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革新的入力デバイスや、人間の皮膚感覚をもつロボット実現も!?さまざまな可能性を秘める触覚センサ「ショッカキューブ/ショッカクチップ」。
展開している事業の内容・特徴
IT技術とロボティクス技術の融合である、IRT技術。少子高齢化社会に対してのソリューションとして現在研究が進んでおり、人に代わって労働を務めるサービスロボットの発展に寄与すると注目されている。
しかし、小型化など課題も多く、特に人間の五感を再現する「五感センサ」技術の開発は発展途上だ。現在もっとも研究が進んでいるのが視覚センサで、他「触覚」、「嗅覚」、「聴覚」、「臭覚」を担うセンサは黎明期であるという。その中でも、視覚に次ぎ重要視されるのが触覚センサだが、まだ市場が立ち上がっていないこの分野にフォーカスし、いち早く事業を展開しているベンチャーがいる。それが、タッチエンス株式会社だ。
同社は、佐竹製作所、東京大学、日本政策金融公庫の産学官連携型のベンチャーである。佐竹製作所のセンサ事業が基盤となっており、東京大学大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻の稲葉雅幸教授が開発した「柔軟触覚センサ」、同大大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻の下山勲教授が開発した「MEMSを活用した小型・高感度センサ」を移転。日本政策金融公庫からの資金サポートを得て、2011年に設立した。その翌年、自社初開発の触覚センサである「ショッカクキューブ™」や「ショッカクチップ™」等を開発し、現在に至る。
ショッカクキューブは、スポンジ素材の“やわらかさ”を持ち、三次元方向の変異検出が可能な世界初の柔軟触覚センサである。センサ自体が可変性に優れるため、柔軟なものに埋め込むことが可能で、自然の手触りを実現。さらに“ねじり”や“つまみ”、“すべり”といった行為の検出が可能なことから、例えばコントローラに採用すれば新しい入力や、医療用ベッドに採用すればベッド表面のやわらかさを維持したまま患者の姿勢や動きの検知することができる。さらに、自動車のシート、触覚を鍛える小児用教材、ロボット用など、適用用途は幅広い。
次に、既存の触覚センサでは満足いく検出ができなかった、せん断力の高感度検知を実現する3軸触覚センサがショッカクチップである。最小タイプはφ5.5×3.0㎜と小型で、内蔵されているMEMSチップは厚み600μmと極めて薄い。この小ささと薄さから、ロボットの指先に複数適用することも、また指の曲面といった可動性が強い部分にも適用できる。ロボットハンドに埋め込むと、そのせん断力の高感度検知から、人間の皮膚のような感覚で物体の重みを把握することができるようになる。例えば、コップに何も入っていない状態と水が入っている状態では、その手の力の入れ具合が異なるように、状況に応じて最適な持ち方の調整が可能だ。ショッカクチップもショッカクキューブ同様、その適用用途は広く、ゲーム機やスマホのヒューマンマシンインタフェース、自動車のタイヤでの摩擦力測定や、スポーツシューズでの選手のパフォーマンス解析など、さまざまな分野に適用できる。
もともと両センサは、サービスロボット用をターゲットとして開発された。しかし、現在、市場はまだ成長前夜であるため、実績事例としては、今少しずつ増えつつあるところだという。その一方で、引き合いが増えているのが「エンタメ産業」と「自動車産業」だ。エンタメでは、ゲーム機など、常に新しいインタフェースを求める、ゲームや玩具メーカー、パチンコメーカーからの引き合いが特に多い。自動車においても同様であり、例えば自動スリップ防止システムなど、次世代インタフェースを実現するためのセンサとして注目されている。
リーマンショックからの起死回生の一手!産学官連携で磐石な基盤を築きつつ、スピーディーな事業展開を実施。
ビジネスアイディア発想のきっかけ
タッチエンスの母体となる佐竹製作所は、もうすぐ創業80年を迎える老舗金属部品メーカーである。さまざまな機器を支えてきた下請け製造業メーカーが、先端技術であるセンサ技術の開発を事業にして分社化、現在のタッチエンスに至るとなると少々、意外に感じるかもしれないが、そのきっかけは、リーマンショックだった。
下請け製造業であるがゆえ国内製造業の空洞化から成長戦略が描けず、他方、中国進出を見据えてもレッドオーシャンは明らかだった同社。この苦境からの脱却を図る一手として、計画したのが自社の技術・製品の開発だったと、タッチエンス取締役・センサ事業統括の丸山尚哉氏は話す。
丸山氏は、もともとはアメリカの精密光学部品を製造販売するメーカーで勤務していたセールスエンジニア。帰国後は国内上場企業を経て、佐竹製作所に入社した。佐竹製作所のクライアントがその上場企業であった経緯から縁ができ、新規事業戦略の立案を担当してもらいたいと、誘いを受けたそうだ。
