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自社比100分の1のコンパクトさを実現。
さまざまな分野での活用に期待
展開している事業の内容・特徴
今、さまざまな業界から注目されているレーダーセンサー「mi Radar 8」を開発した、サクラテック株式会社。高性能レーダーチップセットおよび低消費電力FPGA(製造後に購入者や設計者が構成を設定できる集積回路)を高密度に統合した、24GHzのマイクロ波によるレーダーセンサーモジュールだ。
現在のところ、自動車の自動運転用レーダー、建物への侵入監視用レーダー、医療用レーダー、介護用ロボット用レーダー、工場の安全監視用レーダーなど、様々な分野での活用が期待されている。
「mi Radar 8」は、先進デバイスの採用と設計技術により、自社比100分の1となる、104mm×76 mm ×6mmというコンパクトさを実現。さらに、USBインターフェースを設けることで、システム構築を容易にさせている。そして、送信機と受信機の双方に複数のアンテナを用いることで通信品質を高める「MIMOレーダー方式」を採用。送信で2個、受信で4個のアンテナを実装し、広域の指向性を出している。
現在、完成した評価ボードは、多くの自動車メーカーや大手自動車部品メーカーが購入したほか、セキュリティ機器メーカーや電機メーカーからも引き合いが続いている。いずれもカスタマイズが必要となり、その開発費もサクラテックの大きな収入源となる構図だ。
自社技術の売り込み先を探すため、
「イノベーションリーダーズサミット」に参加
ビジネスアイディア発想のきっかけ
同社代表取締役の酒井文則氏は、大学卒業後、大手総合エレクトロニクスメーカーに入社。長らく防衛機器分野のマイクロ波デバイスの研究開発に携わった。
「なにぶん国家機密に属するような業務で、自分の手掛けた製品が世の中に知られることがなかったのです。『防衛白書』でも紹介されず、ショックを受けた覚えもあります。そのうち、もっと自由に開発し、マイクロ波の技術を極めていきたいと思うようになりました」
その後、酒井氏は、大手総合エレクトロニクスメーカーを退社し、45歳で中小メーカーに転職。ここでは5年間技術責任者を務めた。その間に、マイクロ波によるイメージング技術に関心を持つように。そして2008年10月、50歳の時にサクラテックを創業する。
世界各地でテロが頻発していた当時、空港で搭乗者の服の中を調べるスキャン装置の実証実験が日本でも行われることになり、酒井氏はいくつかの研究プロジェクトに参画するなどして技術力を高めていった。
その結果、「インパルス・アレイ・アンテナ方式」の独自開発に成功。国の助成金を得て自動車の衝突防止装置用のICを開発するも、ヨーロッパが別の周波数帯域を採用することになり、酒井氏はビジネスチャンスを失ってしまう。「IC化技術の進展がないと、ヨーロッパが採用している周波数にすぐに移行できずビジネスにならないためです。しかし、最近ICプロセス技術が進歩してきたので、可能性が見えてきました」。
そして、同技術の売り込み先を探しているところにもたらされたのが、第1回目の「イノベーションリーダーズサミット(ILS)」が2014年1月に開催されるというニュースだった。ILSとは、大手企業とベンチャー企業のマッチングイベントである。
「参加した結果、人気ランキングのベスト10に入るなど、多くの大手企業から関心を持っていただけました。しかし、具体的な製品と実績がなかったので、話がなかなか進展しませんでした」と酒井氏は当時を振り返る。この反省を糧に、酒井氏は「具体的なモノが必要」と、すぐに製品化できる小型レーダーセンサーの開発に着手。そして、2015年3月に、プロトタイプの完成に漕ぎつけた。
大企業に注目される技術を開発し、
下請けではなく対等のパートナーに!
将来の展望
酒井氏は、2015年度のILSに再度参加し、世界的半導体メーカーの米アナログ・デバイセズ社(以下、ADI社)との面談機会を得る。ADI社が電波センサー用のICを新たに開発し、この分野に進出するというニュースをつかんだからだ。
「ADI社との面談が実現し、弊社が独自開発した「インパルス・アレイ・アンテナ方式」(国際特許取得済)を採用してもらうようプレゼンテーションしたのです。この方式が画期的なのは、従来の電波センサーが固定式で一方向しか計測できなかったところ高精度かつ広範囲で目標物を方位検出できイメージングが可能となるからです。
その結果、技術力が認められADI社製ICの評価ボードの開発を依頼され『mi Radar 8』を開発しました」
ICは単体で性能評価することは難しく、コンポーネントに組み込んで評価する必要がある。「mi Radar 8」は、そのIC性能評価に適用できるものであった。ADI社としては、自社ICを拡販するために不可欠となる評価ボードを実現できる好機となった。
両社は、代金を伴う受発注ではなく提携関係を結び評価ボードを開発し、サクラテックは実績が高く評価され、ADI社の「アソシエイトカンパニー」に認定された。結果、いち早くADI社の新製品情報を入手でき、半導体商社などADI社の販売チャネルを通じて評価ボードを販売することが可能となった。
さらにADI社は、酒井氏に数値解析ソフトの世界的企業であるMathWorks社(以下、MW社)を紹介。さっそくMW社の数値解析ソフト「MATLAB」を用いて「mi Radar 8」のコントロールプログラムを作成すると、MW社もサクラテックをパートナー企業に承認した。
これにより、「mi Radar 8」の宣伝物などにADI社およびMW社のロゴを使用できるようになった。「MW社は、数値解析ソフトの世界では知らない人はいない企業です。世界的企業2社のロゴによるアピール効果は計り知れません」
「2017年度は、前年比200%アップの1億6000万円ほどの売り上げが見込めそうです」と酒井氏。今後は、世界的企業との連携による海外展開及び活用領域の拡大と量産されるICやデバイスへのライセンス付与といった収入軸の拡大に取り組む計画だ。
取材の最期に、起業を目指すドリームゲートユーザーへのアドバイスを聞いた。「大企業に注目される技術を開発し、下請けではなく対等のパートナーとなること。このことを、ベンチャーを創業しようと考えているすべての方に伝えたいです」。
サクラテック株式会社 | |
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代表者:代表取締役 酒井 文則氏 | 創立:2008年10月 |
URL:http://sakuratech.jp | スタッフ数:8名(パート含む) |
事業内容:イメージングセンサの開発 |
当記事の内容は 2017/03/30 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。