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特許権は、他人に勝手に中へ足を踏み込ませないための参入障壁。
米国Apple社と韓国Samsung電子社との間だけでなく、IT機器の知的財産権をめぐっては、世界中で知的財産権の争いが行われています。これらの争いは、特許権や意匠権といったアイデア・デザインの参入障壁の正当性や参入障壁に勝手に侵入したのかどうかの争いです。
特許権や意匠権というのは、排他的に発明や意匠を独占できる権利です。仮に、発明者にこのような独占状態を認めなかった場合には、せっかく苦労して生み出した発明がいいものであればあるほど他人に模倣されてしまいます。それでは、発明者は発明を秘密にし、その結果、いい発明であっても社会的に活用されません。このような事態を避けて産業を発展させるため、新規で有用な発明を世の中に提供した代償として特許権が付与されます。
IT機器のような製品は、さまざまなアイデアの塊です。スマートフォンには、数百、数千以上の特許発明が含まれているといわれます。
一方、医薬品ではその構造や製造方法について数個の特許権でも十分な参入障壁を築くことができます。
対象とする製品によって、必要となる特許権の数は異なってきますので、ご自身が取り組もうとする製品分野がどのような構造になっているのか、あらかじめ知っておく必要があります。
特許権切れをうまく利用して後発参入するジェネリック薬品
医薬品といえば、最近、処方箋を取り扱う薬局に行くと、ジェネリック薬品を勧められることがあります。ジェネリック薬品は、先発医薬品と同じ有効成分でも値段が安い、と言われ、ジェネリック薬品がある医薬品については、積極的に選択することが多くなりました。
では、ジェネリック薬品はなぜ安いのでしょうか?
医薬品の開発には、有効成分の特定や人体への安全性の確認などに対して巨額の開発費用と時間がかかると言われています。また、実際に医薬品として製造販売するためには、当局の承認を得る必要があり、そのための準備などにも時間がかかります。
そのため、どうしても高額となってしまい(日本では医療保険制度があるため、個人の負担額はそれでも軽減されています)、新興国では先進国の医薬品メーカーの特許権を認めるかどうか、といった争いも起きています(スイスの製薬会社・ノバルティス社のインドにおける医薬品の特許を巡っての訴訟等)。
ところが、ジェネリック薬品は、その有効性・安全性についてはすでに先発医薬品で確認されていることから、あとは実際にできあがったものが安定しているか、先発医薬品と生物学的に同等であるか、といった試験を実施して基準をクリアできれば製造承認がなされます。
そのため、時間や開発費用を抑えることができ、そのまま医薬品の販売価格も低く抑えることができます。
でも、先発の医薬品は特許権で守られているはずです。なぜ、先発医薬品の特許権が切れるとすぐに後発のメーカーはジェネリック薬品を販売することができるのでしょうか。
医薬品の事前準備はなぜ特許権侵害にならないのか?
医薬品の場合、承認を得られないと製造販売することができません。しかし、承認を得るためにはその医薬品を製造しなければなりません。ところが、特許権が存続しているうちに勝手に製造する行為は、特許権の侵害行為になってしまうように思えます。
でも、特許法は、試験または研究のために特許発明を実施する行為は特許権の侵害にはならないように規定しています。
「試験又は研究がもともと特許に係る物の生産、使用、譲渡等を目的とするものではなく、技術を次の段階に進歩せしめることを目的とするものであり、特許権の効力をこのような実施にまでおよぼしめることは却って技術の進歩を阻害することになるという理由にもとづく。」(工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第19版〕)
(でも、試験又は研究の結果、生産された物を業として販売する等の行為は、特許権を侵害することになってしまいます。)
そのため、特許権切れを前に、試験又は研究によって後追いができるよう準備して承認申請することができれば、特許権が切れたあとにすぐにでも市場に参入することができるようになるのです。
合法的に既存の他社特許権を利用して商品開発時間を節約する
このような特許権の利用は医薬品に限りません。
「リバースエンジニアリング」という言葉があります。
これは、製品を分解、あるいは解析して、その仕組みや仕様、目的、構成部品、要素技術などを明らかにすることを指します。
何のためにこのようなことをするのか、といえば、まさに、「試験又は研究」のためです。
売れている競合他社製品を試験又は研究することによって、競合他社の製品よりもいいものを安く提供できるかもしれません。互換性のある製品を作るために行うこともこれに含まれます。
ハードウェアだけでなくソフトウェアにもリバースエンジニアリングがあります。ソフトウェアの場合には、セキュリティホールやバグの確認のために行われることもあり、その対策品を売り出すことによって、システム保守やセキュリティ強化の面で役立つこともあります。
いいもの、売れているものには仕掛けがあり、その仕掛けは製品を見ただけではわかりません。リバースエンジニアリングを徹底的に行うことで、明らかになる情報があります。
もちろん、先発品のノウハウを含めたすべてが明らかになるわけではなく、また、まだ存続している特許権を侵害することはできません。
でも、得られた情報を利用してさらにいいものを目指すことは、0から始めるよりもずっと時間・コストを節約できます。
権利侵害にならないように先行特許発明をうまく利用して商品づくりに生かしてみませんか。