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イタリアワインを販売するビジネス
展開している事業内容・特徴
イタリアで10年以上にわたり、ワインのソムリエとして活躍し、2009年10月にはレストランガイドブック『イ・リストランティ・ディタリア』の最優秀ソムリエ賞を受賞した日本人がいる。現在、三ツ星レストランでプリモ・ソムリエを務めている林基就(もとつぐ)氏である。
そんな基就氏と共にイタリアワインの輸入販売会社を立ち上げたのが、今回ご紹介する「Vino hayashi」の代表であり、基就氏の実弟である林功二氏だ。
プリモソムリエである基就氏が自らセレクトしたワインを通信販売するシステム、「Vino Hayashi」のビジネスモデルはいたってシンプルだ。基就氏が惚れ込んだイタリアワインを数量限定で販売する。定期購入プランという仕組みで、毎月、会員の自宅にワインが届けられる。
月5880円と9870円という2つのコースが用意されている。このリーズナルな料金もさることながら、毎月、イタリア最優秀のソムリエ賞を受賞したソムリエが厳選したワインが送られてくるというポイントが、ワイン愛好家から支持されている。
そして、送られてくるワインは、日本未入荷の品ばかり。スタートしてまだ1年あまりだが、すでに会員数は300名を超えている。
兄弟で起業。こだわりが生んだスペシャリティー
「Vino Hayashi」のインタビューに伺ったところ、「暖房が効いていないので、寒いかもしれませんが……」と招き入れてくれたのは、とあるビルの地下にある一室だった。
部屋の中央には、ワインの木箱を積み上げてつくられたテーブルが置かれ、カーテンで仕切られた奥のほうに、たくさんのワインが寝かされていた。ここが、イタリアワインを通信販売する「Vino Hayashi」のオフィス兼倉庫である。
「地下であること」を条件に探したというこのオフィスは、気温や振動、光に敏感なワインの品質を守るため。オフィスとして借りた物件だが窓がなく、室温も冬場で13度前後、夏場でもエアコンでコントロールすることで18度ぐらいに保っている。さらに、1日の気温差も大きくて1度あるかないか。この場所は、ワインにとって最高の環境なのだ。
同社が扱うワインはすべてここから発送される。会員のほとんどが定期購入で月1回の頒布を受けているのだが、定期送付以外にギフト用のワインなども用意されている。さらに、「Vino Hayashi」では毎回、発送するワインの詳細やワインに合った料理レシピなども封入する。そのため、発送はすべて自社でスタッフが手作業で行っているという。
「イタリアワインは、日本ではあまり知られていませんが、ブドウの品種が多いためワインの種類が豊富。知れば知るほど楽しく面白いのです。現地のワイナリーで飲んでいるかのような感覚に少しでも近づけるお手伝いができればいいなと思っています」と笑う功二氏。なぜ、イタリアワインを扱う通信販売会社を起業しようと思ったのだろうか。
起業するなら今しかない。恵まれた環境から飛び出す
ビジネスアイデア発想のきっかけ
「起業したのは、本当にタイミングというか、『えいっ!』という感じもありましたね」と功二氏。大学時代から将来起業することを考え、在学中には地元・名古屋でNPO法人を立ち上げたこともある。卒業後の進路も、幅広くビジネスを見ておきたいと、大手総合商社を選んだ。同期入社した100人の仲間のほぼ全員が異なる業種でプロジェクトにかかわるため、さまざまな業界の一端を垣間見ることができたという。功二氏自身は自動車関連の中国市場に携わり、大きなプロジェクトを任されるなど充実した毎日を送っていた。
入社当時から「将来は独立する」と周囲に宣言していたものの、仕事は最高に面白かった。入社6年目に中国への赴任・留学の話が出たことが一つの転機となる。留学がほぼ決まりかけていたが、「もし、このまま中国に行ったら、自分はきっと辞めないだろう」と直感。親しい友人から、「起業するとずっと言っているが、たぶん辞めないよ」と言われたことも背中を押した。
イタリアでソムリエとして活躍する兄が惚れ込んだ「日本未入荷」ワインを販売
起業したとしても、何か一つでも突出した「強み」がなければ生き残れないという思いがあった。商社勤務時代、社内ベンチャーに応募したこともあったが、常に問われたのは「強みは何か」。自分なりのビジネスを考えていた時に頭に浮かんだのが「兄の存在」である。
著名なソムリエである兄が現地でセレクトしたイタリアワインを販売する。これは大きな「強み」となる。そこから、功二氏はビジネスモデルの検討に入った。販売するワインは日本未入荷にこだわる。そして、価格設定は1本5000円前後。これには理由がある。
1万円以上する高額なものはすでにワイン愛好家に知られているし、インターネットで検索すれば情報もたくさん出てくる。逆に初心者の方が求めるのは、ワインショップなどに足を運び、「自分で選ぶ」楽しさ。
