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全国からお客さんが集まる。日本で唯一のフォルクスワーゲンGOLF2専門店
展開している事業内容・特徴
世の中には、実にさまざまな専門店が存在している。今回紹介するのは、あるメーカーの、それも一つの車種だけに限定した専門店だ。そんな商売が成り立つのか?と、疑問を持たれる読者も多いだろう。しかし、東京都町田市にある「スピニングガレージ」は、フォルクスワーゲンのGOLF2という車種のみを扱い、堅調な経営を続けている。
扱う車種は、GOLF2のみ。しかも、この車は、生産中止からすでに20年が経過しているのだ。そして、日本全国で唯一のGOLF2専門店である「スピニングガレージ」には、東は北海道から西は沖縄まで、日本全国からお客さんがやって来る。
売り上げ的には、GOLF2の中古車販売と整備・部品販売が半々くらいだそうだ。しかし、生産を終了した車種のため部品のメーカー在庫も残りわずか。よって、最近は自ら車両部品を生産する工場に出向き、自社でオリジナルの部品を製造したり、流用できるほかの車両の部品を活用したりもする。
客層は20代から70代までと幅広く、4割が車で1時間半ぐらいのエリア在住者(都内・神奈川県・埼玉県)で、6割がそれ以外の遠方からの客になる。「お客というより、GOLF2を愛するファン・同士といった感覚で、そうした仲間意識に支えられて経営できている」と創業者の田中延和氏は語ってくれた。まさにブルーオーシャンの模範ともいえる経営戦略である。
日本国内のGOLF2ユーザーがどの程度いるかはくわしく調べていないそうだが、「5000人に届かないぐらいではないか」と田中氏は言う。つまり、それだけのマーケットでしかないのだが、“国内唯一”という強みで、同店は創業以来ずっと黒字経営を続けている。起業してから2年半頃までは1人でやっていたそうだが、その後仲間が1人増え、2人増え……現在では12名の常勤スタッフを抱えるまでに成長。
店内には数々のトロフィーが飾られていた。これらはすべてフォルクスワーゲン限定の国内レースで獲得したものだという。GOLF2は20~30年ほど前のモデルだ。しかし、「古い車でも自分たちの技術があれば最新の車種にも勝てる」ということをこれらのトロフィーが証明している。ちなみに、店の定休日は水曜日と「サーキットに行く日」だそうだ。
自分の好きなことで看板を出すことにこだわった
ビジネスアイデア発想のきっかけ
「スピニングガレージ」を起業した田中氏は、大学時代には音楽(DJをやっていたそう)と車に熱中し、大学卒業後は音響機器メーカーに就職した。しかし、入社2カ月で退職。それから1年間、起業の勉強をしながらアルバイトで300万円を貯めた。
田中氏の愛車は、もちろんGOLF2。だが、当時発売された最新モデルのGOLF4に試乗した時、「何か物足りない」と感じたという。それからさらにGOLF2にこだわるようになり、ついには「自分の好きな車=GOLF2」の専門店を開きたいと思うようになった。
そして、アルバイトで貯めた起業資金を元手に「スピニングガレージ」を開業。「資金が底を尽きたら、再就職すればいい」と思って起業したのだという。
起業当初は、車の保険販売(損害保険代理店)が、売り上げのメインだったそうだ。しかし、知人から頼まれるなどして、GOLF2の修理依頼が増えていく。その後も口コミで修理依頼がどんどん増加し、自然と保険販売よりも売り上げが大きくなった。
1998年4月に起業。1999年中頃からは修理業がメインとなり、そこからの2年半は1人経営。その後、昔からの友人が参加(現在はメカニックを担当)し、徐々にスタッフが増えていく。
当然ながら経営が苦しい時期は何度もあった。GOLF2専門店という看板を下ろして、ほかの車種も扱えば経営も楽になる……。そんな思いがよぎるたびに「自分は本当にこの車が好きなのか?」と自問自答した。
「やはり好きなことなら頑張れるし、ストレスもない。そして、何より自分の大好きな車事業で失敗したら、もう後がない……。そんな恐怖感も手伝って、真剣に覚悟を決めてGOLF2と向き合った。結局は、それが成功のポイントだった」と、田中氏は語ってくれた。
お客や競合ともよい関係づくり
日本で唯一のGOLF2専門店という情報は、少しずつ広まっていった。それゆえ、ことGOLF2に関しては、ほかの整備会社ができないことでも「スピニングガレージなら対応できるかもしれない」と、本来なら競合するような他の会社や店からお客を紹介してもらうことが増えた。
さらに、田中氏が店を始めてから13年間の間に、競合する店がどんどん新しい車種に切り替えていった。しかし、田中氏は看板を断固として変えなかった。そうやってGOLF2にこだわり続けた結果、残存者利益という大切な果実が残されたわけだ。
GOLF2はとても丈夫な車である。これだけ長い期間、乗り続けられる車だからこそ、「スピニングガレージ」のビジネスは継続できている。GOLF2という車を選んだことも、成功要因の一つだろう。
もっとも大きな成功要因として田中氏は、「お客さんといい関係を築けていることにつきる」と語ってくれた。店には自然とGOLF2好きが集まるわけで、お客様というよりファン、仲間同士という感覚で話が盛り上がる。そして、お客との間に深い信頼関係が生まれる。そんな良質な顧客層が、同店の経営を支えてくれている。
ずっとGOLF2専門店を続ける自信がある
将来への展望
「スピニングガレージ」のビジネスモデルについて、田中氏はとある経営コンサルタントから「ビジネスはその人にあった方法でやればよい。続けられることが一番大事」というアドバイスをもらい、それを実直に守っている。
そして、「ほかの車種を扱って平行展開すれば売り上げが大きくなるのはわかっている。しかし、自分が好きなものでないと続かない。だから、自分は自分のやり方を貫こうと思っている」と田中氏は言う。
取材の最後に今後の展望を聞いたところ、「この仕事は一生続けていけるという手応えを感じている」と答えてくれた田中氏。すでに小ロットながら自社から発注して部品を生産しているが、今後は部品を自社生産する計画も。いずれはGOLF2に必要な部品すべてを供給できるようにするのが目標だそうだ。
その先の夢も聞いた。「実は、ほかに熱中できる車種が出てくればそれもいいな、と思うこともあるんです。でも、同じ価値観を持った仲間が集まれる飲食店を併設したり、作業所、授産所、更生保護施設的な意味合いを兼ねた工場づくりや、さらにはサーキットもやりたいし、農業もやってみたい(笑)。そんなことをスタッフやお客さんといつも話して、盛り上がっています」。田中氏は笑顔で語ってくれた。
スピニングガレージ | |
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代表者:田中 延和 | 社員:12名 |
設立:1998年4月 | URL:http://www.spinninggarage.com/ |
事業内容: 中古車販売・買取、メンテナンス、車検、チューニング、損害保険代理店など |
当記事の内容は 2012/4/19 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。