前代未聞。ネコがいるコワーキングスペース「ネコワーキング」

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 福田 秀樹

地域活性と働き方を変えたい思いで開設した「ネコがいるコワーキングスペース」
展開している事業内容・特徴

necoworking東京都千代田区、JR水道橋駅から徒歩数分のビル2階に2011年11月、新たなコワーキングスペースがオープンした。最近になって都内はもちろん、全国でもさまざまな形で登場しているコワーキングスペースだが、この「ネコワーキング」には他とは明確に異なる特徴がある。そう、名前のとおり2匹のネコが常駐しているのである。共有ワークスペースにネコがいて、癒されつつ仕事をすることができる。

ネコが一番偉くて、ネコに良い環境は人間にも良い環境、というコンセプトで運営。利用者同士のマッチングや交流も積極的に促す。そんなスタンスに共感し、ノマドワーカーやフリーランスだけでなく、会社員などの利用も多いそう。オーナーの広瀬眞之介氏は「地域と働き方を変える」をテーマに掲げ、このネコワーキングのオープンに至ったのだという。

今回は「ネコワーキング」を運営する広瀬氏に、その誕生背景や自身の考え方、そして目指すものも含め、インタビューさせて頂いた。

「地域」をテーマに学び、地域活性の起業を志してデジハリ大学院へ
ビジネスアイデア発想のきっかけ

「ネコワーキング」を運営する株式会社小石川の代表である広瀬氏は、東京都文京区に生まれ育った。東洋大学に在籍中の頃から地域に興味を持ち、地域活性の調査や活動を展開。卒業論文も地域がテーマ。「ITで地域活性がしたい」そのための能力を身につけ、起業へとつなげるために、大学卒業後にはデジタルハリウッド大学院に入学。この大学院時代の経験が起業へと繋がっている。

デジハリ大学院は、東京都千代田区にメインキャンパスを構える株式会社立の大学院。ビジネス、クリエイティブ、ICTの融合がこれからの社会について重要かつ欠かすことのできない要素と位置付け、それぞれの分野を身につけ融合できるプロデューサー人材を育成することを掲げている。

実は、デジハリ大学院にはいわゆる部屋としての研究室は「共同研究室」1つのみ。複数のゼミが同じ部屋で会議したり、作業したり、打ち合わせしたりしている。これは杉山知之学長の「せっかく同じ学内なのに、互いのゼミが何をしているか知らない大学が多い。プロデューサーがそれではいけない。」という思いが反映されている。

そうして、同じ部屋で並行していろいろな会話や作業がなされる。するとコラボレーションにも自然につながる。例えば映像撮影のゼミとECのゼミが協力とか。この環境が振り返ると「完全にコワーキングだった」と広瀬氏は語る。

デジタルハリウッド大学院はクリエイター育成ではなく、クリエイターをまとめあげるプロデューサーを育て上げることが使命の大学院。社会人大学院なので、社会人経験がない学生は数名しかおらず、広瀬氏のように学生から入学してくるのは少数派。在籍当時は、周囲とのレベルが違いすぎて、なかなか会話に入っていけず苦労したそうだ。

そこで広瀬氏はどうしたかと言うと、学生のメリットである「時間がある」を活かし、学内イベントをやったり、自分の知らない世界の人と多く知り合って話を聞いたりし、さらにそこから人と人を紹介するということをやっていった。

すると、「広瀬に聞けば誰か紹介してもらえる」「こんなイベントやりたいんだけどどう思う?」というように、どんどん話がくるようになったという。今思えば、まさにコワーキングスペースのオーナーそのもの。大学院時代のそうした経験が、そのままコワーキング事業の立ち上げへと繋がる。

うつ病の付き合いが「働き方」を考えるきっかけに

そんな広瀬氏、実は大学院生から社会人になってしばらくした頃に「うつ病が再発する」という大きな転機を迎えたという。大学院時代には地元・文京区の地域サイト、社会人時代には全国地域SNSサイトを手掛けていたが、どちらも思うようにいかなかったということもあり、全く動けなくなってしまった。会社もやめて、1年以上休養することに。

その後、少しずつ外に出るようになったが、隠してもしょうがないので「自分はうつ病である」ということを出会った人にほぼ伝えるようにしていた。すると、思いのほか多くの人から相談を受けるようになった。

「うつ病ではないか?」と思われているご自身のこと、あるいはその方の親兄弟・恋人などのこと…皆さん問題の原因は「仕事」であることが多かったです。結局、仕事環境や働き方を改善しないと症状は良くならない。ならば、そんなことが起こらないようにしたい。と思うようになりました。この経験がその後の「コワーキングから日本の働き方を変えられないか?」につながっていったという。

うつ病からのリハビリ時に参加していたのが「デジハリ田舎実験室」という団体。デジハリ大学院に通っていた地域関係者数人からスタートした自主ゼミのようなもので、地域とWebをはじめとするデジタル・クリエイターの互恵関係の構築を目的に活動を展開しています。この団体の代表も広瀬氏が務めているという。

地域活性と言っても幅広いが、特にテーマとしていたのは「働き方」、もっと具体的に言えば「IターンやUターンの支援」。地元や田舎で仕事をして地域活性に貢献したいと思っても、自分の経験を生かせる仕事がなかったりして、実現できない人がいる。地域活性と働き方の改善は、広瀬氏にとってイコールでつながっている。

