会社経営に必要な法律 Vol.49 ネット上での中傷に有罪判決。中傷されたときの対処法は?

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
昨今、インター ネットを利用した人権侵犯事件が急増していますが、ホームページ上にラーメンチェーン店を中傷する文章を掲載した会社員が名誉棄損罪に問われた事件につい て、最高裁で有罪が確定しました。そこで、今回はこのニュースを取り上げ、ネットによる名誉棄損について法的に解説し、また、起業家として留意すべき事項 について解説します。

[ニュースの概要]

49-1名 誉棄損罪の成立要件について、個人利用者によるインターネット上の書込みと、新聞や雑誌などの従来の媒体による掲載記事を区別すべきか否かについて争われ ていた事案について、2010年3月15日、最高裁は名誉棄損罪の成立要件に関して、表現媒体による区別はないとする判断を示しました。1審の東京地裁で は、ネット上の表現行為による名誉棄損罪の成立について、新聞や雑誌などよりも制限的な基準で解釈する判断を示し、無罪としました。これに対して、2審の 東京高裁では、1審の判断は被害者保護に欠けるとし、また、インターネットによる表現行為は今後も拡大し、信頼度の向上はますます要請されるなどとして、 名誉棄損罪の成立を認定し、有罪としました。
最高裁は、ネット上の情報について、(1)信頼性が低いとみられるとは限らない。(2)不特定多数が 瞬時に閲覧でき、被害が深刻になりうる。(3)ネット上で反論しても被害が十分に回復されるとは限らない。などの理由を示したうえで、ネット上の表現行為 についても従前の新聞や雑誌などにおける名誉棄損行為と同様の基準を用いて、名誉棄損罪の成立を判断すべきであるとして、高裁判決を支持しました。

 

[法律上の問題]

49-21 名誉棄損罪について

名誉棄損罪は、新聞や雑誌、公開の場所などにおいて、不特定または多数人が認識できる状態で 事実を示すことによって、人(法人を含む)の社会的評価を低下させる行為を処罰するものです。(人の経済的信用の評価については信用棄損罪が、また、示さ れた事実に具体性が欠ける場合には、侮辱罪の成否が問題とされます。)

公然と事実を摘示し、人の名誉を棄損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円 以下の罰金に処する。(刑法230条第1項)

 

2 事実の証明

名 誉棄損罪による名誉の保護に関しては、憲法21条により保護される表現の自由・知る権利との間での調和を図ることが必要とされることから、刑法230条の 2第1項では、示された事実が公共の利害に関するものであり(事実の公共性)、専ら公益を図る目的で示されたこと(目的の公共性)を要件としています。 よって、事実の真実性が証明された時は、名誉棄損として処罰しないことが定められています。

前条(230条)第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認め られる場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。(230条の2第1項)

 

[起業家として留意すべき事項]

1 CGMの急速な拡大

Web2.0 時代を迎えた今日、ホームページだけでなく、blogやtwitter、匿名掲示板など、ネット上のいたるところで個人による書込みがなされています。こ れら個人による書込みは、Consumer Generated Media(CGM)としてメディア化しています。特に、twitterの利用者はここ 1年間で23倍と急増しており、その利用方法も、自治体による利用や企業による商用利用を含め、多様化する様相を見せています。
他方、ネット上の 名誉棄損やプライバシーの侵害にかかわる事件がここ1年で倍増しているという状況があります。最高裁判決でも示されているように、ネット上の誹謗・中傷行 為は、インターネットの有する広域性、速報性、蓄積性などの特性から、回復困難な深刻な被害を生じさせる危険があります。今回の最高裁判決は、今後のネッ ト上の表現行為についての指針となるものと思われます。

 

2 CGMを活用するうえで留意すべき点

起業家の方の中に は、ご自身のビジネスにCGMを活用している方もいらっしゃると思われます。それは大変有効な手法でしょう。ただ、気をつけていただきたいのは、自社のビ ジネスの優良性や優位性を示したいがゆえに、確たる根拠もなく、競業他社を殊さらに批判したり、誹謗・中傷と受け取られるような書込みをネット上ですること は慎むべきということです。
 たとえば、匿名掲示板などに競業他社を誹謗・中傷するような書込みをした場合、書込みした者を特定することは難しい と思われるかもしれません。しかしながら、最近の最高裁の判決で、ドコモやauなどのインターネットへの接続業者についても、プロバイダー責任制限法に基 づく情報開示義務が認められているように、誹謗・中傷などの書込みを行った者は特定されうるものです。同法に基づく情報開示により、誹謗・中傷行為を行っ たことが判明した場合、刑事告訴されたり、あるいは不法行為に基づく損害賠償請求を受けたりする可能性があります。

 

3  ネット上で誹謗・中傷された場合の対処法

一方、ご自身やご自身の会社を誹謗・中傷する書き込みがネット上でなされた場合には、どのように対 処すべきか、検討しなければなりません。ネット上の書込みは、その書き込まれたサイトの性質や、書き込まれた内容などによって、その信用性や影響力が異な ります。問題となる書込みについて、具体的な被害が発生する危険が少ないと判断される場合には、書込みが拡大したり、エスカレートしたりしないか様子を見 ながら、放置するのもひとつの対処法です。
 他方、具体的な被害が発生する危険があると判断される場合は、書込みをした者やサイトの運営者に対し て、プロバイダー責任制限法に基づく削除請求などをすることができます。また、削除請求したにもかかわらず、削除してもらえない場合には、サイトの運営者 に同法に基づく発信者情報の開示を求め、書込みをした発信者を特定したうえで、削除を求める差し止め請求訴訟を提起することができます。ただ、東芝クレー マー事件のように、法的手続きをとることにより、却って被害が拡大してしまうケースもあることから、法的措置を検討する際には、二次的被害の発生可能性に ついても併せて検討することが必要です。

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