出題・解説:羽根 拓也(アクティブラーニングスクール代表)
世の中にはさまざまな商品が出回っている。その中で選ばれるものを出していくことは並大抵のことではない。しかし、それらの中でも確実に人を惹きつけ、ヒットを飛ばすことができる商品がある。何が人を惹きつけるのか?今回は「人に受け入れられる秘訣」について考えてみよう。
4つのお茶がコンビニで売っていたとしよう。
1.「サファレット」
2.「英国茶」
3.「チベット茶」
4.「まぐろ茶」
以上の中で、名前だけから一つの商品を買うとしよう。どの商品を買うだろうか?実際に一つの商品に決めたら、その商品を選んだ理由も考えて欲しい。同時に、選ばなかった商品に対し、選ばなかった理由も考えてみて欲しい。
ま ずは一番「サファレット」だ。この商品を選択した人は少ないはずだ。この商品名の特徴は「新規性」である。サファレットという名前は初めて聞く名前だ。横 文字でなんとなくかっこいい気もするが、飲んで見ようとは思いにくい。なぜか?知っている情報が何もないからだ。どんな味がするのかの検討もつかない。新 しすぎるといってもいい。
人間は情報が入ってきた時、まずその情報を過去の自分の既知の情報と比較する。最低限の既知情報がなければ、そのものを選択するという行為には出にくい。その商品に関して知っている情報があるかないか、つまり「既知性の有無」が、人に受け入れられる最初のカギになる。
二 番目の「英国茶」はどうだろう?多くの人がこれを選んだはずだ。なぜか?それはこの商品名に「既知情報」が多く含まれているからだ。「英国」、「茶」のそ れぞれの情報が、一番目の「サファレット」と違って理解することができる。しかもこの両者の組み合わせが理解度を深めている。「英国」と言えば紅茶のイ メージがある。だからここで「英国」と「茶」とくれば、我々の脳は勝手に「英国紅茶」をさすのだろうと解釈し、「これは安心できる。おいしいに違いな い!」と判断する。これを「属性マッチ」という。もし「英国」の代わりに「米国」という言葉が入っていればどうだろう?「米国茶」にはそれほど惹かれない のではないか?それは「米国」という言葉には、「茶」の属性が入っていないからだ。「英国」、「茶」といった複数の情報が並ぶ時、それぞれの情報が持つ属 性が、意味のある構築をするかどうかが重要になる。「属性マッチの有無」が人に受け入れられるための二つ目のカギになる。
しかし、「英国 茶」を選択しなかった人が少なからずいるはずだ。その人は恐らく三番目の「チベット茶」を選んだのではないだろうか。「英国茶」よりも、「チベット茶」の 方が良いと言う人は何に惹かれたのか?それは「チベット茶」が持つ「新規性」だ。「英国茶」は「既知度」が強い。しかし「既知度」が強ければ強いほど、そ の商品はある弱点を持つことになる。それは「つまらなくなる」ということだ。「英国茶」と言われれば信頼性があるが、逆に言えば面白みに欠けると言える。 それに対して、「チベット茶」には何か独特な魅力が感じられる。「チベット茶」というものをこれまでにコンビニで見たことがない。経験したことが無いから 好奇心が惹かれるのだ。
飲んだことが無いというのなら一番目の「サファレット」も同じではないか?「サファレット」と「チベット茶」の違い は、サファレットが「新規性」しか持たないのに対し、「チベット茶」は「既知性」のある組み合わせが「新規性」を生み出している。ここが最大の違いであ り、人を惹き付ける上でもっとも重要なポイントと言える。「チベット」という言葉が持つ秘境、大自然といったイメージと「茶」のイメージがあっており、これは 体にいいのではないか?おいしいのではないかという独特の魅力を生み出している。既知性を持つ二つの言葉が新しい価値観をうむ時、それは人を惹き付ける力 となりうる。この組み合わせを「アクティブバランス」という。「アクティブバランスの有無」が人に受け入れられるための三つ目のカギになる。
で は、最後の「まぐろ茶」はどうか?これを選んだ人は皆無に違いない。「まぐろ」と「茶」はそれぞれ既知情報である。両者の組み合わせは「チベット茶」同 様、ある種の新規性を生み出している。しかしこれを飲んでみたいという人はまずいない。それは両者の組み合わせが属性マッチをしていないからだ。「まぐ ろ」と「茶」のマッチングのように、両者が互いに足を引っ張り合うような組み合わせとなっている時、これを「ネガティブバランス」と言う。「既知性」のあ る両者が、ただ「新規性」を生み出しているだけではだめなのだ。価値のある「新規性」を生み出すことこそが重要なのだ。
世の中のさまざまな商品を比較してみよう。売れる商品には必ず
「既知性」⇒「アクティブバランス」⇒「新規性」の流れがあるはずだ。ヒット商品を生み出すカギがここにある。起業し、これから自分の商品を世の中に送り出していくにあたって、このことを覚えておけば大きな力となるに違いない。
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【羽根 拓也 プロフィール】 日 本で塾・予備校の講師を勤めた後、1991年渡米。ペンシルバ大学、ハーバード大学等で語学専任講師として活躍。独自の教授法はアメリカでも高い評価を受 け、94年、ハーバード大学より優秀指導賞(Certificate of Distinction in Teaching)受賞。「知識を与える教育」から、「自己成長力を向上させる教育」こそが、世界に求められていると考え、97年に東京に「アクティブ ラーニングスクール」を開校。これまで日本にはなかった「自己成長力」を育成する教育機関として各界より高い評価を得ている。独自の教育理論えおその指導 方法に、有名企業、政府関係機関、教育機関などより指導依頼が絶えない。 |