コワーキングとの出会い。先駆者や知人からの支援を受けてわずか9カ月。 さまざまなテーマを盛り込んだ「ネコワーキング」が誕生

実は、広瀬氏がビジネスとしてのコワーキングというものを知ったのは、「ネコワーキング」を設立するたった9か月前だという。「もっと良い働き方がないか」「良い地方や都市での働き方はないか」「コラボレーションしやすい働き方はないのか」そんなことを考えていた時に、知り合いの方から教えて頂いたのがコワーキングスペースだった。

話を聞いたり、実際に目にしたりして「これだ!」と直感した広瀬氏は、仕切りのないシェアオフィスで仕事や交流ができる、お互いにアドバイスし合ったり、仕事を振ったり振られたり、新たなプロジェクトが生まれたりという作用もある…。これこそ、理想の働き方の一つではないのか、と。

ただ、事業モデルとしてのコワーキングは参入障壁が低く、他との差別化が必要。そんな時にデジハリ大学院で一緒だったフリーランスの空間展示デザイナーの方からの思いかげない一言「ネコがいたらどう?」が活路になった。さらに「ネコがいるコワーキングオフィスなんて、ビジネス的にもMBA的にもおすすめしない。でも自分なら行っちゃう」と言ってくれた方もいて、ネコワーキングのアイデアが生まれた。常識外の差別化要因こそが成功のポイントになったのだ。

また、以前からお世話になっている、だんご3兄弟のプロデューサーで、デジタルガレージ元取締役副社長の吉田就彦先生からは「ネコを飼うなら床板もいいのを敷いてあげて、壁も漆喰を塗ったら?ネコのために整えた環境は人間の環境的にもいいものになるよ」という助言も頂き、これがそのままネコワーキングのコンセプトになった。

こうしてまとめていったプロジェクトが、2011年8月には内閣府地域雇用創造事業ビジネスプランコンペで入賞。珍しいコワーキングスペースということでさまざまなメディアにも取り上げられた。

「ちなみに2匹のネコ、オスの白黒ブチ「キング」とメスのキジトラ「ココ」は、里親探しNPOから引き取りました。人懐っこく、仲良くじゃれあう様子は微笑ましいと利用者にも人気ですね。」とは広瀬氏の談。

ネコワーキングが目指すもの 「No Cat, No Creativity」、そして「オーナーは編集者、作り手は利用者」
将来への展望

最後にネコワーキングとして、また広瀬氏の今後の展望を伺った。

ネコワーキングは、本当に多くの方のアドバイスや力添えのおかげでスタートすることができました。ある方に「みんなが創りたいモノを広瀬さんがお金を出して作っていませんか?」と言われたのですが、全くそのとおり。私は皆様の力を編集しただけで、今も利用してくれている皆様が作ったスペースだからこそ「利用しやすい」「落ち着く」「楽しい」場所になり、もっと言えば、「働き方を変え、地域を変えうる場所」になると思っています。

「No Cat, No Creativity」という、ネコワーキングのコンセプトにしている言葉があります。ネコはあくまでフックの一つですが、ネコにとって幸せな仕事場にすることで、人間にも幸せな結果をもたらします。ネコに癒されることはもちろん、ネコが初対面の人との会話のきっかけにもなり、コミュニティの形成にも役立ちます。それがクオリティやクリエイティブの結果にもつながると思うのです。

オープンから8カ月が経ちますが、本当にさまざまな職種・境遇の方が訪れてご利用頂いています。あえて、共通項を探すならば、皆さん多くの方とつながるための「絆コスト」(…例えば「話を聞く」「力を貸す」といったものです)を喜んで払いたいと思ってくれる方たちです。皆さん「誰かの力を借りられれば」と同時に「自分の力が誰かの役に立てば」という思いを持っている。こうした方たちがいてくれるからこそ、皆が作る場でとしての「ネコワーキング」が存在できているのだと思うし、これからもそうありたいと思っています。繰り返しになりますが、オーナーである自分は「編集者」。作り手は利用者の皆さんです。

これから起業を目指す人たちへのメッセージ

このネコワーキングをやっていく中で、非常に多くの人達と出会い、自分の力不足を痛感しております。起業家なんて一括りにされるのが、大変申し訳ない。恐ろしい実力差がございます。

もっと哲学書を読んでおけばよかった、もっとアート系のイベントに行けばよかった、もっと多くの現場の人達に会えばよかった、もっときちんと会社で成果を出せばよかった、もっと健康に気を使って体力をつけておけばよかった。などなど。

もし、過去の起業を目指していた自分にアドバイス出来るなら、「ぜひ今の場所で全力の成果をあげると良い。」「その上で他の分野の勉強や活動もし、そちらも全力の成果をあげるのが望ましい。」と伝えます。

起業をすると圧倒的に時間が足らなくなると思います。基礎力をつけるなら起業前です。何が必要かわからなければ、ベンチャーに入る・気になる方のカバン持ちを(社会人であっても)すると良いと思います。その上で、身に付けるべき基礎力をつけて起業すること。過去の自分にもそう勧めたいですも。皆様一緒に頑張らせてください。

株式会社 小石川
代表者:広瀬 眞之介
設立:2011年11月 URL:http://necoworking.com/
事業内容:
まちづくり事業、地域活性化事業、環境計画等に関する調査研究およびコンサルティング、人材育成、事業創出

当記事の内容は 2012/8/2 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

起業、経営ノウハウが詰まったツールのすべてが、
ここにあります。

無料で始める