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起業後すぐに大ヒット! 爆発的アクセスのユーザー投稿型検定サービス
展開している事業内容・特徴
学びing 株式会社は、2006年10月に創業したベンチャーだが、最初に手がけたサービス「けんてーごっこ」がいきなり大ヒット。現在までに累計2500万人の受験者がいるという、巨大な検定(ミニクイズ)サイトである。
起業当時の2006年は、漢字検定などの「検定ブーム」が始まったタイミングで、それに乗ったリリースが奏功したようだ。有名人自身が自分の検定をつくることもあり、フジテレビの「とくだね」やBSジャパン「こちら経済編集長」などのテレビ番組などでもたびたび取り上げられ、予想以上の好スタートにつながった。同社がオリジナルで作成した「高田純次検定」は、一晩で1万人もの受験者があったという。
「けんてーごっこ」の仕組みはいたってシンプルだ。ユーザーは無料の会員登録のみで、自分がつくりたい検定を作成することができる。その作成手順も簡単なものであれば、ものの数分で完成する。そうして作成された検定や、自分の名前や受験後の順位が入った認定証や、ほかのユーザーがつくった検定も、ブログパーツとして自分のブログに貼ることもできる。
ブログを通じて、より多くのユーザーの目に触れることになり、さらに検定をつくってみたいユーザーが集まってきた。そうして、ユーザー自身の手で作成された検定はスタートすぐに膨大な数に。そんな好循環で急成長した、バイラルマーケティングのお手本のようなサービスだ。
「けんてーごっこ」では、ユーザー同士が検定自体を育て合っているという。検定をつくった本人よりも、回答する人のほうが詳しいケースも多いそうで、質問に対する正答が正確さに欠けてたり「甘かった」りすると、まれに突っ込まれることもある。
ただ、「けんてーごっこ」というサービス自体が、ゆるい世界観を醸成しており、遊びの要素も大きいため、「まぁしょうがないか」ということで許される雰囲気がある。本来は厳密さを求められる検定という概念に、あえて遊びの要素が入ることで、検定自体をユーザーがゲーム的に進化させていくコンテンツになった。
「けんてーごっこ」の収益モデルは広告だ。検索サイトで「検定」を検索すると、だいたい1位から3位に表示される。検定というキーワードでの競合は、大手検定サイトや大手検定事業社。SEOで大手と伍していける秘訣の一つは、「ネーミング」にあるという。
「けんてーごっこ」という、平仮名でだれでも覚えられるサービス名は、当然ながらSEO効果が高い。単純なので口コミで広がりやすく、サービスの認知度向上にも寄与している。また、「検定」というキーワード自体が検索サイトのキーワード広告では高単価のため、自社で広告を出すと広告費が高騰してしまう。しかし、SEOで上位に位置する「けんてーごっこ」のサイトと組んで広告を出すことで、広告費を抑えることができるのだ。また、アダルトコンテンツや質の悪い広告を出さないルールも、サイト自体に安心感や信頼感を与えた。いくつかのナショナルクライアントから引き合いがきたのもうなずける。
「けんてーごっこ」の最初の広告主は、なんと「日本経済新聞」。その後、日産やホンダ、サントリー、東宝、ダイキン工業など、名だたる一流企業からの広告出稿が続いた。初年度は、いっさい営業をしなかったほど順調に広告のオーダーが入ったという。ちなみに、ナショナルクライアントの広告単価は100万~200万円。起業したてのベンチャーが運営するサービスにとって、あまりにも理想的なスタートダッシュだった。
なぜそれほどの引き合いがあったのだろうか? それは検定という仕組みに理由がある。検定を受験するユーザーは、問題文などのテキストを「しっかりと読む」。問題文自体のテキストや、誤答した時の正解などが広告商品の説明のため、広告効果がとても高くなるという。学びingでは、これを、教育+エンターテインメント+広告の要素をミックスした、「エデュテイメント・アド」と称している。
検定を使ったタイアップ広告の効果の高さを示す事例として、某カーリース会社の企画がある。この検定は、極めて資料請求数が多かった。それまで認知が低かったカーリースの仕組みが検定を通じてユーザーに理解されたことで、結果的に予想を超える反応があったのだ。ちなみに、この検定は、受験者が10万人を超える人気の検定になったとという。
