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「自分らしいモノ」を求める現代に合ったハンドメイドマーケット
展開している事業内容・特徴
個人のクリエイターがインターネットで絵画、アクセサリー、衣服、バッグなどさまざまな手づくり作品を自由に出品することができるソーシャル・マーケットプレイスが人気を集めている。その名は「creema(クリーマ)」。
2010年6月にオープンした「クリーマ」は、12年7月時点で、クリエイター4500人以上が参加しており、それぞれの手づくり作品を出品している。出品されている作品は、どれもおしゃれでハイクオリティーなものばかり。ここでしか手に入らないものが多く、月間で10万人を超えるユニークユーザーが商品を求めて「クリーマ」に訪れる。
作品の買い手は女性が多く、年齢層は特に偏りなく幅広い。買い手は、自分の気に入ったクリエイターや作品をお気に入り登録することができ、それを見たクリエイターは、自分の作品が市場からどのような評価を得られるのか把握することができる。クリエイターからは、「クリーマに出品して、こんなに良い評価がもらえるとは思っていなかった」という声も多い。また、マスコミや海外のギャラリー、メジャーシーンで活躍する音楽アーティスト等からクリエイターを紹介してほしいといった打診もあり、紹介したクリエイターと協業することになった例も多数あるという。
参加クリエイターが、買い手のリクエストを受け付けて、オーダーメイドで作品をつくることもある。ただし、原則として出品者は個人のクリエイターであることが前提であるため、大量生産をする企業の参加は断っている。
「クリーマ」で扱う商品は、基本的にオリジナル作品や一点もの。そのため、売れ筋商品や格安商品を提供する一般的なショッピングサイトとは違った、感度が高いユーザーが主な買い手になっている。そんな客の質の高さも、「クリーマ」がユニークなサービスになっているポイントの一つだろう。
12年7月31日にリニュアルを行い、サイト全体のデザインを大幅に変更した。これにより、サイトの使いやすさも格段に向上した。これからも機能の改修・向上は今後もよりスピーディに実行していく計画だ。12年8月中旬には、伊勢丹とルミネでリアル店舗の出店イベントもあり、厳選したクリエイター131人の商品を展示する予定だ。
本当にいいモノが埋もれてしまうことは、どう考えてもおかしい。
ビジネスアイデア発想のきっかけ
「クリーマ」を創業した赤丸ホールディングス株式会社代表の丸林耕太郎氏の経歴もユニークだ。高校1年生からDJを始め、大学ではプロのDJとして活躍。国内外合わせて300本以上のライブに参加した実績を持っている。そして、DJとして音楽活動するなかで、ある疑問を感じた。それは、アーティストとしての能力はもちろん必要ながら、それ以上に、売り込みや人脈で仕事が決まっていくケースが圧倒的に多いということである。本当に素晴らしい能力を持ったアーティストが、仕事が得られず業界から消えてしまうことは本当に多い。そこに強い疑問を抱き、学生当時は、音楽業界を変えたいと思っていたという。
しかし、このようなことは音楽業界に限ったことではなく、アートや創作の世界でも同じであることに気づいた。「世の中によいものはたくさんある。音楽や絵画などの創作者が公平に評価される文化を定着させるためには、人脈や営業の上手さに関係なく、誰でも自分の作品を世に出すことができ、作品・個性・才能を公平に評価されるフラットな環境があるべきだ」と丸林氏は考えた。これがクリーマ創業の原点である。
しかし、まだ22歳の若者が世の中を変えたいと思っても、実際にどうすればいいのかわからない。そこでまず、28歳で独立することを決め、修業のために大手インターネット広告代理店へ就職。瞬く間に頭角を現した丸林氏は、営業マネージャーや事業部長を歴任。ビジネスのノウハウを身につけ、予定どおり28歳で独立を果たした。ずっと温めていた夢を実現すべく、営業力に関係なく誰でも作品を世に出すことができるサービス「クリーマ」をリリースした。
