- 目次 -
書評サイトでもレビューサイトでもない。
「ビジネス書の要約配信」という新スタイル
展開している事業の内容・特徴
日本国内で年間に発刊される書籍は8万冊以上。ビジネス書というジャンルに限っても、年6000冊もの新刊が生まれている。出版業界の斜陽が叫ばれて久しいが、実は書籍の刊行ペースは年々増大の一途なのである。そんななか、ヘビーな読書家にとっても、自分にフィットする書籍を見極めるのは簡単ではない。
そんな風潮を見越して登場したのが、書籍の要約サービス「flier(フライヤー)」だ。「読書体験を豊かにするディスカバリーサービス」をキャッチフレーズに、月25冊の書籍の内容を要約形式にまとめて配信している。しかし、ビジネス書はECサイトのレビューも多数ポストされているし、雑誌やブログで書評、レビューされる機会も多い。“要約”サイトのストロングポイントはどこにあるのか? 代表の大賀康史氏に聞いた。
「書評がメインとするのは書評者、レビュワーの視点です。引用も多少はありますが、論旨は書評家の視点で綴られます。その点、私たちの“要約”は出版社の許諾を得て書籍の概要、著者の主張をまとめます。いわば、“効率のよい立ち読み”ができるサービスなのです」
実際に要約コンテンツを見てみると、それは6ページにわたるPDFだった。3カ条に集約された「本書の要点」、要約本文、著者情報、要約者のレビューが高密度で展開されている。多少の内容が理解でき、雑誌感覚で読み進められるインタフェースは秀逸。スマホ、タブレットにも対応しており、すき間時間のチェックにも最適な仕様だ。
「要約といえば箇条書きの羅列のように思われるかもしれませんが、私たちが意識しているのは、その本のよさをつかみながら、読み物としても楽しめるクオリティです。スキルの高いライターがまとめた要約を社内の編集スタッフが精査。さらに、出版社の担当者にも最終チェックをいただく。二重三重のチェック体制で質を高めています」
サービスは個人向け・法人向け(有料)に分かれており、個人向けの要約コンテンツは無料・有料の2種類。無料会員が読めるのは固定の無料コンテンツ20冊のみだが、有料会員は月々追加される書籍も含めて約800冊の要約コンテンツすべてが閲覧可能になる。価格は、月額500円のシルバープランが月5冊まで、月額2000円のゴールドプランは無制限で読み放題に。有料会員の人数は非公表だが、スタートから3年で、全体で10万人のユーザーを抱えるまでに成長を遂げている。
出版社とのパートナーシップを確立。
販促キャンペーンでPRの先陣も切る
ビジネスアイディア発想のきっかけ
大賀氏がflierのモデルを発案したのは、前職であるコンサルティング会社に在籍していた頃のこと。本好きの同僚との雑談がヒントになった。
「コンサルタントという仕事柄、日経新聞は毎日隅々まで目をとおし、話題のビジネス書は丹念にチェック。業務においても関連書籍の多読は必須です。そのうえ、私は人生を疑似体験でき、過去の叡知に触れられる読書そのものが大好きでした。プロジェクトの合間に有給休暇を取り、読みたかった本をまとめて読んでいたほどです」
「本を読む時間が絶対的に足りない」――同じような悩みを抱える同僚と話していて、「質の高い要約がネットを通じて提供されるサービスがあればと考えました。この時の同僚が今の共同設立者になりますが、要は自分たちが一番ほしいサービスをつくったということですね。当時flierがあったら、私たち自身がヘビーユーザーになっていたでしょう(笑)」
このアイデアを思いついてから、コンサルティング会社を辞めるまでに1週間ほどというスピード展開。しかし、拙速には陥らなかった。「無料サービスのうえに有料プランを据えるフリーミアムモデル」「出版社の許諾を得て要約をオフィシャルに行う」というスキームは、当初から揺るぎがない。
「Webサービスには、すべて無料で始め、普及期に入って有料化を図るものもあります。しかし、準備段階の検証において、質の高い要約は十分に課金できるという手応えがありました。それは、多忙なビジネスパーソンこそ時間の価値を知っているからです。ビジネスに有用で話題のある書籍が1冊10分で把握でき、購入へとスムーズに進める。そんなサービスには確実にニーズがあります。マネタイズにも自信がありました」
日経BP社、東洋経済新報社など、ビジネス書の大手をはじめ、出版社120社以上と協業し、要約元のビジネス書候補も幅広く確保できるようになった。出版社サイドも要約に理解を示している。刊行前にゲラ刷りを提供してもらい、発売前、または発売日に合わせて要約コンテンツを公開するというオファーも増えているという。
「2015年に大ベストセラーとなった、トマ・ピケティの『21世紀の資本』は、書籍の発売1週間前にflierで要約を公開しました。話題づくりに貢献できたことで、出版社サイドには、要約を“書籍の評判を高める販促ツール”としてご活用いただけるようになっています」
当該ユーザーは国内に200万人!
グローバル展開もすでに視野に
将来の展望
前述したとおり、flierの会員数は10万人超。今後、どれほどの伸びしろがあるのだろうか。大賀氏は、欧米の要約マーケットの現状から国内のニーズを試算し、さらにグローバルな展開も視野に入れている。
「北米を中心に展開している要約サービス『getabstract』は、会員が1000万人以上。北米・欧州との人口比で考えたら、日本国内にも200万人のマーケットがあることが想定できます。日経新聞の購読者が約300万人ですから、情報感度の高いビジネスパーソンの数を200万人程度と見積もっても問題ないでしょう。ユーザーの中には、海外のビジネスモデル、ビジネストレンドをいち早く学びたいというニーズもある。そんな方々に向け、原書の要約を日本語・英語で要約したコンテンツを意欲的にアップしていきます」
現在、海外の出版社5社とも提携。通常なら1年以上はかかる翻訳版を待たずとも、英語スキルがなくとも、世界の最新ビジネストレンドが学べる環境を整備しつつある。
大賀氏が見ているのは、さらにその先だ。日本のビジネス書の要約をアジア圏や欧米に紹介する構想も実現に向かっているという。世界のまだ見ぬ良書を日本のビジネスパーソンに届けるとともに、和製ビジネスナレッジを積極的に海外にアピールしていく――そんな未来像を見据えているのだ。
flierという言葉には「店舗に置かれるチラシ」のほか、「急行列車」「空を自由に飛び回る」という意味もあるという。書籍の販促ツールとして機能するだけではなく、ビジネストレンドをハイスピードで追いかけ、言語の壁すら軽々と飛び越える――flierがもたらす、書籍の新しい存在価値の広がりに期待したい。
株式会社フライヤー | |
---|---|
代表者:大賀 康史氏 | 設立:2013年6月 |
URL:https://www.flierinc.com | スタッフ数:7名 |
事業内容:・ビジネス書、歴史書・科学書など書籍の要約をWebサイト、スマートフォン、タブレットなどから閲覧できるサービス |
当記事の内容は 2016/07/21 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。