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忘れ去られつつある正しい刃物の研ぎ方を
出張・講習で再び世に広める
展開している事業の内容・特徴
料理には欠かせない包丁。どの家にもある至って身近な生活用品だが、その正しい研ぎ方をご存じだろうか。昔はどの家庭でもきちんと研いでいたものだが、現在では何年も研がずに使っている人や砥石を持っていないという家庭も珍しくない。切れない刃物で無理に切ろうとするほうがかえって危険だが、刃物は危ないもの、遠ざけるべきものという風潮から、正しい研ぎ方をきちんと教えられる人が減ってきてしまったのだ。
株式会社丁研は、正しい刃物の研ぎかたを伝える個人経営の専門店だ。代表でもあり、研ぎ師でもある大田実さんは刃物を研いで30年以上のキャリアを持つ。包丁はもちろん、機械の刃やハサミなど、あらゆる刃物を研ぐ。仕事場は車の中。道具を積んでスーパーに出店したり、郵送で預かったりした刃物を1日平均20本は研ぐ。
「近くで研いでもらったが切れ味が変わらなかった」と宅配サービスを利用する顧客も多い。家庭用包丁の研ぎ料金は972円。わざわざ梱包して北海道まで送るほどかと初めはためらう客も、見違えるように切れる包丁がすぐに戻ってくるので、リピーターになる。
人に教えることが好きという大田さんは、正しい研ぎかたを教える講座も行なっている。丁研で教える包丁研ぎの特徴は、3種類の砥石を使うこと。最初に荒砥石で研ぎ、中砥石で傷をとって、仕上げ砥石で研ぎによって出た「まくれ」をとる。「手順を踏めば誰にでもできるのですが、まったく研いだ経験がないと難しく感じてしまうんですね」。
2時間で正しい研ぎ方をマスターできる包丁研ぎ講座は人気で、飲食店や食品加工の現場、学校など、あちこちから講座の要望が届くという。講座で教えられる人数には限りがあるため、インターネットを活用して動画や電子書籍など、誰でも気軽に正しい包丁研ぎを学べる仕組みを公開している。
「研ぎ講座には調理師の方が来られたこともあります。自己流で研いでいて、『後輩にも教えてきたけれど、正しい研ぎかたを知りたい』というお話でした。プロでも正しい研ぎ方を知っている人は少ないんですね。でも、切れるようになると楽しいんですよ。あれも切れるんじゃないかと試してみたくなる。ぜひ正しい研ぎかたを知ってほしいですね」
きっかけはカルチャースクールの講師経験。
小さな発見は即実行、仕事の幅を広げる
ビジネスアイディア発想のきっかけ
刃物にかかわるようになったのは偶然だった。高校卒業後は放送芸術学科へ進み、芸能関係の仕事をしたいと舞台設備関係の職を得る。体力や夢と、現実の仕事との折り合いがつかず、職を転々としていたなかで出合ったのが刃物専門店だった。現在、どんな刃物でも対応ができるのはここに腰を落ち着け、経験を積んできたからだ。
独立のきっかけは刃物専門店に勤めていたときに訪れた。カルチャー教室から包丁研ぎの講座に講師を派遣してほしいという要望があり、研ぎ講座の講師を務めることになったのだ。包丁が研げるようになって喜ぶ生徒たちの顔を見て、これは仕事になるのではないかと考えたという。普段から仕事をするなかで正しい研ぎ方をもっと多くの人に伝えたいと思っていたこともあり、独立を決めた。
2008年に独立してすぐ、包丁の研ぎ方を解説したDVDをつくった。制作を担当したのは同時期に起業した仲間。動画をつくってみないかと言われ、DVDなら多くの人に研ぎかたを伝えられると喜んで依頼した。「その人によると、動画は文章の6倍の情報を伝えることができるんだそうです。ですから、ホームページにも動画を多くとり入れています」と大田さん。
人から薦められたことは何でも素直にやってみることにしているそうで、数年前から始めた宅配サービスも、発端はある人に言われた言葉だった。「最近は袋に入れた洗濯物を預かり、クリーニングしたものを送り返すサービスがあるそうだけれど、包丁研ぎでも似たようなことができるんじゃないかと言われたんです」。
さっそく郵便局に相談に行くと、刃物でも包装に気をつければ送れることがわかった。ちょうど全国一律360円で送れるレターパックライトが出た時期で、料金面の課題もクリア。「すぐに郵便局で教わった包装の仕方を動画にしてホームページで紹介し、宅配サービスを始めました。現在では全国から包丁が送られてきます。今日はどこから届いているのかと毎日、楽しみです」
目標は生涯現役で仕事を続けること。
正しく刃物を研げる人が増えるように
将来の展望
刃物を扱うので、ホームページではできるだけ顔や声を出し、素性を明かして安心してもらえるように意識しているという。そんな配慮が喜ばれ、4〜5年前に始めた宅配サービスも順調に伸びてきた。現在の売上比率は出張・出店と宅配がそれぞれ4割ほどになっている。研ぎ講座は残りの2割。ところが、そうした業務内容に疑問を投げかける人もいるという。
「研ぎの仕事もしているので、研ぎ方を教えてしまったら商売に支障がないのかと言われることがあります。けれども、包丁を使う人はどれだけいるでしょうか。また、刃物は包丁だけではありません。たとえば、ハサミ。美容師さんは仕事でハサミを使いますが、毎年、何千人という人が美容師学校を卒業していきます。いくら研ぎかたを教えても私だけでは到底、足りないぐらいです」。
正しく研いだ刃物は切れ味がよく、料理や仕事もはかどる。「もっともっと多くの人に自分で手入れできるようになってほしい」と大田さんは言う。
これまで刃物研ぎ師になりたいと研ぎ方を習いにくる人もいて5〜6人に教えた。しかし、実際にそれを職にできた人は少ない。包丁はすぐに研げるようになるのだが、それ以外の刃物に対応できないのがネックになってしまう。大田さんは馬のひづめを切るカマから、かき氷器の刃まで、どんなものでも対応できる。そこまで幅広く対応できるようになるためにはやはり何年か経験を積む必要があるのだ。
今後はもっと研ぎ講座に力を入れていきたいと語る大田さん。「今の仕事は現役でいられる限り、100歳まででも続けたいですね。いつか海外でも講習会を開いてみたい」。
人が生活する限り刃物は必要で、必然的に研ぎも必要になる。正しい研ぎ方を伝えていくという、大田さんの仕事が終わることはなさそうだ。
株式会社丁研 | |
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代表者:大田 実氏 | 設立:2008年3月 |
URL:http://www.chouken1004.com/ | スタッフ数:1名 |
事業内容:・刃物の研ぎ方講習、出張刃物研ぎ、宅配刃物研ぎ |
当記事の内容は 2016/11/22 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。