今回は巨大SNSを利用することに抵抗がある人も安心して使うことのできるサービスを紹介したい。それが、母娘や親友、恋人同士でつながることができる「Pairin(ペアリン)」だ。

2012年8月21日にサービスを開始したこのSNSの最大のポイントは、二人だけのSNSという点。夫婦や恋人同士が、タイムライン上に「今から帰るよ」「今ここにいるよ」「こんな場所でご飯食べたよ」といった日常的な会話や写真、位置情報などを投稿することができる。親しい人との二人だけのSNSなので、不特定多数の人の目に触れる心配は当然ない。

SNSとはなんなのか…?という問題提起にも思える、思い切ったサービスだ。eメールや携帯のショートメッセージでやりとりするのと何が違うのか、疑問に思う読者も多いだろう。

「Pairin」の特徴は、ポップなデザインで動きのあるインターフェースにある。200種類ほどのかわいい動物などのスタンプをコミュニケーションツールとして使うことができ、送信者の代わりに感情的なレスポンスをしてくれる。そのため、文字だけのシンプルな会話で相手を不安にさせたり、盛り上がりに欠けることはない。また、このスタンプは写真と一緒に投稿することで、写真を彩ることもできる。

登録方法も簡単。アプリをインストールし、一方のユーザーがもう一方のユーザーのアプリ内に表示されているQRコードを読みとるだけ。相手と離れている場合は、メールでペアになることもできる。わざわざ個人情報を登録しなくても使い始められる、という点も人気の理由のようだ。

このサービスを運営しているのは株式会社jig.jp。ピンときた方もいるだろうが、携帯電話向けフルブラウザ「jigブラウザ」の開発会社としても有名だ。

今回取材させて頂いた佐藤智香氏(事業開発部マーケティンググループ)によれば、「通常のSNSは個人情報を登録させる場合がほとんどだが、個人情報を登録することでいつも誰かに見られているような感覚になりがちで、そこにユーザーが抵抗感を感じているはず」と考えた。そこで「Pairin」は個人情報の登録はなしに、QRコードの読み取りだけで利用できるようにしたわけだ。Android、iPhoneはもちろん、ガラパゴスケータイなどすべての機種で利用することが可能。個人情報を登録しなくても、相手は自分のよく知っている人物になるので、自然と活発に利用されるサービスになるはずだと考えたという。

また、「Pairin」の開発にあたっては、とにかく気軽に使ってもらうために、使いやすさに徹底的にこだわった。ウォールへの投稿は、ボタンを2、3回押す操作だけでOK。また、スマートフォンの操作感覚にまで技術的に手を加えて、ボタンの体感的な感度を高めてストレスを軽減させる工夫を凝らしている。そうやってサービス開発にとことんこだわった結果、ユーザーからの熱烈な支持を受けて急成長。

ユーザー数は非公開だが、投稿数は1週間に万単位で爆発的に増加中。バズマーケティングには向かないSNSなので、ユーザーの伸びには苦戦すると想定していたが、投稿のやりとりは活発化しているようだ。

従来のSNS になかった新たなビジネスモデル

ビジネスモデルにも特徴がある。一般的にSNSは広告を出すことで収益を上げているが、「Pairin」には広告が一切表示されない。広告主という第三者に介入されることにより、二人だけのコミュニケーションの場は台無しになってしまうと考え、完全クローズドの環境を維持している。

では、どこに収益源を求めているかというと、ユーザーからの直接課金だ。サービスを開始してから約2週間後の2012年9月5日に、有料のプレミアムサービスを搭載した。それまでの無料版は過去のデータ保持が数カ月と限られており、一度投稿したものは削除することができなかった。これに対し、プレミアム会員では、過去の投稿データの無期限閲覧、一度投稿したデータの削除も可能。さらに、タイムラインを月別で表示でき、過去データの閲覧をしやすくしている。

「Pairin」はFacebookのように、誰とでもつながることを求めて広がっていくというものではなく、二人でソファに座りながら会話するように使ってもらいたいという思いがある。誰も入りこめない完全クローズドな環境を実現し、活発な利用が促進され、大切なデータを保管してもらえるようになると佐藤智香氏は考えている。プレミアムサービスは、大切な人との二人だけのやりとりをいつまでも残しておきたいという心理を汲み取ったサービスというわけだ。