イタリアには、まだ日本で知られていない良質なワインとなると、この価格帯が種類もたくさんあって面白いのだという。メインとなるターゲット層は、ワインを一とおり飲まれ、自分が知らない世界を教えてくれる「ソムリエ」の価値を楽しめる方。こうして事業の骨格ができ上がっていった。
ソムリエがワイナリーを取材。造り手と試飲しながら魅力を紹介する動画が人気
「寿司屋に行って、大将から『このウニは利尻の最高の昆布を食べて育ったからうまいよ』って言われて食べるとすごくおいしいですよね。その土地に行ってその土地の物を飲食するのが一番のぜいたくでしょう。それと同じような感覚を、ワインでも感じてほしいんです」と功二氏は語る。
その思いを、動画配信を使って伝えている。ワインは銘柄や生産者によって個性が異なるが、日本未入荷のワインを扱うため、インターネットで検索しても情報が全く出てこない。そこを補うため、功二氏は定期的にイタリアを訪れ、兄・基就氏と共にワイナリー現地に赴き、畑やぶどう、時にはオーナー家族の住む居間でインタビューを行う。
土壌や標高といった土地柄からぶどうの品種、名前の由来、歴史をインタビューしていく。そしてソムリエが語るそのワインの色や香り、味の特徴も。届いたワインを傾けながら、「Vino Hayashi」のサイトで動画を見ていると、まるでその土地で飲んでいるような錯覚に浸ることができるのだ。
販売するワインについて、3カ月から半年分のインタビューと撮影を一気に行ったあとは、弟である功二氏の出番だ。帰国後にビデオを編集し、字幕をつけ、販売月に合わせてサイトのトップページに掲載する。その間に、チラシを作成したり、ワインと一緒に封入する資料を作成したり。兄弟での二人三脚はさぞ大変かと思いきや、「兄は職人、私は商人。領域が違うからこそ、お互いを尊敬し合いながらできるのです」と笑う。
イタリアを軸に、アジア全域でのマーケット拡大を目指す
将来への展望
スタート当初は鳴かず飛ばずだったものの、JALカードの会員誌『AGORA』や『日経ビジネスオンライン』に紹介されたことで、会員数が急増する。とくに『AGORA』に掲載されたことが大きかったという。「Vino Hayashi」がターゲットとする、海外志向が高く、ワイン好きな50代半ばの人々がメインの読者層だったからだ。
現在も順調に会員数は増えてはいるが、これからが正念場と考えている。日本におけるワインの市場規模は2010年度で約2200億円。消費量としては毎年少しずつ伸びてはいるものの、消費額はほぼ横ばい状態だ。また、日本では圧倒的にフランスワインのシェアが高い。イタリアワインもレストランやバーなどではシェアが約50%を占めているが、個人消費者向けではまだまだ認知度が低いのだ。「個人向けのマーケティングに成功すればさらに大きなチャンスにつながる」と考える功二氏は、近々、さまざまな新しい試み始める計画だ。
立ち上げ当初は、3カ月に1度イタリア現地に足を運び、動画や写真の撮影を兄と一緒に行って来た。しかし、今は半年に1度の頻度。「ゆくゆくは現地のことは兄に任せ、マーケットの拡大に力を入れたい」と語る。
また、イタリアワインをより楽しんでもらえるよう、その月に提供するワインに合った食材をセレクトして一緒に届けるサービスも検討している。「イタリアにいるかのような雰囲気に少しでも近づいてもらえたら」(功二氏)。「Vino Hayashi」でワインを購入する付加価値をどんどん高めていきたいのだ。
さらに、将来はアジア全域に市場を拡大し、イタリアから直接、日本を含むアジア各国へ届ける展開も視野に入れている。「今、日本は『価格をいかに下げるか』に焦点を当てていますが、あえて『下げない努力』が必要だと思うのです」と話す功二氏の言葉に、常に付加価値や強みを追求してきた思いの強さを感じた。
創業から売り上げを倍に伸ばしてきた功二氏。「このペースを今後も維持していきたい」と意気込む。そして、「会員数が現在の倍になれば、もっと面白い展開ができると思う」とも。「具体的には?」との質問に「まだ秘密です」といたずらっぽく笑った目の先は、すでに明確なステージが見えていた。
株式会社Vino Hayashi | |
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代表者:林 功二 | |
設立:2010年11月 | URL:http://store.vinohayashi.jp/ |
事業内容: イタリアワインの輸入・販売業ほか |
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メッセージ: 事業を起こすのはある意味、簡単ですが、難しいのはその後のモチベーション。私は常に新しいことに挑戦することでモチベーションを保っています。そのためには、自分の性格を分析・把握することが大切だと思います。 そして、自分の武器となるものを見つけること。他人が何と言おうと「自分がナンバーワンだ!」と自信を持って言えるものをしっかり意識し、ブラッシュアップを継続することが大事ではないでしょうか。 |
当記事の内容は 2012/2/9 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。