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電池交換、宛名書き、重い家具の移動など、
5年間で4000件超の依頼が舞い込む
展開している事業の内容・特徴
高齢者の身の回りにある、ちょっとした困りごとを、株式会社御用聞きの古市盛久代表は「生活のささくれ」と表現する。例えば、重い荷物を下ろせない、乾電池の交換ができない……。たったこれだけのことでも高齢者には大きなストレスとなり、生活が脅かされる。これらの仕事は、医療精度と介護制度の狭間にあるために、長らく手つかずだった問題だ。
御用聞きは、これをユニークな生活支援サービスで解決、地域活性につなげようとしている。一つは5分100円の「100円家事代行」。5分100円の料金で、電球や電池の交換、宛名書き、日常的な掃除などを請け負う。もう一つは5分200円〜の「たすかるサービス」だ。重たい家具や家電の移動、粗大ごみの移動、草むしりなどの家事代行なら5分200円で、大掃除の手伝い、日曜大工、キッチンや浴室のカビとり、簡単なPCサポートなどなら30分2000円〜で引き受ける。
過去5年間での依頼総数は4000件超。特に100円家事代行では、3カ月以内のリピート率が8割を超えている。スタッフが繰り返しユーザーの自宅を訪問すると、信頼関係が強固に。結果、相談される困り事の範囲が広がり、「たすかるサービス」の依頼も増えている。
活動区域は、東京の板橋区全域、練馬区全域、清瀬市、新座市、横浜市港南区の一部。そのうち同社の最前線基地といえるのが、板橋区にある高島平団地だ。8500以上の世帯で約1万7000人が密集するマンモス団地であり、65歳以上の居住者が4割を占める超高齢化団地でもある。
依頼は電話で受けつけるが、前掛けがユニフォームのメンバーが「御用を聞きに」団地内を巡回していると、「こんなこと頼める?」と声をかけられることもしばしば。メンバーの顔を知ってもらうため、体操など種々の地域支援活動も行っている。「私たちはハイパーローカルマーケティングと呼んでいます。目指すのは本当の地域密着事業。御用聞きという社名がわからなくても、何かしてくれる前掛けのお兄さんと覚えてもらえるだけで全然構いません」。
事業失敗でお詫び訪問の毎日。
そこで本当の生活者のニーズに触れた
ビジネスアイディア発想のきっかけ
古市氏が「御用聞き」に辿りつくまでには、紆余曲折がある。小さいころから起業家に憧れていた。「ちょうどファミコンが流行り始めた頃でしたけど、ファミコンて楽しい、と思う以上に、これを最初に考えた人はすごいなと思う子どもでした。今もそうですが、私はゼロからイチを生み出す、ということに強烈な欲求を持っています」。
2001年、不動産会社に就職した古市氏だが、入社した年の年末に退職して独立を果たす。不動産仲介業を手がけ、UR(独立行政法人都市再生機構)をクライアントに大きな成功を収めた。しかし、ゼロからイチを生み出す事業ではなかったのだ。そこで2009年、古市氏はインターネットを活用した買い物代行サービスに乗り出す。「買い物難民」の高齢者の買い物を地域の子育てママたちが代行する、というアイデアだった。だが、これに失敗。「原因は、経営者がアホだったということに尽きる」とは古市氏の反省の弁。社員を10名以上雇い、数千万円を費やしたにもかかわらず、集まった会員は100人強。わずか1年で事業を畳んだ。
光明は思わぬところから差し込んだ。心身ともにボロボロになった古市氏が会員たちの自宅をお詫び訪問すると、「まあいいから、ちょっとあの棚の上にある重いもの、とってくれない? お礼はするから」と頼まれたのだ。その後も、似たような依頼が相次いだ。「あの時初めて、机上の空論ではなくて、本当の生活者、本当のニーズに触れたような気がします」。
「御用聞き」こそ、自分の使命。古市氏がそう確信した出来事がある。ある高齢の女性のお宅を訪問すると、ドアが開け放たれていた。インターフォンが壊れており、女性は直し方がわからないと言う。実際は、電池を変えれば済むこと。しかし女性は解決の仕方がわからず、友人が尋ねてくるかもしれないからと、夜もドアを開けて寝ていたのだ。古市氏が電池を交換し、インターフォンが鳴ると、女性は喜び、涙を流した。「これで安心して眠れる」と何度も頭を下げ、代金の300円を古市氏に手渡した。
「このお金をもらった時に、稲妻が落ちたような衝撃が、脊髄を走りました。これこそが、自分の仕事だと思った。高齢者に寄り添い、『生活のささくれ』をとるお手伝い、100円家事代行に命をかけよう、と決意した瞬間でした』
「2025年問題」到来までに
北海道から沖縄までをカバーしたい
将来の展望
こうして2010年から「100円家事代行」に乗り出し、ビジネスモデルを模索してきた同社。当初は、100円家事代行など生活支援サービスを中心としながら、コミュニティカフェの運営や企業相手のコンサル事業などでマネタイズを図っていた。しかし、2015年12月に生活支援サービスに絞り込んだ。
「簡単にいうと、to Bのサービスを辞め、to Cのサービスのみにした、ということです。生活支援サービスだけで利益を出せるモデルを確立させたかった。変数を極限まで絞り込むことで足腰の強い事業を構築したかったのです。」
実際の御用聞きにあたるのは大学生を中心とした35名のスタッフだ。事務所などに常駐させるとコスト高になるため登録制とし、研修を受けたスタッフはそれぞれ自分の都合のいい時間とエリアで御用聞きにあたる。そのため、依頼があればすぐに駆けつけるというわけにはいかないが、だからこそ5分100円からという料金が成立する。
「家事代行業界では、値段が高い代わりに『望みの日時に訪問する』サービスが一般的です。私たちはブルーオーシャン戦略で、その真逆をいく。安価な代わりに、依頼を受けた時点で『スタッフが訪問できるのは○日です』というかたちでマッチングを行います」
「売り上げはまだ優先していません」と古市代表は言う。だが、徹底したコスト削減とシェアードビジネスを組み合わせることで、収益化できるビジネスモデルを確立した手応えを感じている。「ジグゾーパズルでいうと、2016年は正しい1ピースをつくりきった年になりました。これを5ピース、10ピースと、大きくしていくのがこれからのフェーズです」。
2025年には団塊世代が後期高齢者入りする。それまでに、北海道から沖縄までを御用聞きのインフラをどこまでカバーするのかが、御用聞きの挑戦だ。
株式会社御用聞き | |
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代表者:古市 盛久氏 | 設立:2003年(2011年に株式会社御用聞きに社名変更) |
URL:http://www.goyo-kiki.com/ | スタッフ数:35名(登録スタッフ) |
事業内容:高齢者の生活を支援する「100円家事代行」などのサービスを展開 |
当記事の内容は 2017/2/9 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。
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