「ゆくゆくは起業したいと考えていたので、私にとってもチャンスでした。事業ドメインをセンサ技術にしたきっかけは、既存事業とのシナジーを狙ってです。会社の製造種目内訳の30パーセント以上は産業用ロボットの部品が占めていましたし、当時のロボット市場の拡大予測を見ても、巨大なものでした。センサに定めたのは、サービスロボットが、今後ロボット産業の中で台頭してくるという予測から。それはつまり、必然的に認識・制御技術のニーズも高まるということですから、そこに参入すべきだと考えました」
佐竹製作所の経営が苦戦を強いられる中、センサ事業はその立案から運用まで急ピッチで行われた。2010年初頭のことであった。新規事業に注力するほどの資金はなく、開発人材もいないことから、技術については大学からの購入を検討。そして、先述した東京大学の稲葉雅幸教授と出会った。この産学連携の流れについては、当初他の会社からの技術購入も案にあったという。しかし、丸山氏によれば、同じビジネスという土壌での連携はリスクをはらむとのことで、その反面、大学との連携ではシーズとニーズが合致しており、産学連携を選んだという。さらに、稲葉教授の人柄や、特許済の技術だったことも大きな後押しとなったと話す。
2010年4月、柔軟触覚センサのライセンス契約を締結。事業化からわずか3ヶ月で、ショッカクキューブの開発はスタートした。さらに、半年後の11月には、東京ビックサイトの技術展に出展し、高い評価を獲得した。
また、この時期には、後のショッカクチップへとつながるセンサ技術の売り込みが東京大学TLOからあったそうだ。これがきっかけとなり、日本政策金融公庫から分社化を勧められて、資金融資を受け2011年4月に設立したのがタッチエンスである。その3ヶ月後の7月には、同技術の開発者である下山教授と東京大学IRT研究機構・中井亮仁特任助教授が、非常勤取締役として参画。事業立ち上げから、わずか1年と数ヶ月から強固な布陣を築くに至った。
そこから、同社は2012年に自社特許を出願、2013年には量産ロットおよびカスタムモジュールの受注をスタート。2014年には事業計画のひとつの目標であった海外メーカーとのクロスライセンスも実現し、現在に至る。これまでのセンサの販売ルートについても、同社は広域にネットワークを築いている。触覚センサという新規性に富んだ技術に注目するメディアも多くPRになっているのと、またこれは想定していなかったことだというが、大手商社が販売代理店としても加わっており、企業をはじめ大学等の研究機関を含む打ち合わせはこれまで数百社に上り、商談も上々。売り上げ的にはまだまだと丸山氏は話すが、近年好調を見せる佐竹製作所の全売上の数パーセントを占めているそうだ。
注目を確かなビジネスへ! 市場を限定せず、さまざまな提案を行いながら、触覚センサ市場を拡大させていく。
将来の展望
引き合いの3本柱となる、エンタメ・自動車・ロボット産業に限らず、センサへの注目度は高いため、問い合わせはひっきりなしだという。しかし、そこが今後の課題だとも丸山氏は話す。
「サンプル提供も当社は有料でのご提供ですが好調です。ありがたいことに多岐にわたる分野の方々から、日々問い合わせをいただいています。ただ、すべてが実検討レベルかというと、そうではありません。新規性の高いものですので、どうサービスに落とし込めばいいのか、未知の部分が多くある。今後は受注だけではなく、モジュールの製造販売など、提案も含めた展開をしていきたいと考えていて、その一環で2015年9月から当社のセンサを適用した製品のクラウドファンディングもスタートしました。プロジェクト成立が目的ではなく、情報発信により、例えばもっといい使い方がある、またはこういった使いかも出来るのでは?といった、数多くのアイデアが自然に生まれる環境をつくっていければと考えています。」
このプロジェクトは、「モニサンブル」というもの。本体を揉むと音が出る、なんともユニークな楽器だ。プロジェクト成立には至らなかったそうだが、“トレたま”で紹介されるなど、話題性を十分発揮した。クラウドファンディングは、これからも定期的に実施していくそうで、第2弾、第3弾を計画中とのこと。さらに、近い将来に企画部の設立も予定しており、さまざまな企画に積極的に取り組んでいくそうだ。こういった取り組みに代表されるように、同社は触覚センサを棚に上げるのではなく、いわば大衆化することをミッションにしている。高価なセンサとして販売し、適用された製品も高額になるのではなく、あくまでも安価で誰もがセンサの恩恵を感じられるような市場の創出をめざす。
ちなみにだが、ロボット市場は、NEDOの推計によると、2035年までに急速に拡大し9兆7000億円に達するとのこと。そのうち、サービスロボット市場は5兆4,231億円で、全体の55.9%を占めると予想されている。この市場動向と、触覚センサのさまざまな可能性とを鑑みれば、タッチエンスが見据える市場は限りなく巨大といえる。
タッチエンス株式会社 | |
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取締役兼センター事業統括:丸山 尚哉氏 | 設立:2011年4月 |
URL:http://www.touchence.jp/ | スタッフ数:5名 |
事業内容: ・自社開発の触覚センサ部品およびモジュールの製造・販売等 |
当記事の内容は 2016/01/07 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。