「Pairin」は、二人だけのつながりの場として楽しむことができるが、その後の活用も考えられる。例えば、結婚式のスライドショーでの利用や、将来の子供に両親の昔の思い出を見せる手段にもなるかもしれない。

SNSへの抵抗を取り除き、世代を超えて語り継げるようなツールをつくりたいと思った
ビジネスアイデア発想のきっかけ

jig-pairin2現在、SNSに登録したものの、実際には利用していない人が多数いるということは冒頭でも述べたが、佐藤智香氏は、これは携帯電話が流行し始めた時と似た現象だという。

当時、機械操作に不慣れな50代以上の層は、誤って他人に発信してしまったり、間違えてメールを送ってしまうことを懸念して、携帯電話を利用することを躊躇していた。しかし、らくらくホンなど、操作が簡単な機種が出てからは、それまで携帯電話を利用していなかった層が、子どもと携帯電話で頻繁に連絡をとるようになった。あらかじめ登録した家族や親しい人への連絡が簡単にできるようになり、一度操作を覚えてしまえば他人に間違えて発信してしまうということはなく、安心だからだ。

 「Pairin」は、SNSのらくらくホンのような役割を目指している。例えば、家族や友人と一緒に撮った写真を共有する際、Webの写真共有サービスは他人に見られてしまうというリスクが付きまとう。現在、そこに抵抗がある年齢層は多い。そこで、家族など、親しい間柄だけで共有するようなSNSが必要とされているのではないかと佐藤智香氏は考えた。

しかし、現在では世代間でケータイの利用用途が異なることや、スマートフォン、ガラパゴスケータイなどのデバイスも異なることから、今の状況で家族向けのSNSを謳っても普及させることは難しい。そこで、家族同士の関係性がどのように変化するかを分析したところ、10~20代の時は両親との関係が薄れることが多いが、結婚をきっかけとして再び両親と深くかかわるようになることが明らかになった。また、結婚相手の両親とのつながりも増えることから、結婚をきっかけとして家族とのネットワークは広がるようになるという分析結果を踏まえ、結婚前のカップルをメインターゲットにした。

結婚後、SNSが結婚した人たちの親世代にも普及し始めることで、拡散的に広げていくことができるだろうと佐藤智香氏は考えたのだ。

「Pairin」の世界観のつくり方には苦労したという。せっかく親の世代が興味を持っても、サービスを使ってガッカリされたら二度と使ってはもらえない。そのため、まず使ってもらえることを一番に考えた。機能の肥大化を防ぎ、残すところ、省くところは入念に検討して仕様を固めていった。

中でも「スタンプ機能」は、スマートフォンが普及していない世代でも使えるようにするために、どのケータイでも共通したクオリティにするということも考えて搭載されている。

押し入れの中を久しぶりに探った時に、思い出深いものが出てきた時の喜びを得られるようなサービスをつくっていくこと。そして、それらが一つ二つ世代を超えて語り継がれていくことが佐藤智香氏の理想だ。

250円でどこまでユーザーを喜ばせることができるか?最高を目指す
将来への展望

今後の目標を佐藤智香氏に尋ねると、「プレミアム会員費の250円がよい買い物だったと思ってもらえるよう、250円で提供できる最大のサービスを目指していきたい」と答えてくれた。

最初は無料で使ってもらい、気に入ってもらえたらプレミアムサービスを利用してもらう。そうすることで、安心して大切なデータを活発にアップしてくれるようになればいいと考えている。プレミアムサービスの充実化にも力を入れ、例えばオリジナルスタンプの種類を増やすことや、写真をキレイなアルバムにしてプレゼントをするサービスも検討中だ。そして、月額250円という金額以上の価値を提供していけるよう、努力していきたいと語ってくれた。

株式会社jig.jp
代表者:福野 泰介 スタッフ数:60名(2012年10月16日時点)
設立:2003年5月 URL:http://www.jig-pairin.com/
事業内容:
モバイルを中心としたソフトウェアの企画・開発・提供

当記事の内容は 2012/10/23 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

起業、経営ノウハウが詰まったツールのすべてが、
ここにあります。

無料で始める