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無料で電子書籍がつくれて販売できる新サービス。利用数はすでに3万冊!
展開している事業内容・特徴
誰でも無料で自由に電子書籍がつくれて、しかも販売までできるという新しいサービス、「BCCKS」が急速にユーザーを増加させている。12月に販売ができる機能をリリースしてから、すでに一般ユーザーにより販売される本が増えているという。その内容も個人のエッセイや写真集、絵本、劇団の脚本など多岐に渡っている。
サービス自体は2007年にスタートしている。当時はブログからの書籍化がはやり始めた時期。ユーザーからインターネット上で個人が自由に文章を公開できる場が増えたことは歓迎されたが、ブログは従来の書籍と比べるとフロー型でまとめには適さない。個人が発表した文章や創作物を、本のように読みやすいかたちにまとめるサービスがあってもいいのでは……。そんな思いを募らせた、現・株式会社BCCKS代表の山本祐子氏を含む有志3名が集まり、「BCCKS」の運営元である同社が産声を上げた。
しかし、スタートから数年は試行錯誤の連続だったという。いろいろなアイデアを試しながら、システムも大幅に変更した。そして、今の「BCCKS」のかたちが完成したのが、2011年9月。同年12月には電子書籍の販売も開始し、一気に利用者が急増。販売サービス開始前と比べると、毎月10倍のペースでユーザーが増えている。
注目ポイントは、「BCCKS」の「印税」率の高さだ。その印税率はなんと70%! 残りの30%が「BCCKS」の取り分だが、一般的な出版物の印税率が10%前後といわれていることを考えると破格に高い印税率である。さらに印税は複数人で分割する設定も用意しており、共同出版にも対応している。印税は5000円以上溜まると支払われる仕組みだ。
電子書籍として販売されるのは、100部単位と小規模なものが多いのが特徴だ。そんな「BCCKS」は、通常の出版物の流通には乗らない少部数の書籍を、実験的に編集・販売するプラットフォームとしてプロの作家からも注目されている。
ちなみにどんな本があるのかといえば、電車の座席の写真だけを集めた写真集(210円)や、美大の学生によってつくられた本(講義の一環?)、某劇団の台本、果ては個人の入院日記などもあるという。なかには、Twitter上で行ったコンテストをまとめて本にして発表したり、「中身」がまだない本を105円で売っている作家もいて、実際にある程度の部数が売れたら、後で中身を書くという趣向らしい。従来の出版ビジネスの常識を超えたコンテンツが、「BCCKS」から続々生まれようとしている。
簡単なのに高性能! プロも使用するハイクオリティーな編集ツール
「BCCKS」で電子書籍をつくるのはとても簡単だ。会員登録後、「つくる」ボタンを押すと専用の編集画面が立ち上がる。あとは、そこにタイトルや本文を入れるだけで自動的に体裁が整った「本」ができ上がる。簡易なコンテンツであれば、ものの数分で完成するはずだ。実際、取材時に編集のプロセスを見せてらったが、なんと、ドリームゲートのサイトに掲載されているコラムをコピペするだけで一冊の本が完成した。
もちろん、難しい漢字にルビを振ったり、画像を差し込むことも可能。画像に対して文字の回り込みなども指定できるし、特定の文字をすべて強調表示にしたり、特定の文字列だけ縦組み用に変換する編集作業も簡単にできる。
編集中に保存した本はパスワードをつけて公開することもできるため、関係者だけに事前に確認用として見せることも可能。もちろん、完成したら無料で完全公開するか、電子書籍として値段をつけて販売するかを選べる。値段は最低105円(税込)から、100円単位で細かく指定できる。
さらに面白いのは、電子書籍として作成したコンテンツを、1部から紙に印刷して送ってくれるサービスを提供してくれること。自費出版やプリントオンデマンドに近いモデルだが、「BCCKS」で依頼すると、白黒48P程度の本で1冊525円。カラー200Pくらいの本で1冊2400円とリーズナブル。パンフレットや同人誌をつくったことがある人なら、この金額がいかに安いかがわかるだろう。このサービスは2月中に開始される予定だ。
このようなハイクオリティーなサービスなので、個人用途以外にもビジネス用途のニーズも増えてきた。例えば、アパレル・セレクトショップ大手の「BEAMS(ビームス)」は、同サービスを利用して2010年クリスマスカタログを発行した。ほかにも「科学未来館」が企画展のカタログを編集中だったり、GMOアドパートナーズが開催している「Graph hackアワード」というイベント結果をまとめた書籍、ミュージシャンが日記をまとめて本にして、ライブイベントなどで販売しているケースもある。すべて「BCCKS」メイドなのだ。さらに、フォント販売のモリサワ社の協賛で「天然文庫」という独自の文庫シリーズの刊行も行っている。
各分野のプロフェッショナルが集まって起業!