丸林氏が起業したもう一つのきっかけがある。それは、大学時代、DJイベントのスポンサー探しをしていた時、知り合いの紹介で、ある経営者と出会ったこと。
イベントをとおして成し遂げたい思いをぶつけると、その経営者は、スポンサーとしての協力を快諾してくれただけでなく、名だたる大企業の経営者の方々にも声をかけてくれた。資金集めに日々悪戦苦闘していたが、その経営者の決断一つで一気に解決してしまったという。
この時、スポンサーになってくれた経営者の度量の大きさに、感動と衝撃を覚えた丸林氏は、「いつかはあの人のようになりたい」という強い憧れを抱いた。音楽家ではなく、起業して経営者になることで、世の中を変えていくことを決意した瞬間だった。
ECサイトは激戦区。その中でクリーマが成長できた理由
「クリーマ」に出品されている商品は、街中で手に入るブランド品のように、生産元がはっきりしているものは少ない。買い手はそのような商品をほしがるだろうか……という不安も当初はあったという。
その不安のとおり、ユーザー獲得にはかなり苦労したという。クリエイターが創作したオリジナル商品を売る・買えるという新しい仕組みを理解してもらうために、さまざまなソーシャルメディアを活用したプロモーションを継続的に行うことで、地道にユーザーを獲得していった。
事業を急成長させる要因として、時代背景の変化は見逃せない。08年のリーマンショック、11年の東日本大震災と立て続けに起こる激変に、生活者の消費に対する価値観も変わってきた。
ちなみに高度経済成長期は、国民が「今日より良くなる明日のために前を向いて生きてく」といった考えで新たなモノを求め、多くの人がみな同じようにブランド品を買い漁るような時代だった。しかし現在は、生活に必要なものはある程度揃っており、以前と比較して、ブランド名よりも、個々の商品が持つ背景やストーリーが重要視されるようになった。
特に若年層は、「高級品」や「ブランド品」ではなく、「自分らしいモノ」を求める傾向が強い。自分らしさを知り、自分らしく生きていくということが向かうべき方向となっており、共感できるモノを選ぶ目がすでに養われている。そうした消費志向の変化も、クリーマのビジネスを成長させている要因の一つであろう。
目先の利益よりも、サービスの持つ本質的な使命を優先
将来への展望
事業を存続させるためには、もちろん利益を出さなければならないが、丸林氏によれば「クリーマ」は目先の利益よりも、このサービスの持つ本質的な使命に近づくことが優先だと言い切る。というのも、起業前「クリーマ」の構想を、お世話になっている経営者や身内に話した時、「そんなサービスやっても儲からない」と言われることがほとんどだった。しかし、丸林氏には当初から上手くいくという確信があり、実際にここまで成長でき、自分の判断が間違っていなかったと改めて感じている。
丸林氏の理念は、世の中の不条理をなくし、社会を元気にしていきたいということで一貫している。そして今、「クリーマ」をとおして創作品の流通を変えることで、本当にいいモノが評価され、輝ける状態を確立したいと考えている。今後もあらゆる分野に自身の理念を展開していきたいというが、まずは「クリーマ」のさらなる成長・発展に全力を傾けていることを優先させている。
インタビューの最後に丸林氏は、「クリエイターが洗練されたよいものをつくっても、その多くが埋もれてしまうのがこれまでの潮流だった。クリーマという新しい買い物の仕組みを完成させることで、そこに新たな経済圏ができあがる。現在は埋没してしまっている“本当にいいモノ”を、その経済圏で解放して行きたい」と語ってくれた。
赤丸ホールディングス株式会社 | |
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代表者:丸林 耕太郎 | スタッフ数:5名 |
設立:2009年3月 | URL:http://www.creema.jp/ |
事業内容: ソーシャルコマース事業、Webマーケティング支援 |
当記事の内容は 2012/8/22 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。