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自分たちでビルドアップできるLLPの可能性は無限大
昨 年スタートした、有限責任事業組合(LLP)制度。全国でもLLPの活用者が増えており、制度の浸透を裏づけているが、一方でまだまだ広がりに乏しく、地 域格差も大きいのが現状だ。どんな人や組織が、どのようにLLPを活用できるのか、またするべきなのか? 制度に詳しい(株)シンクの森祐治CEOに聞い た。今回は前編をお送りする。 |
LLPの「P」=パートナーシップへの認識が高まる
――LLPの現状、可能性からお聞かせください。 |
総論から言えば、「会社」がどちらかといえば物的なものや資産を中心に据えた組織であるのに対して、「組合」のほうは知的財産、情報、人材といったものを ベースにしたパートナーシップ。この「パートナーシップ」という組織、発想が、特にこれからの時代には重要な意味を持つでしょう。
組合を活用 すれば、大きな資金を必要とせずに個々のレベルで起業が行いやすくなります。そのことで“埋もれていた”アイデアが次々に利益を生むビジネスに成長すれ ば、日本経済の至上命題である、産業の構造転換を促すことにもつながるでしょう。“柔軟で使いやすい”LLPがもっと認知され、積極的に活用されることの 意味は非常に大きいと、私は考えています。 |
――改めて、LLPのメリットを。 |
LLPにはご存じのように、構成員課税、有限責任制、内部自治原則という3つの大きな特徴があるのですが、会社に比べて設立コストが少なくて済むことも、 大きなメリットだと思います。加えて、柔軟性が極めて高い。組織の運用形態や事業内容を途中で変更することもできるし、無理だと思ったら止めればいい。 LLPなら清算コストはそれほどかかりません。やりようによっては、「気楽につくって、その組織化のメリットを最大限享受できる」のです。こんなにポジ ティブな事業形態は、他にありません。
この5月からの「新会社法」で、株式会社の資本金下限が撤廃されます。“1円起業”が特例ではなくなる わけですが、登記の費用や運用コストはそれなりにかかります。あえて株式会社化する必要のない事業だったら、運用コストが少なくて済むLLPのほうが、明 らかに有利でしょう。 例えば、任意組合だったら登記費用も必要ありません。私は、LLPが普及することにより、他の形態も含めた組合とい う組織に対する理解が広がればいいと思っているのです。あえて言えば、LLPにこだわらず、それぞれの事業やパートナーにあった形を選択する。そういう選 択肢もあるわけです。 |
特にメリットの大きい研究開発型事業
――具体的には、LLPはどのような事業に向いているのでしょうか? |
まだ事例としてはあまりないようですが、研究開発(R&D)型の事業にはメリットが大きいと思います。率直に言って、1社単独でやるR&Dには限界が見え ています。となると、他社や大学、研究機関などとの共同研究ということになるのですが、実際にはうまくいかないケースが多いのです。例えば、いったい誰が リーダーシップを取って、利益配分はどう考えるのか。
R&Dを目的としたLLPをつくれば、こうした点が事前にクリアにできます。R&Dそのものを目的にした組合ですから、開発に向けた高いモチベーションを維持できる。単なる研究委託とは違うクオリティのモノづくりが可能になるのではないでしょうか。 コストを考えても、本体の会社がR&Dのための融資を受けようとするより、R&D組織を独立させたうえで、本体の「保証」を背景にLLPが融資を受けたほうが、有利なのです。 |
――R&Dの幅が広がるわけですね。 |
例えば、自社にない資源が欲しいと思ったときに、それを持つ他社を買収しようというのが、今までの発想。しかし、そうした手段をとらずとも、LLPを活用 すれば欲しい外部資源のみを内部化することができるのです。すなわち、自社の資源と外部資源とでLLPをつくって、R&Dを進めるという発想です。
複数社が知的財産を持ち合うクロスライセンスにおいても、LLPは有効です。この場合、利益配分をどうするか、つまり、それぞれのライセンスをどのように 評価するのかが、よく問題になります。しかし、知的財産をLLPが持つ形にすれば、事前に利益をどう還元するかを明確にすることができます。
また、そのライセンスを使おうとする第3者にとっても、これは大変都合のよい仕組みです。例えば、A社とB社のクロスライセンスによる知的財産を使用する 場合、通常は両者と個別に契約を結ぶ必要がありました。もしLLPがつくられていれば、そことの契約だけで済むのです。第3者だけでなく、ライセンスを広 く売ろうと考えているA社、B社にとってもメリットがあるでしょう。