高級醤油が面白いように売れる!「職人醤油.com」の画期的なアイデアとは

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執筆者: 清水 智

こだわりの醤油をインターネットで販売。醤油への情熱が道を開いた
展開している事業内容・特徴

soy1株式会社伝統デザイン工房が運営する「職人醤油.com」では、インターネットを中心に、全国各地の有名な醸造元の「職人がつくった醤油」を販売している。2008年4月のサイトリリース時に12商品(醸造元8蔵)だった取扱品目は、現在では66商品(醸造元35蔵)までに拡大した。醤油だけを販売して、1ヶ月に約10,000本を売っているという。 スーパーやコンビニで数百円払えば、誰もが当たり前に買うことができる「醤油」。にもかかわらず、同社のビジネスは順調に成長している。そのビジネスモデルを紹介していこう。

まずは、スーパーやコンビニ、ほかのECサイトではなかなか買うことができない、こだわりの醤油を販売しているという点。同社代表の高橋万太郎氏が全国各地の有名な醸造元に自ら足を運び、味を確認したうえで、職人と交渉した商品のみを取り揃えているのだ。今までインターネットでは一切購入できなかった醤油や、職人醤油.comのみが取り扱っている醤油も多いという。

また、ネットでの販売を続けるうち、ほかでは買えない魅力的な醤油を取り扱っていることを知った全国の食品店や百貨店のバイヤーが、「うちでも扱いたい」と訪ねてくるように。2年ほど前から、西武百貨店などへの卸販売もスタートし、現在、売り上げシェアの4割ほどが卸販売となっている。

高橋氏と接していて感じるのはこのビジネスにかける「情熱」である。「何としてもこの醤油を職人醤油.comで紹介したい」という強烈な情熱を持って、全国の醸造元を訪ねているのだ。そして、職人と膝を付け合わせた対話・交渉を地道に続けながら、取り扱い醤油を増やしていった。醸造元の開拓は紹介のほかに、現地での飛び込みも多い。地元の食品店や飲食店で「地元の美味しい醤油はどこですか?」と聞いていくのだという。

職人の方々との思い出を聞くと、「何しに来たんだ。出て行け!」と言われても、めげずに話をしたり、朝に訪問して「忙しいから相手できない」と言われても「いつでもよいので夜まで待ちます」と粘り強く待っていた、といった話を聞かせてくれた。「でも、皆さん今では優しく接してくれますし、すごく仲良くさせてもらってます(笑)」と高橋氏。そんなさりげないフォローも職人を口説き落とした秘訣の一つだろう。

今、同社が扱う醤油は100mlの小型ボトルのみ。価格は、各醸造元と相談しながら同社が値付けする。全扱い商品平均で約450円と、一般の醤油に比べると高めの設定だ。100mlの小型ボトルでの販売を醸造元に提案した時、多くの職人から「そんな小さいサイズでは売れない」「利益出ないんじゃないの、大丈夫?」と懸念されたそうだ。しかし高橋氏は、「まずはさまざまなこだわり醤油との出会いのきっかけづくりが大事。そこが職人醤油.comの最大の価値」と考えて、あえて100mlでのみ販売するようになった。

その戦略が当たった。小さくとも気軽に買える高級醤油ということで、ギフト用のまとめ買いや、味比べのためのセット購入が急激に増えていったという。また、同社ではユーザーに、通常の大きなサイズの購入は醸造元から直接買ってもらうことを推奨しているため、蔵元ともWin-Winの関係だという。

職人醤油.comは、競合サイトと一線を画した充実したコンテンツも売りの一つ。「醤油」というキーワードでネット検索すると、2011年10月現在、Yahoo!では3位、Googleでは4位に表示されている。サイト訪問者は、SEO対策費や広告を使わず、一カ月に約15,000名の訪問があるという。高橋氏の情熱と、弛まぬ努力が生んだ結果といえるだろう。

スティーブ・ジョブズのスピーチに感銘を受け起業。新婚旅行で市場調査?
ビジネスアイデア発想のきっかけ

soy2起業前、高橋氏は、大手精密電子機器メーカーのキーエンスに勤務していた。営業マンとして活躍し、営業成績では全国トップになったこともあるという。就職活動をしている時から、「将来は独立して自分でビジネスを立ち上げたい」と考えていた。ただ、当時はあくまで漠然とした思いで、特にどんな分野で何がしたいかなどの具体性はまったくなかったらしい。

