地方創生!補助金に頼らないまちづくり。遊休不動産を活用して地方再生に取り組む「花巻家守舎」

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

全国に広がりを見せている家守(やもり)事業。その新たな担い手として岩手・花巻で駅前リノベーションに挑む若き挑戦者。
展開している事業・特徴

超少子高齢化や生産年齢人口の減少による経済規模の縮小、そして地方経済の疲弊化は、これからの日本にとって重大な課題。第2次安倍改造内閣の目玉の1つとして、地方創生担当大臣の設置は大きな話題にもなった。しかし、地方再生というと行政・補助金頼みという側面も否めない。

そこで今回紹介するのは、地方再生に挑む株式会社花巻家守舎(はなまきやもりしゃ)。

社名にもある「家守(やもり)」という言葉は、聞きなれない方も多いだろう。江戸時代にはその名のとおり「家を守る」という役目をこう呼び、土地や物件を管理する仕事を指していた。東洋大学大学院で客員教授を務め、建築・都市・地域再生プロデューサーである清水義次氏は「現代版家守」を提唱し、家守事業を推進。北九州市など地方都市のまちづくりを支援している。

清水教授が推進する家守事業は、民間・公共の遊休不動産を活用することでエリア価値を向上させるリノベーションまちづくりのことだ。

「敷地に価値なし、エリアに価値あり」という理念を掲げ、同教授が主催する団体が運営するリノベーションスクールには、全国各地から受講者が参加している。同スクールの受講者からは、資本関係はないものの、「家守」という名称を使って団体を立ち上げ、まちづくりに取り組んでいる例がいくつも出てきている。

そのひとつが、今回取材した株式会社花巻家守舎だ。全国各地に広がりを見せている家守事業のひとつで、2015年4月、岩手県花巻市に設立された企業である。清水教授によれば、リノベーションスクール受講者の中でも最速で立ち上がった家守会社だという。

花巻家守舎の主な事業は、JR花巻駅(東北本線)の駅前半径200mエリアのリノベーション(価値の再構築)。花巻駅前エリアには物件数にして約15件、フロアにして20フロアの遊休不動産が存在する(花巻家守舎調べ)。同社は設立趣旨に「チャレンジする大人が集まるまち」を掲げており、駅前エリアに賑わいを取り戻すことを目指している。

同社は遊休不動産のオーナーに働きかけ、テナント募集から入居までサポートするのは基本だが、改装箇所の全体調整や入居した後のテナントに対しても手厚くフォローする。例えば、テナントの利益向上のため、イベントの企画や集客など後方支援もしていくのだ。不動産オーナーが受け取る賃料は少なくとも固定資産税に相当する金額に設定されるが、同社が上げた事業収益が黒字の場合、利益の1/3が支払われる契約になっているためそれ以上の利益を得る可能性も十分にある。入居させて終了というわけではないので、物件の改装費用に対する不動産オーナーの心理的ハードルも下がる。

20151126-1花巻家守舎が手がけてリノベーションした物件第1号が、2015年11月22日にグランドオープンした。歴史を感じさせる4階建てのビルで、今では珍しいガラスブロックも使用されている。これまで長い間1フロアの半分しか使われていなかったが、リノベーションしたことで、1階に飲食店、2階にヨガスタジオが入居した。どちらも花巻市内の20代、30代の若手実業家が運営主体だ。

4階にはコワーキングスペース「co-ba HANAMAKI」がオープンした。co-baは株式会社ツクルバ(東京都渋谷区)が運営する、渋谷を筆頭に全国11か所にある会員制のワーキングスペースで、今回、花巻家守舎が運営オーナーとして加盟したことで岩手初のco-baが誕生した。月額15,000円のネットワーク会員になると、全国のco-baをいつでも利用することができる。「co-ba HANAMAKI」の利用者の中には、地元の議員やフリーランスのアナウンサーもいるという。

ITベンチャーで新規事業を立ち上げ、取締役に就任。清水教授のリノベーションスクールをきっかけに仲間と一緒に地域再生に挑む。
挑戦したきっかけ

花巻家守舎を立ち上げた代表の小友 康広氏は、花巻出身の32才(1983年生まれ)。花巻家守舎の経営以外に、スターティアラボ株式会社(東京都新宿区、以下スターティアラボ)というIT企業で取締役も務めている。

