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オフィスや店舗の保証金・敷金は30兆円。預り金という眠ったままの資金を流動化させるサービス
展開している事業の内容・特徴
日本国内のオフィス床面積は、1975年から毎年増え続けてきた。そして、この傾向はずっと続くと言われている。しかし、一方で郊外ではシャッターとおりなどと揶揄されるように、借り手の居なくなった商業スペースの空室も目立つ。人口減少社会に突入した日本では今後、店舗やオフィススペースなどがさらに余り始めるだろう。不動産を抱えるオーナーにとって、厳しい時代が到来するというわけだ。
しかし、安易な賃料の引き下げは経営を悪化させるだけで、かといって改装などに大きな投資をするのも怖い。また、2020年の東京五輪に向けて都心部の再開発計画が急ピッチで進行しており、オフィススペースの供給が過剰になる「2019年問題」なども懸念されている。
そうした課題を解決する可能性を秘めたサービスを当稿では紹介したい。賃貸商業スペースの保証金・敷金を半額にするサービス「保証金半額くん」を展開する、株式会社日本商業不動産保証というベンチャーだ。「保証金半額くん」はその名のとおり、賃貸商業スペースを借りる際の保証金・敷金を半額にするというもの。一見、オーナー側にはデメリットとも思えるかもしれないが、実はオーナーにも、そして入居企業にもメリットがあるサービスだ。
その仕組みを解説していこう。まず、通常であれば入居企業は10~12カ月分の家賃を保証金・敷金としてオーナーに預ける。しかし、同社ではこの金額を半分にして、残り半分を日本商業不動産保証が保証する。入居企業は同社に毎年保証額の3%~10%相当額を手数料として支払うが、入居時に必要な資金が大幅に抑えられるというメリットがある。
例えば、月額100万円のオフィスを借りた場合、入居時の保証金として1200万円必要だったところが600万円で済むようになる。特に年々成長を続け、社員や必要なオフィススペースが倍々で増えているようなベンチャー企業の場合、オフィス入居時の初期資金が大幅に抑えられるというのは大きなメリット。浮いた分の資金を、成長投資に振り向けられるからだ。
一方のオーナーにとってのメリットはこうだ。まず、保証金・敷金は預かるだけで、自由に使ったり、投資に回せたりする性質の資金ではない。本来は入居企業が賃料を払えなくなるなどのトラブルに備えるためのお金だが、それを第三者が保証してくれるのであれば、預かる必要性はない。また、新築ピカピカの最新オフィスビルでもない限り、どこも賃料やスペックに大差がないため、借りてもらうための打ち手に欠けていた。そこで「保証金・敷金が半額でOK」となれば、入居企業を集める際の大きな差別化になるというわけだ。
同社を起業した豊岡順也氏によれば、2011年9月にサービスを開始して以降、最初の数年はサービス自体を理解してもらうことに苦労したそうだが、最近では年60件ペースで契約は増加。これまで累計200件の契約を獲得している。
同社が扱っている事例では、起業から数年で300名以上の社員を抱えるなど急成長を遂げ、500坪のオフィスを借りたベンチャーもあるという。また、半年で社員が倍増し、オフィスを移転したようなベンチャーも珍しくないという。
大手ファーストフードチェーンの財務分析で思いついた保証金ビジネスの可能性
ビジネスアイディア発想のきっかけ
豊岡氏は大学卒業後、国際証券(現三菱ナハマモルガンスタンレー証券)に入社。主に富裕層向けの資産運用業務に従事した後、家業である鞄の卸売会社の経営を任されることになる。そして、経営を続けるうちに新しいビジネスを模索するようになり、上場企業との合弁で、企業の財務分析やコンサルティング、格付を行う新会社を設立した。
某大手ファーストフードチェーンのコンサルティングの仕事を獲得し、財務内容を分析していたところ、資産の3分の1が保証金であることに気づいた。さらに調べていくと、同様に、ほかのチェーン店も多額の保証金・敷金に悩んでいる。豊岡氏は、ここに大きなビジネスチャンスを見いだした。
入居企業の代わりに保証を行う事業を開始すべく、2011年9月に日本商業不動産保証を設立。しかし、ビジネスは順調な滑り出しとはいかなかった。不動産オーナーに理解してもらわなければ成立しないビジネスだが、「保証金を半額しか支払えないような店子はリスクが高い」と断られるケースが続いた。さらには同社が「保証すること」そのものへの嫌悪感やアレルギー的な反応も多かったと、豊岡氏は立ち上げ当初の苦労を振り返る。
しかし、優秀な起業家が率いるベンチャーが急成長するケースが多くなってきたことで、徐々に風向きが変わってきた。そもそも保証金・敷金が必要ということに対して、疑問を持つ若い起業家は多いのだ。多額の資金を保証金・敷金というかたちで死蔵させておくことへの違和感も強かった。特に成長期であれば、資金はいくらあっても足りない。
ある時期を境に、不動産オーナーに対して、「保証金半額くん」で保証金を半額にしたいと持ちかける若手起業家が増えていった。そんな利用者側からの声が大きくなるにつれ、不動産会社なども同社のサービスを利用するようになり、「保証金半額くん」の認知が広がり始めたのだ。
大手不動産会社で採用された実績などが、同サービスの信頼感をさらにふくらませていく。また、福岡市と連携し、市内で創業するベンチャー支援策の一つとして、「保証金半額くん」が採用されたり、日本政策金融公庫など金融機関との連携もスタートしている。
ちなみに、同社の設立にあたっては、数名の上場企業オーナーが個人投資家として資本参画している。
日本で一番の保証会社になり、その後はアジアで一番の保証会社へ! 金融業の本質に立ち戻り、本業を助けるサービスを
将来の展望
豊岡氏に今後の展望を伺ったところ、まずは信用度の向上を第一に、「保証金半額くん」を社会のスタンダードにすることが急務と語ってくれた。最終的には保証金や敷金という慣行をなくす役割を果たしたいのだという。2020年までに東証1部上場を目指す構えで、日本で一番の保証会社になること、その後はアジアで一番の保証会社になるという大きな目標も掲げている。
日本国内にある賃貸商業スペースの保証金・敷金は30兆円といわれている。そのうち首都圏だけでも10兆円という巨大マーケットが眠ったままなのである。
豊岡氏は、「本業を助けない金融ビジネスはやらない」と語る。確かに、本来の金融業とはビジネス成長を助けるサービスである。そうした実業にそった金融ビジネス以外はやらないというのが豊岡氏の考えだ。
「昨今の金融業は実業から乖離しており、マネーゲーム的な様相を呈しています。我々は、金融業の本質に立ち戻り、金融資本主義ではなく産業資本主義を目指したいと思っています」
豊岡氏が率いる日本商業不動産保証が、次代の新たな金融ビジネスをかたちにしていくプロセスを、期待して見守りたい。
株式会社日本商業不動産保証 | |
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代表者:豊岡 順也氏 | 設立:2011年9月 |
URL:http://www.hangakukun.jp/ | スタッフ数:12名 |
事業内容: ・信用保証業務 ・イベント、セールスプロモーションの企画および実施 ・賃貸商業スペースの入居企業募集に関する情報の収集および提供 ・上記に関わる附帯業務 |
当記事の内容は 2016/03/24 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。