個人としてだけではなく、所属する営業チームが2年連続で全国トップになるなど、熱心に仕事に取り組んでいた高橋氏。しかし、入社3年目の2006年、「そろそろ独立して自分の道を歩んでみたい」と考え始めるように。そしてちょうどその頃に聞いた、アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズのスタンフォード大学での卒業祝賀スピーチに感銘を受け、起業を決意した。

「自分が本当に心の底から満足を得たいなら進む道はただ一つ。自分が素晴しいと信じる仕事をやる、それしかない。そして素晴らしい仕事をしたいと思うなら進むべき道はただ一つ。好きなことを仕事にすること。まだ見つかってないなら探し続ければいい」

起業を決意し、机に向かって思いつくままにビジネスアイデアをリストアップしていったところ、目にとまったのが「伝統産業」「地域産業」だった。論理的に導き出したものではなく、「自分はお洒落なパスタ屋さんよりも、老舗の蕎麦屋さんのほうが好きだな」という感覚だけだったという。

実は、すでに結婚が決まっていた高橋氏。退職した3日後に結婚式を挙げ、数カ月かけて車で日本を旅する新婚旅行に出かけた。その新婚旅行の中で、地方で伝統産業・地場産業に関係する人たちと出会い、「自分たちがつくっている製品に自信はある。ただ、海外で大量製造された競合製品に押されている」「売れなくて困っているけど、自分達は職人であって商人ではない。できることなら、ものづくりに専念したい」「儲からないから息子に胸をはってバトンタッチできない」――そんな悲痛な声を聞いた。

そうやってストックした資料やメモ、最終的に残ったビジネスアイデアのリストを眺めていた時、「醤油」というキーワードに目がとまった。「母がインターネットで初めて購入したものも醤油だったことも思いだし、それからすぐに醤油業界を調べ始めたという。インターネットで見つけた横浜醤油株式会社にいきなり電話して面会のアポを取り、一夜漬けで醤油に関する知識を詰め込み、同社の筒井社長を訪問。筒井社長から、ていねいな醤油のレクチャーを受けたという。さらに次に伺うべき人も紹介してもらい――と、そんな調子でどんどん醤油の勉強を重ねていくなかで、今のビジネスモデルにいきついたという。

店舗出店でさらなる贈答ニーズを開拓する
将来への展望

2008年4月に職人醤油.comをリリースした当初、月間の売り上げは数千円程度。運転資金の貯金も少しずつ減っていく……。そんななかでも、高橋氏は成功を信じ、焦らずに醸造元への訪問・交渉を続けていった。

2010年4月、高橋氏の地元・群馬県前橋市にある事務所に併設する店舗を出店したことが、さらなる成長のきっかけとなった。それまでも「誰かにプレゼントしたい」「結婚式の引き出物にしたい」という要望が多かったが、地元の企業や個人ユーザーがお歳暮などの贈答用にまとめ買いしていくように。また、実店舗があるという信頼感が、インターネットでの販売個数増加につながった。

また、地方の醤油醸造元との交流を重ねるにつれ、高橋氏は以前から考えていた「まちづくり」に取り組みたいと考えるようになった。職人醤油.comの活動は、地元のこだわり醤油醸造元の全国PRに役立っている。「観光のついでに、職人醤油.comで醤油を売っている蔵元を訪ねてみたい」と思ってくれるユーザーを増やせば、地域活性に貢献できると高橋氏は考える。老舗の醤油醸造元は、それぞれの地方では有名な企業だ。今後は醤油醸造元とより強いタッグを組みながら、地元の行政、企業や団体と連携して、まちづくりを推進していきたいとのこと。最後に高橋氏は、「生まれ故郷で働きたいと考える若者たちと一緒に、醤油を使ったまちづくりプロジェクトを組織化していきたい」と語ってくれた。

株式会社伝統デザイン工房 /職人醤油.com
代表者:高橋 万太郎 設立:2007年3月
社員:3名 URL:http://www.s-shoyu.com/
事業内容
伝統技術を用いた商品・販売プロデュース
インターネットを応用したビジネスの企画、開発、運営
メッセージ
醤油をキライという日本人は、ほとんどいないと思いますが、醤油の味比べをしたことのある方は驚く程少ないのではないでしょうか?各地の職人たちが威信をかけて造っている醤油をぜひ味わってみてください。それぞれの違いに驚かれると共に、地域産業や伝統産業という分野の面白さを実感いただけると思います。

当記事の内容は 2011/10/18 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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