小友 康広氏の実家は110年続く老舗の木材店で、同氏が4代目となる。実業家である祖父や父の影響により、幼少期から企業経営に強い関心を持っていた小友氏は、「大学は海外か東京で学んだほうがよい」という父親の強い勧めにより、高校卒業後に上京し、経営学を学んだ。

2005年に大学を卒業後、ITベンチャーのスターティア株式会社に入社。入社後すぐに新規事業を立ち上げ、4年目には子会社として独立した。それが現在取締役を務めるスターティアラボだ。ちなみにスターティア社自体は2014年2月に東証一部に上場を果たしている。

しかし、2009年に小友氏の父親が病に侵されていることが発覚。このことがきっかけで、スターティアラボの取締役と兼務する形で、実家である小友木材店の専務取締役に就任。2013年に父親が亡くなってからは、小友木材店の代表取締役に就任した。家業を手伝うことになった当初は、スターティアラボに迷惑がかかると退職を申し出た小友氏だったが、場所を問わずに仕事ができるIT企業ならではの文化と、小友氏を高く評価するスターティアラボ側の理解により、東京と岩手で、別々の事業を手掛ける事となった。

20151126-2小友氏の出身地である花巻市の人口は9.9万人。人口減少が進んでいるという以外にも、ビジネスの中心に若い世代があまりいないことが気がかりとなっていた小友氏は、花巻市の行く末に危機感を感じていた。そんななか、2014年に花巻市が主催する家守勉強会に参加。興味がわき、「現代版家守」の実例を学べるリノベーションスクールに参加するため北九州市まで向かった。この行動がきっかけで、小友氏と志を同じくする花巻在住の3人の仲間と出会い、2015年4月花巻家守舎を立ち上げた。創業メンバー4名のうち、小友氏も含む3名は若手の経営者だ。

4名がそれぞれ50万円から100万円の出資金を出し合い、本業のかたわらで花巻家守舎の運営に携わっている。

こうして花巻家守舎も含めて3つの企業で役員を務めることになった小友氏は、 ひと月の1/3を東京で、残り2/3を花巻での事業活動に充てるという多忙な生活を送っている。

リノベーション物件第1号に続き、第2・第3物件も選定済み。ITベンチャーで培った経験・アイデアで花巻に若者を呼び戻す。
将来への展望

20151126-3設立間もない同社だが、2015年11月22日にグランドオープンしたリノベーション物件第1号のオープニングイベントには市内外から100人を超える老若男女が集まり、今後の花巻家守舎の活動に対する関心の高さがうかがえた。イベントではリノベーション物件の内覧も行われたが、すでに第2号、第3号の物件も不動産オーナーとの利用許諾済み、1つは美容院、もう1つは小さな元印刷工場。この印刷工場は市内で活動する大学生や高校生らの学生団体に貸し出されることになっている。

いずれの物件も花巻駅から徒歩数分。現在は人とおりが少ないが、近くにはホテルや公共施設、駐車場もある。花巻家守舎がこのエリアのリノベーションに取り組み、賑わいを取り戻すことができれば、新たにこのまちで何かを始めたい起業家や事業者にとっては好条件の場所だ。花巻に若い世代を呼び戻すきっかけにもなるだろう。

小友氏はこう語る。
「魅力的な地域とは何か?それは魅力的な人、つまりチャレンジする人が集まっている地域だと思っています。花巻駅前のこのエリアをそんな人たちが集まる地域にしていきたい。駅前のホテルは出張で使われることも多い。宿泊者特典として利用できるクーポンを配布するなどしてco-ba HANAMAKIを周知したい。例えばチェックアウトしてから次のアポイントまで時間があれば、立ち寄って仕事をすることもできます。一方で地元企業にはco-baのネットワーク会員のメリットを訴求していきたい。東京出張の際の出張所的に活用できるという利点もありながら、月額利用料は(運営している)花巻家守舎の収入となり、地元に残るお金にもなります。」

東京と岩手で異なる事業に携わる小友氏だが、IT業界で培った経験を活かし、花巻家守舎として仕掛けたいことは山ほどあるようだ。今回の取材で彼が持つリソースとアイデアの一端に触れることができたが、花巻駅前が本当に変わっていくような気がした。家守事業だけでなく、小友氏の事業手腕にも注目していきたい。

株式会社花巻家守舎
代表者:小友 康広氏 設立:2015年4月
URL:https://www.facebook.com/hanamakiyamorisha/ 役員数:3名
事業内容:
・リノベーションによるまちづくり事業、コワーキングスペースの運営

当記事の内容は 2015/12/01 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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