また、某大手IT機器メーカーのサーバキャンペーンの際に行なった検定では、「1000本ノック」というキーワードがヒットした。これは、サーバ品質の信頼性を向上させるため、動作保障範囲を超えた超高負荷試験<1000本ノック>の実施に関する問題。同サーバの説明サイト内でも記載したキーワードだが、難しい内容を検定に仕立てることによって、わかりやすく理解させることに成功した。そして、このキャンペーンも、予想超える大成功となった。
「ゆるーいかんじ」の検定をつくりたい! 大手予備校子会社副社長の決断
ビジネスアイデア発想のきっかけ
同社代表の斉藤常治氏は、駿台予備校の教育ソフト開発会社で、教材作成やeラーニング事業を手がけ、取締役副社長も務めた人物。当時の駿台予備校では外販事業が伸びており、企業向けの研修教材などもつくっていたが、会社の業務命令で受講する「やらされている感」を持った受講ユーザーが多いことを、悔しく思っていた。
「学ぶことは楽しい」ことを伝えたい、納得のいく教材をつくりたいと考えていた斉藤氏は、社長の退任と同時に退職し、インターネット広告会社であるオプトの子会社に転職。ここで広告や口コミビジネスのノウハウを学び、2006年10月に現在の会社を創業した。
検定は、個人の嗜好情報を取得しやすい。特に個人情報を取得しなくても問題だけでもユーザーの細かな嗜好情報が取れるのだ。戦国時代の検定なら戦国好きが集まるし、恋愛の検定なら恋愛に敏感な女性が自然と集まる。ここにターゲティングメディアとしてのビジネスチャンスを見出した斉藤氏。検定と聞くと堅苦しいイメージがあるが、もっと「ゆるーいかんじ」でできる検定があれば面白いと考え、「けんてーごっこ」の開発を始めた。
そうして2006年12月にはベータ版をリリース。すると前述のとおり、スタート当初からテレビや新聞などのメディアで取り上げられ、一気に大量のアクセスが集まった。それは瞬間的に数百万アクセスが殺到するというもので、すぐにサーバがダウンしてしまった。物理的なサーバではどうにもならないと痛感した斉藤氏は、“Amazon EC2”というクラウドサーバでサービスを再稼働させることに。まだ「クラウド」という概念もあまり知られていない頃で、日本でのクラウドサーバ活用の先駆的な事例になった。ちなみに、斉藤氏はクラウドサーバについての本も共著で出している。
クラウドサーバであれば、ボタン一つでサーバが好きなだけ増やせるし、サーバを1日単位で借りられる。ハードウェアのサーバでは、ハードの準備や設定に時間がかかるが、ソフトウェアで仮想化されたサーバには、そのような手続きは不要。通常、ハードウェアのサーバを借りるには、見積もりを取って社内稟議をとおして申し込み書を送り…といった煩雑な事務手続きが必要だが、クラウドサーバではそのような手続きをショートカットして利用できる仕組みが整備されている。
そうしてクラウド化した結果、サービスが安定して稼働する。「けんてーごっこ」のサービスは、通常5台のサーバで運用しているそうだが、テレビ番組の特番で取り上げられるような場合は、前日、当日、翌日の3日間を20台体制にし、大量のアクセスでも落ちないように準備しておく。そして、これらの費用は、約1万円程度。クラウド環境が簡単に利用できるようになったことも、「けんてーごっこ」が成功した理由の一つだろう。
また、同社が他団体・企業からの受託で検定サービスを立ち上げる際にも、クラウドが威力を発揮している。「さいたま市けんてー」は、同社がさいたま市から受託した鉄道博物館一周年記念のキャンペーン企画だった。これは2008年8月末に相談があり、同年10月にはすでにサービスイン。実質、1カ月程度で構築したということだが、これは物理的サーバでは不可能なスピードだ。また、検定自体がデジタルで完結することのメリットは大きく、「紙のテキストを作成して配布して、受験票や検定資格票を発行する……というような従来の検定運営のやり方では、とても間に合わなかっただろう」と斉藤氏は語る。
人工知能で検定を作る? 特許を取った自動生成システムは、アンドロイドマーケットで勝負!
