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二等立地のハンバーグ屋さん。1時間に5回以上の回転率!
展開している事業内容・特徴
山手線JR田町駅から徒歩で15分、第一京浜沿いを歩くと雑居ビルの1階に、小さなハンバーグ屋がある。それが今回紹介する「メッツハンバーグステーキ(以下、メッツ)」。駅前の繁華街からはかなり遠く、飲食店がほとんどない二等立地で、店内は14坪22席。それらの条件だけ聞けば繁盛しそうにないのだが、ランチタイムの1時間で120食が売り切れる。しかも、土日休業の平日営業のみで、月商280万円強を叩きだす、驚異のハンバーグ屋である。
メッツは、2011年の“食べログ”人気ランキングで、11、12月と連続1位を獲得している。一番人気の商品は、140gのデミグラスハンバーグと、コーンとフライドポテト、200gのライスのセット。その価格は、なんと500円。ワンコインで食べられるとは思えないボリューム感、コストパフォーマンス抜群のハンバーグなのだ。
この店の人気を支えているのが、「クイック提供」「 シンプルオペレーション」「商品力」という3つの戦略である。
一般的にハンバーグの焼き時間は8分程度必要といわれているが、メッツでは、コンベアグリルを使用し、直火焼きハンバーグをオーダーからわずか2分で提供する。コンベアグリルの一部を特注し、キッチンオペレーションを極限まで効率化したことで、実現したという。
店舗で実際に見学してみたが、手書き伝票がキッチンに渡ると、注文を見越して事前に焼き続けているため、最短だと30秒程で商品ができ上がる。だから、平均13分でお客が回転していくわけだ。この「クイック提供」にも、回転率を高めている秘密がある。
「シンプルオペレーション」は、スタッフを観察すると理解できる。店には70代のオーナーの両親と、50代のパート主婦、社員が1名のたった4名のみ。お父さんは店頭で弁当を売っているので、実際には店舗を回しているのは3名。それだけで120食を売り切る。
それを可能にしたのがメニューだ。メニュー表を見ると商品数が多いと感じるが、ベースは1つのハンバーグ。ソースとトッピング、ハンバーグの枚数を組み合わせることで商品バリエーションを増やしている。客も悩むことなく、好みのメニューをすぐに選ぶことができる。
グリルスタッフは、焼き続けているハンバーグを皿にセットし、伝票確認後ソースとトッピングを乗せて提供する。すべてをクイックに提供することに集中した結果、生まれたシステムである。
「商品力」の強さは、やはり一番人気の「メッツハンバーグ」にある。先述した、デミグラスハンバーグ、コーン、フライドポテト、ライスのセットだ。その原価率は41%。飲食業界に詳しい方ならおわかりだろうが、この内容でこの原価率は信じられないほど低い。来店客の38%がこの商品と日替わりランチをオーダーするという。
しかし、店客の45%が、もっとも利益率の高い750円の商品をオーダーしている。ここにも儲けの秘密がある。客はまず、ワンコインのメッツハンバーグに引き寄せられる。強烈な商品力で新規客を集客して、驚くほどの満足を提供、その後、何度もリピートしてもらいながら、利益が出る商品への誘導を行う。この流れがスムーズに実現されているためか、同店では実に15%もの経常利益を確保している。
すかいらーく創業者・横川紀夫氏の最後の愛弟子が仕かける新業態
ビジネスアイデア発想のきっかけ
メッツハンバーグステーキを立ち上げた福井基博氏は、スカイラークの創業者で伝説的な経営者だった横川紀夫氏の、最後の愛弟子だったそうだ。すかいらーく退社後は、某外食企業の経営者を任され、その後に起業。福井氏は、フランチャイズ業態とハンバーグに強い思い入れがあって、メッツハンバーグの開業を決断したという。
確かに、ハンバーグといえばファミリーレストランの花形商品であり、子供の好きな料理トップにたびたび選ばれるのもハンバーグだ。昨今、肉屋直営のハンバーグ店が脚光を浴びている状況を見て、やりようによってはまだまだいけると考えた。
一方、ファミリーレストランという業態自体の人気が衰え始め、ここ数年、大手各チェーンの撤退も増えている。経営基盤が脆弱になった結果、ハンバーグというメニュー自体が経営サイドから敬遠されるようになってきた。
それはなぜか? ハンバーグという商品は、肉の品質やブランドに頼る部分が多く、結果として原価が高くなる。また、焼き時間が長くかかるため、クイック提供ができず席が回転しない。しかも、商品バリエーションが意外と乏しい。そんな3つの弱点がある。しかし、ハンバーグは人気商品であることは間違いない。そこで、これら3つの弱点をクリアできれば大きなビジネスチャンスになると考えたわけだ。