ビジネスアイデア発想のきっかけ
株式会社BCCKS代表の山本祐子氏の前職はリクルートである。リクルート時代は経営企画から雑誌編集、メディアファクトリーなどでゲーム・エンターテイメントコンテンツ関連の仕事を担当し、2003年に独立。ゲーム関連のビジネスを行う会社を設立している。
さらに「BCCKS」創業メンバーのひとりであり、技術面を支える竹中直純氏(現共同代表)は、「未来検索ブラジル」の創業者であり、タワーレコード社の取締役CTOも務めた業界では著名なエンジニアだ。また、「BCCKS」のクリエイティブを担当する松本弦人氏は、90年代からデジタルメディア関連で注目されており、東京ADC賞、東京TDC賞なども受賞しているトップクリエイター。そうした各分野のプロフェッショナルが集まったことで生まれたのが「BCCKS」。全員別々の顔とバックボーンを持っているため、「BCCKS」の運営業務も必要に応じてそれぞれのオフィス・拠点で行っている。
そうした特異な形態で運営されている「BCCKS」だが、サービスへのこだわりはプロフェッショナルな視点で徹底されている。「BCCKS」の優位性は、とにかくでき上がった書籍を奇麗に見せることにある。書籍の編集ツールとしてのクオリティーにこだわり、読みやすさや表現力では、ほかの電子書籍作成サービスを大きく引き離している。
しかも、ツール自体の操作性がとても簡単。文字の大きさを変えれば、レイアウトもそれに合わせて自動的に整形してくれる。アマチュアの編集者でも楽しみながら立派な本がつくれる配慮がなされているのだ。当初はPC版のブラウザ対応のみだったが、現在はiPhoneやiPad、Andoroid端末などのマルチデバイスでも「bccks reader」というリーダーアプリでそれぞれのデバイスに適した形で読むことができる。
取材時に一番苦労した点を聞いたところ、「第2創業ともいえる現在のシステムをリリースした時」と答えてくれた山本氏。マルチデバイス対応をはじめとした全面リニューアルを企画してから、システムの開発やUIの追求も含めて、サービスインするまで1年以上もの時間を費やしている。
プロアマ問わず、出版できる時代。個人の表現の場を広げたい!
将来への展望
同社の理念は、プロアマ問わずに美しい本を出版できるマーケットを拡げていくこと。自由に作品をつくれるプラットフォームになること。従来の出版ビジネスでは、書籍を大量流通・販売できることに利点があるが、本を出すにはそれ相応のリスクをとらなければいけない。作家はプロモーションをする必要はないが、出版社や編集者との緊密な関係が不可欠だった。
一方で同社のサービスは、作家や出版社が作品を、ショップがカタログを、リスクをかけずにとりあえず「スピード出版」することができる。そうした違いから、「当社のサービスは、従来の出版業界と共存していけるし、出版マーケットそのものを共に拡げていくことが可能」と山本氏は考えている。
同社が提供している仕組みは、さまざまな業界に新風を呼び込む大きな可能性を持っていることは間違いない。本好きな方には特に、注目してもらいたいベンチャーである。
株式会社BCCKS | |
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代表者:山本祐子氏、竹中直純氏 | 社員:4名 |
設立:2007年7月 | URL:http://bccks.jp/ |
事業内容: 電子書籍の作成・販売プラットフォーム事業 |
当記事の内容は 2012/2/14 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。