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家計簿が続かない理由は何か?
ユーザーの本音を見抜くサービス設計
展開している事業の内容・特徴
ITの側面から金融系サービスを見直すFintech。日本でも2000年代の終わりごろから気運が高まり、多数のサービスが生まれている。なかでも、成長著しいのが、ベンチャー企業や有志のチームがつくる、日常生活に即したサービスだ。
MoneySmart株式会社が提供するPFM(家計簿)アプリもその一つ。“お金のコンテキスト”にこだわった設計で、これなら続けられると評価が高い人気アプリだ。一般的な家計簿サービスの1カ月後の継続率は23%とされているのに対し、「MoneySmart」の継続率は35%と高い。
「家計簿やお小遣い帳が続かないのは、結局、自分のなかで意味を見出せていないからだと思うんです。家計簿というと、お金を数えることに目がいきがちですが、そもそも個人が知りたいのは、『誰のために使ったか』『どこで使ったか』『その出費は生き金だったか』という情報。我々は“お金のコンテキスト”と呼んでいるのですが、これを記録できるのが弊社のアプリの特徴です」とMoneySmart社の代表、大宮聡之氏は語る。
他のアプリでは銀行口座と連携させるものもあるが、「MoneySmart」は使用した現金を随時、手で入力する。面倒な手入力でも続けられるのは“お金のコンテキスト”を把握したいというユーザーの真の動機をふまえているからだ。
「単純にいくら使ったかという記録では反省するしかありませんが、たとえば飼っている猫のエサ代にいくらかかっているのかという情報として見えれば、同じ反省でも楽しめる要素が生まれます。近所のコンビニで使った金額も集計してみると、スゴいですよ(笑)」
便利なだけでは続かない。楽しさがあるからこそ、使われるサービスになる。MoneySmart社が提供するサービスは、ほかにも傾斜をつけた計算が瞬時にできる割り勘アプリなど、生活感たっぷりで思わず使いたくなるものばかり。
「アプリのデザインは、使いやすいだけでは評価されません。使いにくかったら当然マイナス、問題なく使えればゼロ。そこでプラスを生むのは、使っていておもしろいとか、操作が気持ちいいとか、使うと役に立つとかいった、ユーザーの直感や体験です。加点につながる心地よい体験をいかに増やすか、ここに力を入れています」
今ある技術で、どんな課題解決ができるか?
ゲーム感覚のサイドプロジェクトが原点
ビジネスアイディア発想のきっかけ
アプリやサービスのデザインにおいて、ユーザーの体験を重視する背景には、デザイナー出身という大宮氏の経歴が関係しているようだ。
MoneySmart社を創業する前からデザイン会社を経営していた。CDジャケットなども手がける、いわゆるデザイン事務所だ。アプリのデザインを始めたのは、iPhoneが登場した頃。試しにやってみたところ、そのおもしろさに目覚めた。今では仕事の大半はアプリのデザインだという。
社員数名の小さなデザイン会社では、本業とは別にサイドプロジェクトにも取り組む。家計簿アプリ「MoneySmart」の開発も、最初はそんなプロジェクトの一つだった。
「クラブ活動のような感覚で、役に立つアプリやサービスをつくっています。身近な問題をITでどう解決できるかを考えるのが楽しくて」。自分たちが日常生活で直面する不便・不満を題材に、今ある技術を組み合わせて、それをどう解くかをあれこれと考えるのだという。
「MoneySmart」の前身にあたる「MoneyTron」の場合は「もっとカッコよく簡単に家計簿をつけられないか」と考えたのがきっかけだった。デザイナーの考えたスタイリッシュでシンプルな使い勝手の同アプリは大学生などの若い世代を中心に評価され、App Storeの特集にも取り上げられた。
当時は営利目的ではなかったため、機能の改善や追加などはしていなかったが、しばらくすると似たような家計簿アプリが登場するように。すると徐々に、IT企業による金融系サービスが脚光をあびるようになり、大宮氏も本格的に事業化を検討し始める。折よく応募したアクセラレーションプログラムに採用され、2014年に法人化、事業として本格的に取り組むようになった。
自社独自のサービスに加え、UI/UXに関心をもつ金融機関からの受託開発なども行い、次々とユニークなサービスを立ち上げてきた。その傍ら、今もサイドプロジェクトを続けている。
現在、新たに取り組んでいるサービスも「ICカードの中身を可視化できないか」というお題のサイドプロジェクトから生まれたものだ。「狙ったわけではないのですが、今のところ、サイドプロジェクトがビジネスの種になっています」
新サービス「omamori」も完成間近。
金融系サービスを生活者目線で変えていく
将来の展望
現在開発中の、ICカードを使ったサービスは、中高生およびその親を対象としている。子どもも中学校にあがると、塾通いや部活の遠征などで行動範囲が広がり、親の目が届きにくくなる。ICカードによる決済がコンビニやゲームセンターで可能になった今日において「交通費として」と子どものICカードにチャージされたお金は、いったい何に使われているのか。親としては、家計管理と金銭感覚のしつけの両面から、その使途を明確にしたいところだ。
「omamori」と名付けられた新サービスは、お小遣い帳の自動記録と子どもの居場所特定を組み合わせたもの。子どもの持つICカードに小型の装置を取り付けると、親子それぞれのスマホにダウンロードしたアプリを通じて、ICカードの使用記録をほぼリアルタイムで見られるようになる。
どこで何にお金を使ったのか。“お金のコンテキスト”をアプリが示してくれれば「今月、使い過ぎじゃない?」「勉強用に使ったんだよ」といったやり取りをしながら、お小遣いの管理を教えることができる。
「子どもにしてみたら“窮屈”という指摘もあり、子ども側の“楽しさ”も盛り込めないかと検討しています」。これから性能試験や実証実験を行い、年内の提供開始を目指して開発を進めていくという。
見た目がカッコいい、さわり心地がよい、使っていておもしろい、あるいは役に立つ。システムの効率性や堅牢性を重視する金融機関ではなかなか出てこない発想だが、どれもユーザーにとってみれば重要な価値のひとつだ。
「今年の1月にみずほ銀行がリリースした『ペア口座アプリ』は、カップルや夫婦で一つの口座を管理できるものです。これは私たちがUXデザインからアプリ開発までお手伝いさせていただいたプロジェクトの一つです。ふたりで一つの口座を管理したいと多くの人が思っていたにもかかわらず、これまで誰も手をつけなかったのです。自社開発、受託開発に関わらず、そうした確実にあるニーズを一つひとつ解消し、金融系サービス全体を使いやすいものにしていきたいですね」
ユーザーは正直だ。価値が見出せなければ使わない。事業として当然、押さえるべきポイントは押さえつつ、ユーザーが本当に期待している心地よい体験を織り込んでいくのが、大宮氏が考える“Fintech成功”の秘訣のようだ。
MoneySmart株式会社 | |
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代表者:大宮 聡之氏 |
設立:2014年8月 |
URL:http://moneysmart.jp/ | スタッフ数:3名 |
事業内容:家計簿アプリ、割り勘アプリの提供、UI/UXデザイン・コンサルティング、アプリ開発、見守りサービス「omamori」の開発、運営 |
当記事の内容は 2017/05/09 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。