福井氏が起業した理由のもう1つが、外食産業がよく揶揄される「3K」の撲滅である。キツイ、汚い、危険、という3K産業の常識を打ち破り、土日を休んでも経営が成り立つような業態をつくりたいという思いもあった。
そして福井氏は、コンベアグリルを採用した徹底的な省力化を実現。ハンバーグは前職のネットワークを活用して、OEMによる外部製造、安定供給を可能に。また、曜日毎、時間帯毎の販売商材と戦略を明確にした経営で、22席で連日120食を売り切るという見事な経営体制を実現したのである。
現在のシステムをブラッシュアップし、より大きなビジネスチャンスを模索中
将来への展望
田町の同店では、現在、ランチタイムのピーク前に、近隣オフィスにデリバリーも実施している。昔ながらの出前スタイルで、40食2万5000円分を売る。デリバリーと店頭の弁当、来店客のランチを合わせると、1日13万円超、1カ月280万円を超える売り上げとなる。そのうえで、経常利益15%を確保。非常に優良な経営モデルができ上がっているといえるだろう。
十分な業態検証を終えた現在、このシステムを活用して、今後は直営店を数店舗展開する予定だ。さらにフランチャイズ化による多店舗展開の本格化も準備中であると、福井氏は豪快に笑いながら語ってくれた。実際に取材し、店舗の状況を観察させてもらった私は、福井氏の構想が早晩実現することを確信している。
デフレ不況が叫ばれる昨今、低価格飲食店の参入は後を絶たないが、工夫しだいでまだまだ飲食業界にもチャンスがあると思わせてくれたベンチャーであった。常識的に、考えられていることの中にこそ、新しいビジネスチャンスは転がっている。
追記:スマビ総研の記事で掲載したお店がWBSで放送されました!
スマビ総研で紹介したメッツハンバーグが、2012年6月1日(金曜日)放映のワールドビジネスサテライト(WBS)に取り上げられました。
事の発端は、1本の電話からでした。
5月29日(火曜日)、メッツハンバーグのオーナーとのFC化の打ち合わせの際に報告を受けたのですが、WBSのディレクターから直接お店に電話が掛かって来て、取材をさせて欲しいと依頼されたとのことでした。明日がその取材日なので、私にも同席して欲しいとお願いされました。
オーナーの話によると、ディレクターはスマビ総研の記事を見て連絡をくれたようであると言います。 それは、電話で簡単なやり取りをした際の内容が、スマビ総研の記事の内容と同じであったことからです。
ご依頼とおり、当日、私も取材に立会いました。
ディレクターと挨拶をした際に、取材ネタはどこかを聞いてみたところ、やはりスマビ総研を見たとのことでした。
メッツハンバーグのオーナーが、「あの記事を書いたのは須田さんですよ」と、私を紹介してくれました。
そこで、メッツハンバーグの素晴らしさと優位性の分析内容をお話し、ディレクターからいくつかの質問もされ、そのインタビューの内容をベースに撮影が進行していきました。
放送日に私もいつもどおりWBSをみましたが、取材風景のとおりの放映となっておりました。
そして、番組終了後、最初の営業日である月曜日に驚く事がおきました。
番組内で、オーナーはFC化を図るため準備を進行中であると発言しましたが、なんと月曜日にぜひFCに参加したいという社長さんが、東海地区のある地方都市から来店されました。
その社長さんは現在ある業態をFCで経営なさっているとのことで、テレビを見て直感的に「これだ!」と感じたそうです。それで、居ても経ってもいられなくなり、朝いちの新幹線で上京したそうです。
しかも、火曜日にはFC参加表明の問い合わせが3件あり、日に日に増加しているようです。
FCシステムが構築される前に、フランチャイジー候補が数名いらっしゃるという、驚くような状況になっております。
取材時に、ディレクターといろいろな話をしましたが、「取材ネタが無く困っている」と話しておられました。
今後も面白い店を発見した際には、直接連絡を欲しいとディレクターにお願いもされました。
このようにスマビ総研はマスコミ関係者も注目しているようです。
今回のようにテレビで取り上げられたことにより、業容が大きく変化することも起こりうるということが、実証されたと感じます。
起業家のためにも、スマビ総研をより充実させた内容にしていきたいと改めて感じたしだいです。
メッツハンバーグステーキ | |
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代表者:福井 基博 | 社員:3名 |
設立:2010年5月(店舗オープン) | |
事業内容: ハンバーグ店の運営 |
当記事の内容は 2012/4/24 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。