将来への展望
同社は「けんてーごっこ」を軸に、さらに新しい事業を生み出そうとしている。それが「Qろいど」と「アンドロQ」というサービスだ。
「Qろいど」は、特許を取得した択一式問題自動生成の仕組みだ。会社紹介や製品紹介、社内マニュアル等の文章から自動的に穴埋め式の問題を作成してくれる。文章の中に穴を開けるだけではなく、複数の「近似誤答」のセットも自動生成。問題自動生成後の編集作業には、埼玉大学と共同研究している教育学部の作問法などのノウハウを用いており、辞書には主にWikipediaを活用している。Wikipediaはインターネット上にある電子辞書だが、そのボリュームは史上最大。これを活用することで、流行語や、人気のある話題の問題が作成できるのだ。
「Qろいど」開発前の「けんてーごっこ」は検定数は、競合の検定サイトと10倍の差があったそうだ。しかし、「Qろいど」の開発に成功すると、一気に70万もの検定を自動生成。70万の検定というのは、一問ずつ分解していくと、約400万以上のコンテンツになる。問題文や選択肢が検索エンジンにひっかかることで、いっきにアクセスが増加。そのため、強烈なSEO効果が生まれたのだ。
実際、東海エリアの某大学についての検定試験(ミニクイズ)が自動生成されて、それがたまたま学生の目にとまり、「やけに学内の事情に詳しい。この検定を作ったのは誰だ?」と、関係者の間で話題となったという。実は機械で自動生成した検定なのだが、しばらくの間は、誰もが大学関係者がつくった検定と信じて疑われなかったらしい。「Qろいど」完成後のユニークな事例だ。
こうしたさまざまなニッチな検定が作成されるたびに、ロングテール効果でアクセスが集まってくる。70万もの検定を人手でつくるのは困難だが、機械が勝手につくってくれることで、いわゆるフリーミアムなビジネスモデルの可能性も高まっていった。
「ただ、やはり問題の面白さは人間がつくったものにはかなわない」と斉藤氏は語る。問題に対する回答のセレクトや正解時のメッセージに人間独特のニュアンスが入ったほうが面白く、これは機械生成ではなかなか難しい。その点をカバーするために「Qろいど」には、問題の作成時にいくつかの候補を提示することで、「味付け」が加えられる機能も付加されている。
現行の「QろいどVer.1」は、Wikipediaを辞書として単語単位で判別するプログラムだったが、固有の用語などの拡張の要望が強かったため、現在開発中のVer.2には、本格的な人工知能(AI)テクノロジーを搭載している。人工知能に学習させることで、Wikipediaに存在しない単語やカテゴリーにも対応。それにより、「文章全体のニュアンス(=意味・文脈)に基づく判定」ができるようになりつつあるとのこと。
「QろいどVer.1」のシステムに加えて、同社では「アンドロQ」という、スマホ向けの検定アプリが格安で作れるサービスも開始する予定だ。個人使用で初期費用1000円+月額300円。法人利用でも初期費用1万円+月額3000円で利用できる。アンドロイドマーケットへのアプリの申請も代行し、通常3万円程度を、数千円で受け付けるという。これによって、個人でも容易にアンドロイド上で動く検定アプリが作成でき、配布したり販売することも可能。自分の得意な分野での検定アプリを作成して配布すれば、そこからの広告収益も見込める。
法人なら、自社商品の開発秘話、いちおし機能、うんちくなどに関するクイズを楽しみながら、「レベル」や「ランキング」などで、ユーザーの興味を喚起。顧客の増加やつなぎとめを図る「ゲーミフィケーション」手法により、アピールを行ったり、簡易的な研修ドリルツールとしての可能性もあるそうだ。
iPhone向けのアプリにしなかったのは、iPhoneのアプリは審査が厳しく、なかなか申請が下りないからだそうだ。その点アンドロイドは審査が緩いので、いろいろなアプリが気軽につくれて売れる。小さなビジネスを始めるプラットフォームとしては、こちらのほうが魅力的だ。「Qろいど」と「アンドロQ」という組み合わせで、「けんてーごっこ」に続くホームランを狙う、同社のチャレンジに注目したい。
学びing 株式会社 | |
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代表者:斉藤 常治 | 設立:2006年10月 |
社員:11名 | URL:http://manabing.jp/ |
事業内容 「インターネットで人が成長できる環境を提供するラーニング・エンターテインメント企業」。これが私たち「学びing」 の企業理念であり、目標です。 |
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メッセージ ■11/22(火)セミナー受付中! 『AI(人工知能)を、“学び”にどう活用するか?「Qろいど2」「AndroQ」のご紹介』 http://www.elearningawards.jp/program2.html ■ゲーミフィケーション型 研修ドリルやクイズアプリが簡単に作れる「AndroQ」 http://manabing.jp/news/pressrelease/smf111018.html |
当記事の内容は 2011/10/25 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。